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幕間:マーニャは見た

私、リナーシア様にお仕えする、マーニャと申します。 わざわざ教会に管理され力を失った王宮へ入らずとも、私の能力があれば、何処ででも一流としてやっていく自信があります。 それでもこうして、忠誠を誓いお仕えするのには、世界樹様への信仰心、リナーシア様のいとおしさ、そして何より……リヒト王子と近衛騎士として常にお側におられる、ユミル様の姿をお近くで拝見させて頂けるという特典の為。 優しげな笑顔に柔和な物腰で大人びて見えるのに、時々、無邪気な子供のような心を見せる、リヒト王子。 男らしい精悍な顔つきに逞しい体躯、一見怖そうに見えるけれど、優しく頼もしい溢れる父性をもつユミル様。 時折見せるリヒト王子を見つめる目はどこか寂しげで……。 子供らしく王と王妃に甘える事の出来ないリヒト王子が自分を偽ること無く甘えられる唯一の相手であるユミル様……リヒト王子からの真っ直ぐな愛に応えたくとも、身分や王子の幸せを願い素直に応えられないユミル様……。 最近はきな臭い噂の絶えない王宮ですが、私お二人の行く末を見届ける為ならば、命をこの城と共にする事も厭いません。 ……そうずっと思っておりましたのに……。 あの日、あの時、あの瞬間までは……。 あの瞳を始めてみた瞬間、雷が落ちたように体中に電撃が走りました。 この辺りでは見かけない黒い艶のある髪、黒目がちな潤んだ瞳、白い肌に浮かぶ水桃のような唇。 細く長い手足……どれをとっても私の理想そのもの……天使が舞い降りたのです。 頭に生えていらっしゃる木からは世界樹様同等の力を感じますし、光の輪のよう……。 惜しむらくは、今この場にオクスダートという豚野郎と、ドルトフという冴えないヒゲしかいない事。 リヒト王子かユミル様がいてくれれば…。 はっ………!! ヒゲに拘束され無理矢理、豚野郎に暴かれる天使の身体……。 あぁっ!!駄目!!天使が汚れてしまう!!助けてリヒト王子!! ―――私の天使様はとてもお強い方のようで私が妄想している間に二人を沈めておりました。 ―――――――――――――――――― 世界樹様の事で落ち込む私を、さらに地獄へ突き落とそうとする現実。 今私は愛しいリナーシア様と天使様と共に死の谷へと降りて降ります。 お強い、リヒト王子とユミル様ならばと抱いていた期待を打ち砕いていく谷の深さに私の心も打ち砕かれて行きました。 私、初めて絶望を味わいました。 私たちを庇って天使様が、天使様がレッドキャスクベアーの攻撃を受けてしまったのです。 ご自身の体を投げ出し私たちに逃げろと叫ぶ天使様、お助けしたいのに恐怖に震える体は動かず、世界樹様に祈る事しか出来ませんでした。 その時です。 私の祈りが通じたのか、天使様の光の輪が輝き始めました、そしてその光に導かれる様に現れたのは……。 あぁ世界樹様!! ありがとうございます!! リヒト王子が現れレッドキャスクベアーを一閃の元に伏したのです。 すぐにリヒト王子は、天使様のお力を理解したようで、天使様の光の輪から一枚の葉を取ると、天使様の傷を癒して差し上げておりました。 リヒト王子は天使様を宝物を見つけた子供のように、マントでくるんで抱き締めておりました。 その後に続いてきた、ユミル様の目から隠すように……。 リヒト王子……王子はやめてくれと言われましたので、リヒト様とユミル様が二人で……二人きりで拠点にしていらした洞窟へと案内されました。 天使様を見つめ続ける、リヒト様をもっと観察していたかったのですが、リナーシア様も目覚め、私は私の仕事を全うせねばといつも以上のスピードで家事をこなしました。 天使様がお目覚めになって、リヒト様とのファーストコンタクトを見逃す訳には参りませんから!!そんな私を笑うユミル様。 そんな余裕も今のうちですわ。 天使様をご覧になれば、ユミル様とて冷静さを失ってしまうことでしょう。 あっ!あっ!なんて事でしょう。 何もわかっていらっしゃらない天使様の手に忠誠の証を与え、呼び捨てを強要するなんて………いつものリヒト様からは考えられないような強引さ……。 私、辛抱たまらず飛び出してしまいました。 もっと堪能しておけば良かったと、後悔。 ですが、さすがはユミル様です。出来る男は違います。 天使様とすでにお知り合いでしたようで、天使様からの信頼を一気に掠め取って行きました。 天使様の光の輪に口付けを落とし天使様の咲かせた花を食して、お前を食ってやるアピール。 さすが元祖攻めは一味も二味も違うな………。 リヒト様は嫉妬の余り魔法を暴発させてしまったご様子。 にこやかに取り繕っておりますが、余裕の無さが見え見えでございます。 ……来た。 ……ついに来たぁ!! 私の理想のトライアングルがここに完成!! ――――――――――――――――――――――― 私、この世にこんな美しい物があるのかと感動致しております。 世界樹様の最期をお知らせする薄紅色に光る花吹雪のなか、静かに口付けを交わす天使様とリヒト様……。 我が人生に一片の悔いもございませんでした……。

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