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銷魂の王子―1―
食後の運動に俺は一人で散歩をしていた。
と、言っても皆から見える範囲だけど。
今日はユミルさんが広範囲に防御壁を張ってくれたし、木を切り開いてくれたから迷子になる心配もない。
前の世界で引き込もっていたとはいえ、テレビもネットもない洞窟の中は退屈なのだ。
一人で外に出ると命の危険があるので、こうやって一人で歩きまわれるのが嬉しい。
モユルが生やしてくれた、草の匂いを胸いっぱいに吸い込む。
色があるだけでこの場所だけ明るくなった気がする。
短い散歩に満足して戻ると、皆から生温かい目で見られた。
「長時間、防御壁を張り続けるのは難しいが……今度、魔獣防止用の柵でも作って見るかって話をしてたんだよ。少しはユーイチも自由に外遊び出来る様になるだろう」
外遊びって子供かよ。
でも少しの範囲でも自由に出来るのは魅力だよなぁ。
「外遊び云々はともかく、外に出られる様になるなら嬉しいな」
「サクラが望むのなら、すぐにでも作りましょう。他には?何でも仰って下さいね」
「……うん。ありがとう……」
二人の顔をまっすぐ見れないのは、マーニャさんの言葉に存分に引っ張られているせいだ。
本当に余計な事を……。
『パパは、精神的にはユミル様、肉体的にはリヒト様』
モユルが俺の事を『ママ』等と呼んだせいだ。
リヒトとユミルさんとマーニャさんが柵を作ってくれている。
カーン、カーンと斧の音が響き渡る……事も無くリヒトが風魔法で一発スパッと切り倒して行く。
カマイタチの様なものだろうか……切れ味良さそう……。
マーニャさんがスパスパと木材に加工して、ユミルさんが強化魔法をかけて、ハンマーで打ち込んでいく。
王宮住まいとは思えぬ手際の良さである。
俺も手伝いを申し出たが断られた。
「サクラが見てくれていると思うといつも以上の力が出せそうです」
リヒトに切り株の上に運ばれたので、おとなしくみんなの作業を眺めている。
手伝いたいが、あの中に俺の仕事は無さそうだ。
むしろ邪魔になるだけだろう。
あのハンマーもマーニャさんお手製か。
俺も何か道具を作ってもらおうかな。
俺は何が出来るかな……?
早々に丸太の加工を終えたマーニャさんに打診してみた。
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