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世界樹の夢 ―2―

「と、まぁ……これがこの国に伝わる世界樹の物語だ」 物語を語り終え、ユミルさんは大きく息を吐いた。 「その王様の子孫がリヒトとリナーシア様?」 「はい。世界樹様はお言葉通り、私たちを見守り、加護を与えてくれました」 リナーシア様はとても嬉しそうに答えてくれる。 リヒトもマーニャさんも大きく頷いている。 一人ユミルさんは険しい顔をして、話を続けてくれた。 「この物語は教会が信仰を集めるために美談に作り上げたものだ。真実は違う」 「どう言うことだ?王族にも伝わる話だぞ?」 リヒトは初めて見る、不機嫌な顔でユミルさんを睨んだ。 「あまり気分の良い話じゃない………聞くか?聞きたくなければ席を外せ。俺だってできれば、お前の夢を壊したくない」 リヒトの夢?何だろう?リヒトは少し戸惑ったようだった。 「……いや、いい……聞かせてくれ」 リヒトの言葉を合図に、ユミルさんは語り始めた。 ラスタリア教国を見守る世界樹の真実の物語を……。 ――――――――――――――――― 昔、ラスタリアは陸続きに他国に囲まれた小さな国だった。 常に他国からの侵略に怯え、国民の心は荒んでいた。 ある日、ラスタリアの片田舎で一人の少女が保護された。 違う世界からやってきたと言う少女はいつも怯えた目で心を閉ざしていたが、献身的に世話をする村の青年と恋をした。 やがて結婚をして子供を授かり、ささやかながら、幸せな生活を送っていた。 異世界からやってきた少女は不思議な力を持っていて……どんな傷でも、どんな病でも治癒することができた。 それは人にだけではなく、荒れた土地に生命を宿し、汚染された水を浄化する。 少女の力で村は豊かになった。 しかし、どんな場所にも良くない奴はいるもので、少女の存在は国の知るところとなった。 王族と教会が、そんな少女を見逃すはずもなく、夫と子供から引き離し城へ幽閉した。 少女を一目みて気に入った王と、力を欲した教会の思惑は一致して、暴力と凌辱で少女を支配した。 夫と子供を人質に力を要求され、色欲に囚われた王から受ける毎夜の性行為の中で、少女は王の子を身籠った。 産まれた双子、愛せる筈もないと思っていたが、あどけない笑顔に追い詰められていた少女は癒された。 しかしその子どもたちですら教会にとっては良い恐喝材料でしかなかった。 少女の力はいつしか他国にも知られ、ラスタリアは目をつけられた。 攻めこまれれば、一貫の終わり。 少女を敵国へ売ることを考えた教会だが、少女に狂気的な程溺れた王は首を縦には振らなかった。 それならばと、教会は彼女の子ども達を他国に売ろうとした。 唯一の心の支えを奪われそうになった彼女は、連れていかれてなるものかと、怒り狂い、力を暴走させる。 大地は切り裂かれ、外界との接触は絶たれた。 そうして彼女はその身を樹木に変えた。 この国を怒りながら、恨みながら、それでも愛しい夫と子供を、子ども達を見守る為に、大きな大きな世界樹となった。 しかし姿を変えても教会の支配からは逃げ出せなかった。 彼女を失い、魂の抜け落ちた王は教会の操り人形と化した。 教会は全ての権力を手中に納め、子どもを使って世界樹の加護を搾取し……教会の力は強大になっていった。 子供の幸せをひたすらに願う、母親の心を利用し続けながら。

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