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銷魂の王子―3―

マーニャさんの自信作はルマンダスネークの唐揚げだった。 唐揚げというより素揚げ。 俺を絞め殺そうとしたあの蛇………。 あの模様が見えたりしたらツラかっただろうけど、皮も取ってくれているし、食べやすく調理された唐揚げは鶏肉の様で美味しかった。 油はレッドキャスクベアーの脂を取っておいたものらしい。 「リヒトと二人の時は魔法で焼いて食うだけだったからなぁ。本当にマーニャがいてくれるおかげで食事が楽しみになったよ」 確かに、こんな無人島の様な場所で唐揚げまで食べれるなんて、結構充実した生活だよね。 デザートのイチゴに取りかかってた俺をユミルさんはニヤニヤしながら見ている。 まだあのネタを引っ張る気かよ。 「リナーシア、今日は何か収穫はあったかい?」 「お兄様のお気に召されるような物は…あ!ヴィブモースが飛び立つのを見ました。羽化したてのようでしたので、もしかしたら…」 「そうか、明日その方向に向かってみよう」 リヒトとリナが今日の収穫について話している。 やはり絵になるよなぁ。 「ヴィブモースですか!?ぜひ見つけてきてください!リヒト様!!」 片付けを始めていた、マーニャさんも興奮して話しに参加している。 「ヴィブモースって何?」 「とても鮮やかな羽を持った蛾で、蛹になる時に大きな繭玉を作るのです。ヴィブモースの繭玉からとれる糸は柔らかく、光沢あってとても人気のある物なんですよ。それがあればサクラ様のお召し物も作って差し上げられますね!」 「ははっ、マーニャは気が早いな。でもサクラの為なら、なんとしても探して来なければなりませんね」 リヒトはまるで絵画から飛び出した王子みたいに……描かれた笑顔のように美しく笑った。 「…………」 なんだろう………胸がチクリと傷んだ。 その胸の痛みの正体はすぐにわかった。 俺の隣で眠るユミルさん、その向こうにはリヒトが寝ている。 もしかしなくても……避けられてるよね? 物腰は相変わらず柔らかいが、どこかよそよそしい。 今日の朝は……変わらなかったよね……昼? リナの話の後からかな? 俺の年齢の話……30歳……12歳……考えてみたけどわからない。 明日になったら……戻ってると良いんだけど……。 俺は明日に希望を託して目を閉じた。

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