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銷魂の王子―7―
「サクラっ!!」
炎を鎮め、リヒトが助け起こしてくれた。
俺の顔についた土を自分の服で拭ってくれる。
白いし、高そうな服なのに……。
その様子を見て、ユミルさんも傍らに落ちていた剣を拾いあげ鞘に戻した。
「申し訳ありません。お二人の邪魔をしてしまって……」
申し訳なさそうに……悲しそうにリヒトは顔を歪めた。
「ねぇ、リヒト……その事なんだけど、俺がユミルさんを選んだって何?」
俺はいつユミルさんを選んだんだろうか?
「…………モユルという名はユミルから取ったのでしょう?父親はユミルだと……二人の間に私の入る余地などなかったと思い知らされました。なのに……なのにあんな声で私の名を呼ぶなんてサクラは狡い!!」
リヒトは沈痛な面持ちで俺を抱き締めたが、俺は目が点だ。
『モユル』『ユミル』似ていると言われれば似てるが……なにその突飛な発想。
「はははっ!!俺は歳の事でうだうだしてるのかと思ったんだが……くくくっ」
「笑うなっ!俺は真剣に二人の事をっ……!」
俺は叫ぶリヒトの胸を押しやった。
「名前つける時そんな事、何も考えてなかった。て、いうかそもそも俺の子じゃないし、ちっ……父親とか言われても意味わかんないんだけど……」
「は……?あ……失礼致しましたっ!!」
リヒトは自分が勘違いしていたのに気付き、青くなって立ち去ろうとするのをユミルさんが肩を掴んで押しとどめた。
「俺がここまで悪役買ってやったんだ、しっかり話し合っておけ」
「ユミル……」
「しっかり防御壁張っておいたんだが……思いっきりぶっ放しやがって……」
ユミルさんはお腹をさすりながら俺達に背を向けて歩き出した。
「あぁ、この貸しは……これでチャラにしてやるよ」
そう言って振り返り、自分の右手をチロッと舐めてみせた。
「うっさい!エロ親父!!」
ユミルさんは俺の投げた石をあっさりかわし、大声で笑いながら立ち去って行った。
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