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実る愛―1―
『萌』
俺が地面に指で文字を書いて、リヒトは漢字のお勉強中です。
「俺が住んでいた国には『漢字』って言う文字があって。その一文字で色々な意味や音があるんだけど……『萌』って言う字には、草木の芽ばえって言う意味があるんだよ。読み方はホウ、もえ、きざし、もゆる……」
リヒトは理解できたのか、できなかったのか、微妙な顔をしている。
俺も『漢字とは』など説明した事など無いのでどう説明していいのかわからない。
とりあえず、ユミルさんとモユルの名前に関係がない事だけは理解してくれた様だ。
俺とユミルさんはそんな関係ではないと否定しておくと、バツの悪そうな、恥ずかしそうな、どこか嬉しそうな顔をして俺を見た。
「サクラ、サクラ、ふふっ……可愛い、サクラ……」
なんか、悪化して戻ってきたな……。
洞窟に戻るのに、手をガッチリ握られて歩く。
離せというと言うと、俺が諦めるまで歯の浮く様な台詞を吐き続けるので、好きにさせる事にした。
でっかいワンコだと思え……自分に言い聞かせながら無言で歩く。
眉間にシワを寄せる俺の顔を見ながらずっと微笑んでくるのも、ウザイを通り越して恐かった……。
―――――――――――――――――――――――
リヒトに手を引かれ洞窟に戻った、泥まみれの俺の姿を見たマーニャさんは目をキラキラさせて、
「まあぁぁ!こんなに泥だらけになって!!」
何でそんなに嬉しそうなんだろうか……。
とりあえず魔法で身体を奇麗にしてもらう。
奇麗にはなったけど物足りない……そろそろお風呂が恋しい。
お風呂ってあるのかな?
今度お願いしてみよう。
「ユーイチ、ちょっといいか?」
「ユミルさん……」
き…気まずい………が、頷いてユミルさんの後をついて行く。
「はぁ………俺が言うのもなんだが、あんな事された後でホイホイついてくるなよ……」
「……え?あっ!……でも……ユミルさんだし……」
ユミルさんは難しい顔をして頭を掻いていた。
「あいつも苦労しそうだな……まぁいい。ユーイチ、今日は嫌な思いをさせて悪かったな。でもこれでわかっただろう?自分の気持ちが……」
頭を優しく撫でられていつもの優しい手にほっとする。
「俺の気持ち…?」
「いくら雰囲気に飲み込まれても好きでもなきゃあ、抵抗するわな。男同士だし……俺とキスするのは、嫌だったんだろ?」
「ユミルさんがイヤっていうか……父親とキスするみたいでちょっと……」
ユミルさんの事は好きだ。
好きだけどキスとかそういう事をするのは……考えられない。
「リヒトは?嫌がってる様には見えなかったぞ……好きなんだろ?」
「俺が……リヒトを……好き?………えぇ〜っ!?」
言われた言葉を反芻してパニックになる。
「なっ……何言ってんの!?まだ会ったばかりなのに!?それに男同士で好きとか……!!」
「一目惚れだってあるだろ?リヒトはお前と結婚する気だぞ?」
「はぁ!?結婚!?男同士で!?つき合っても無いのに!?」
何言ってんの!?
リヒトが俺を好きだと言ってるのを今更疑う気はない。けど俺の気持ちは!?
「ここは光も届かないディスプワールの谷、常識や国の決まりだって関係ない。自分の中の気持ちに素直になったらどうだ?」
俺がリヒトを好き?好きってあの好き?愛?
「難しく考えるなよ。モユルの方がよくわかってるみたいだぞ……明日畑に行ってみな」
「?………畑?何で?」
次の日、ユミルさんに言われた通り畑に行ってみた。
「…………………」
昨日の事で、少し土が荒れているが特に変わったところは無い。
リヒトとユミルさんの違い………リヒトとキスした時、木に果実が実り、岩は岩塩に変わった。
モユルが俺の心に反応するのだとしたら……俺の心とは……。
俺は何も植わっていない畑を見ながら悶々と行き着く答えを否定していた。
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