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萌ゆる森―3―
あの時背にしていた木……なんだと思う。
その木は、まるで絵の具で色を塗ったように色彩を放っていた。
周りの木はみな同じように、グレーな幹や葉を持っているのに対し、茶色の幹に青々とした葉を茂らせ、黄色い果実を撓わに実らせていた。
そしてその木の根元には赤い実のなった茂みがある。
これは……『あなたのファーストキスはレモン味?イチゴ味?』
「初めてじゃねぇしっ!!」
「何だ?いきなり…」
いきなり大声を出した、俺にユミルさんもリヒトも目を丸くした。
「何でも無い……」
「しかし……見た事の無い果物だな……食べられるのか?」
レモンの様な実を手に持ってしげしげと眺めている。
ユミルさんの手より大きく、レモンらしからぬ大きさだ。
「……多分……大きさは全然違うけど見た目は見た事ある……」
「ユーイチの世界の食べ物か……ふ〜ん……とりあえず食べてみるか?」
ユミルさんはレモン?を、リヒトはイチゴの様な手のひら大の実を摘み取って、一口かじった。
……正体不明なモノをよく口に入れられるな、この二人。
「ぅわっ!!酸っぱいなこれは……香りは良いがこのまま食べるのはつらい……」
「こっちは甘酸っぱくて美味しい……」
リヒトの言葉に、ユミルさんもイチゴもどきを食べながらニヤニヤ俺を見てくる。
「何……?言いたい事があるなら言ってよ……」
「いやぁ〜リヒトのキスは甘酸っぱかったのかぁと思っただけだ」
しっかり聞いてたんじゃないか!!
しかもなんとなくバレてるし!!
「はっきり言い過ぎ!!ユミルさんのバカっ!!」
この木以外に変わったところが無いかと、ユミルさんとリヒトが少し離れたところで、茂みの中に消えたり現れたりするのを『もぐらたたき』みたいだとぼんやり眺めていた。
……………チロリ。
「ひゃっ!?」
背後から首筋をいきなり舐められて、慌てて振り返るとモンスター級の蛇が鎌首をもたげて、長い舌をチロチロ出し入れしながらこちらの様子を伺っている。
俺は蛇に睨まれた蛙のように身動きとれずに固まっていた。
「ひっ!!」
俺の体に蛇が巻き付いてくる……逃げなきゃ……助けを呼ばなきゃ……。
「っあ………」
ギシギシと体が軋んで肺を圧迫してくる。
「リ…ヒ……ふっ……」
声が出ない。
助けて………リヒト。
目の前にリヒトの顔が迫った。
見たことない鋭い顔にゾクリとする。
風が頬を掠めて……。
ボトリと蛇の頭が地面に落ちた。
「かはッ!」
「大丈夫か!?サクラ!!」
肺の圧迫が無くなり急に入り込んだ空気にまだ呼吸が整わない。
「申し訳ありません。私がついていながらサクラを危険なめにあわせてしまって……」
膝をついていた俺を引き起こしてくれるリヒトの顔はいつもの柔らかいものでホッとする。
「ううん、助けてくれて……ありがと……」
「ユーイチ大丈夫か?すまん。リヒトと二人のときは必要なかったから、防御壁張るの忘れてた。しかし、じっとしてて正解だぞ。コイツらは暴れれば暴れる程締め付けてくるからな」
ユミルさんの言葉に背筋が冷えた。
「これだけ大きいと食べがいがありそうだ」
「あ……やっぱり食べるんだ……」
レモンもどきとイチゴもどきも収穫して。
洞窟へと向かった。
洞窟の入口でマーニャさんが手を振りながら何か大声で言っている。
「見てください!!昨日サクラ様がお座りになっていた岩!!岩塩に変わってます!!サクラ様の涙の結晶ですね!!」
なんなのこの羞恥プレイ……いや、周知プレイか?どちらにしろなんて下世話な木なんだ!!
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