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実る愛―3―
「はぁ~凄いな~」
今、俺の中に目の前では、でっかい繭玉が、これまたでかい石鍋で茹でられている。
石鍋と言っても岩壁に大きな横穴をあけて、鍋のように地面をえぐった物だけど。
それを作ったのも、お湯を沸かしているのも、万能魔法使いリヒト様です。
火魔法と土魔法を組み合わせて、焼石を作って湯を沸かしているようだ。
あんなに魔法を使って魔力切れはおこさないのかと心配になったが、妖精の力を使ってるから大丈夫と、メルヘンなお答えが帰ってきた。
柔らかくなった繭玉からマーニャさんが糸を手繰り、手作りの糸車にセットする。
ユミルさんが糸車を回して糸を巻き取っていく。
キラキラとした細い糸がスルスルと巻き取られて行く。
どこでこの技術と知識を手に入れたんだろうか?
「鑑定すると、加工やレシピ等の情報も見ることが出来るんです」
えっへん。
とばかりにリナが胸を張っている。
「いいな~俺もそのスキル欲しいな~」
「駄目です!私の仕事が無くなってしまいます!!」
頬っぺたを膨らませて怒るリナは文句なしに可愛い。
お人形のようだったリナは表情が豊かになりよく笑い、よく怒る。
「リナ、今幸せ?」
突然な俺の質問に、一瞬驚いたがすぐに笑顔で答えてくれた。
「何百、何万倍も幸せですし、毎日楽しいです。サクラさんは?」
「俺も毎日楽しい」
「私も、幸せですよ」
いきなり後ろからリヒトに抱き締められた。
耳に届く柔らかな声がくすぐったい。
何度もリヒトの過多なスキンシップを受けていたが、一度意識してしまうと恥ずかしくて仕方がない。
身をよじって抜け出そうとして、腕の中に引き戻された。
そんな俺たちを見て、リナは「まぁ!」と驚いた声をあげたあと、クスクスと笑っていた。
「後はユミルとマーニャに任せておけば大丈夫なので、少しお付き合いいただけますか?」
俺の返事を待たず、俺の手を引いて歩き出したリヒトの顔が心なしか赤い。
「お兄様、よかったですわね」
手を振って見送ってくれるリナの言うことはよくわからなった。
しばらく歩いた後、昨日みんなが作ってくれた柵の側まで歩いてきた。
「…モユルの言葉はサクラの気持ちと考えてもよろしいのでしょうか?」
柵を向いて俺に背を向けるリヒトの表情は見えない。
「モユルの言葉……?」
俺にモユルの声は聞こえない。
そうかこの兄妹には声が聞こえるんだっけ。
「何か言ってた?」
「…………」
沈黙が怖い。
何を言ってくれたんだろう。
「リヒト?」
そんなに酷い事を言っていたのだろうか?
柵に手をついて下を向いているリヒトの顔を回り込んで覗き込む。
「………っ!?」
あんなにキザな台詞も行動も涼しい顔をしてやってのけるリヒトの顔が真っ赤に染まっていて。
頼りなく下げられた眉も緩む口元を必死に押さえる様に結ばれた唇も全てが新鮮で……かわいかった。
俺の顔も朱に染められて、慌ててリヒトから離れて背を向けた。
「……モユルが……」
リヒトが震えた声で言葉を続ける。
「私の事を……『パパ』と……」
何を勝手に言ってくれとんじゃ〜っ!!
……思わず地に両手をついてしまった。
「私は……サクラに愛されていると自惚れてしまってもよろしいのでしょうか……?」
真っ赤な顔で自信無げに話すリヒトは凶悪にかわいくて、この兄妹の顔は俺にとって凶器となる。
自分の知らぬところで自分の本心をばらされた羞恥で、何か言い訳をせねばと声を出そうとするが口をパクパク動かすしか出来なかった。
「……サクラ」
不安げに横目で俺の様子を伺うリヒト。
つい先程、自分の気持ちに気付いたばかりで整理がつかず俺はリヒトに何も伝えなかった。
真っ直ぐな愛を真っ直ぐにぶつけてくれるリヒトに対して失礼だと思う。
高鳴る心臓を押さえ込む様に、胸元の服を握り込み、決心してリヒトの顔を見る。
……あ、無理だ。
顔を見てなんてハードルが高過ぎた。
リヒトの背中に抱き付き顔を埋める。
「お…俺は、リヒトの事…すっ、好き………かも…」
どうにも締まらないのは、照れ隠しだ。
これぐらいは許して欲しい。
俺の方を向こうとする体を押しとどめる様に、抱きついた手に力を込めた。
すまん……今はコチラを見ないでくれ……きっと、とんでもなく情けない顔をしている。
リヒトの腰に回した俺の腕にリヒトが手を重ねる。
「∞∞∞∞∞∞∞∞∞…」
リヒトの歌う様なつぶやきは俺には聞き取れなかった。
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