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郷愁―1―
「あ~どこから話したもんか……ユーイチの世界では20年前って言ったか?」
「うん、大体ね…18とか19年くらい前かな」
俺はまだ熊肉と戦っている。
どうしてもあの時の姿が頭をちらついて食べづらい。
「え?あの時10才越えてたのか?6~7ぐらいかと……」
横目で睨むとスマン、スマンと謝られる。
「また話がそれたな……実はこっちの世界では4、5年くらい前の事なんだ」
ユミルさんちっとも変わってないなと思ったけど……だからか。
時間の流れが違うんだな~。不思議。
「4、5年前と言うと世界樹様のお声が小さくなってきた頃ですか?」
「確かお前が調べたい事があると言って、王宮を留守にしていた時か…」
リナーシア様もリヒトも覚えがあるみたいだ。
世界樹の力が弱まった時……。
「あぁ……あの時俺は、世界樹に直接願い事をされてな。異世界にとんでいた」
「世界樹様の願い事ですか!?直接!?」
「お前は世界樹様と話が出来るのか!?」
「異世界にとんだって帰る方法あるの!?」
「まぁ、待て。一つずつ順を追って話す。質問はその後だ。まず俺は…世界樹の最初の子…村の男の子孫だ」
……リヒトとリナーシア様の顔が目に見えて沈んだ。
二人はきっと、本当に愛されていたのはユミルさんだったのかって思ってるんだろう。
そんな事ないと思うけどなぁ。
「教会の奴らは血は絶えたと思ってたみたいで、俺達に監視はついていなかった。それでな。4、5年前のある日、世界樹に言われたんだ。『私はもう長くはもたないでしょう。でも、最期にあなたたちを……子供たちを守りたい。呪縛から解き放ち、自由に生きてほしい。あの方ならきっと力を貸してくれる……私は教会の力が邪魔して動けません。あの方の元へ……』その願いを叶える為に俺は精神だけ異世界にとんだ」
ユミルさんは腰に付けていたポーチ?から何かを取り出した。
「これは……何でしょうか?キレイな飾り…」
見たことの有る物、
「かんざし…ですか?」
垂れ桜の精巧な細工がついたかんざしだった。
「かんざしと言うのか…世界樹、ハルヒメと言う名だったらしいが彼女がこちらに来た時に身に付けていた物らしい」
ハルヒメ……春姫?お姫様だったのか。
「これを頼りに世界樹の力を借りて精神体を彼女の故郷へ飛ばした。本当は体ごと行きたいところだったが、世界樹の力も弱っていたからな。彼女の故郷で俺はあの方と出会った。ユーイチ、お前もよく知っている筈だ……」
俺のよく知っている人?
「俺とお前の出会った場所、そこにいたお前の友人……」
「……あの公園の桜の木?あの桜の木にそんな力があったの?」
この歳になって木が友達って言われると、さすがにイタイな……。
「あの木……サクラと言うのか、お前と同じ名前だな。そのサクラの木は春姫の庭に植えてあったものらしいが春姫はよく会話を楽しんでいたようだ」
お姫様、俺と同じでさみしかったのかな?
「そのサクラの木に交渉をしていたが渋られていてな。向こうも命懸けだし、俺のことも疑っていたようだ。時間はないが焦ってもしょうがないし、気長に交渉していこうと思っていたら……お前がな……」
俺?歯切れの悪いユミルさんに頭を捻る。
……あぁ、あの事件か。
ユミルさんと出逢う切欠になった出来事。
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