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銷魂の王子―4―
「わかった。ユミルさん、行こう」
俺はユミルさんの手を掴んで歩き出した。
「ちょっ!ユーイチ?」
「なんだ?お前ら喧嘩でもしたのか?」
「……喧嘩にもならない。何も言ってくれないし」
日付が変われば、戻っているかもという期待ははずれ、朝ごはんの時もリヒトは他人行儀だった。
気に入らないことがあるならはっきり言ってほしい。
話を聞き出そうと、繭玉探しに一緒についていくと言ったのだが、俺とリナ、二人は守りきれないと断られ、ユミルさんと行動を共にするように言われたところだ。
「痴話喧嘩に、俺を巻き込むなよなぁ」
「痴話喧嘩じゃない!」
「まぁ、大人ぶっちゃいるがあいつもまだまだガキだ、お前が大人になって許してやれ」
許してやれも何も、何が気に入らないかもわからない。
それがわからなきゃ、自分が何をどうすれば良いかもわからないじゃないか……。
「そうむくれるな。モユルも分かりやすく元気がなくなってるぞ」
そういってモユルの幹を撫でている。
あ~、この数日はバタバタしてて悩む暇もなかったのになぁ。
考え事していたらすぐにリヒトがやってきて『大丈夫ですか?』
サクラ、サクラと構われていたから……。
悩むと何処までも下降していく……煩わしい。
ユミルさんの後を悶々としながらついていく。
川に出た。
結構な流れの川で、流されれば俺なんて助からないだろうな……。
流されれば、俺がいなくなれば……リヒトの悩みも消えるだろうか……めんどくさいことも……全て……。
「ユーイチ!!」
川に引き込まれそうになって……ユミルさんに腕を引っ張られ、ハッとする。
「あぁ……ごめん。考え事してた」
「全く……お前は変わってないな……自分の死に際など想像するな」
あ……ばれてた。
「最悪の事態を想像しておけば、現実に何が起こっても多少はましに感じるかと思って……」
「最悪の事態より、打開策を考えろよ……まだ実行してないだけマシか?」
ユミルさんは呆れたようにため息をつく。
「勇気がなくて……面目ない事です」
「そんなもんは勇気と言わない!」
デコピンされて、手を繋がれた。
昔も同じように叱ってくれて、優しさで包んでくれた。
嬉しくなって、俺も繋いだ手に力を込める。
「……たくっ。あいつは何を拗ねてるのか知らんが、ボヤボヤしてるなら俺が……そうだ!」
ユミルさんは俺を見て、いたずらを思い付いた子供のようにニヤリと笑う。
すごい、恐いんですけど………。
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