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郷愁―2―
「サクラが……どうかしたのか!?」
リヒトの目が光った気がする。
そんなリヒトに睨まれてユミルさんはう~んと頭を掻きながら、話を続けた。
「ユーイチが男に襲われててなぁ……見て見ぬふりも出来ないし助けに入った訳だけど…」
「殺す……地の果てまでも追いかけて殺してやる……」
「魔法は使えずともナイフで刺すくらいはできますわね…」
「サクラ様!お怪我は!?恐ろしかったでしょうに!!」
俺の為に怒ってくれるのは嬉しいけど…美形がそろって怒ると迫力が凄い……。
「あの……十なん年も前の事だし……落ち着いて?」
「サクラ…出来ることなら私がこの手でお救いしたかった」
リヒトが頬に触れてくるのを華麗にかわし、ユミルさんの横に移動した。
この天然タラシめ……。
「落ち着けリヒト。直ぐに助けたから触れさせてもねぇよ」
「あ……そう言えば、精神体って物に触れるの?あの時、ユミルさん男のこと殴ってたよね?そのあと抱っこも何度かしてもらったし、キス……」
ゴホン。
ユミルさんが咳払いをして俺の腕を肘でつつく。
「余計な事は言わなくていい……それは多分、サクラの木が手助けしてくれたんだと思う。お前の事を友人と呼んでいたからな。」
俺が勝手に友達って呼んでただけなのに、桜の木も俺のこと友人と呼んでくれたのか……嬉しい……自然と顔がにやけてしまう。
「世界樹様にとってもサクラにとっても、そのサクラの木という木はとても特別な木なのですね」
リヒトと目が合うとリヒトはそういって笑った。
「それから、サクラの木と取引を交わしてからこちらの世界に戻ってきた。そして数年たって現れたのがユーイチだった」
頭をぐしゃぐしゃかき混ぜられる。
ユミルさんのクセなのかな?
「ユミルさんは画家さんかと思ってた…」
「絵か……ハルヒメがサクラの木に会いたがっていたようだったからな、絵を描いていけば少しは喜ぶかと思ったんだが……思いきり笑われたよ。俺は画家にはむかなかったようだ」
俺の辛酸をなめるような6年ってなんだったんだろう……。
でも、ユミルさんと会えたし。
こんな状況なのに……あれもいい思い出だよって笑える気がする。
こっちに来てまだ1日しかたってないけど……濃厚過ぎて遠い過去みたいだ。
残っていた熊スープを一口づつリヒトに『あ~ん』されて……こんなことなら悩んでないでさっさと食べておくんだったと、後悔しながら本日の夕食は終了した。
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