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牧歌斉唱―1―
来るんじゃなかった。
俺は今、盛大に後悔している。
昨日リヒトとの、にゃんにゃん現場に何か変化があるかもと来てみたのが間違いだった。
ンモ~。
よし、見なかったことにしよう。
踵を返し洞窟へ向かって歩き出す。
ンモ~~。
脱兎の如く、全力疾走。
ンモ~~~。
「何でついて来るんだよ~~うわっ!!」
草に足をとられ地面にダイブした。
「はぁはぁはぁ………わっ!ちょっ!やめて、舐めないで!!」
顔中ベトベトに舐められた。
「はぁ~もぉ。降参」
俺はついてきたそいつを連れて帰ることにした。
―――――――――――――――――――――
「これは………牛?ですか?白黒、初めて見る色ですが……」
こちらの牛は茶色1色のみらしい。
マーニャさんが何か考え込んでいる。
深く考えなくていいよ……。
「牛…牛………ハッ!…サクラ様の……ミル「マーニャさんっ!!」
もぉ!!
だから連れてくるの嫌だったんだ!
唯一の救いは、俺の癒しのリナが初めて見る牛に夢中で、この場にいないことだ。
「ユーイチのかぁ……旨かったか?リヒト?」
「マーニャもユミルもなにをバカなことを言ってるんだ……」
そうだ、止めさせてくれ。
「サクラはまだ精通は来ていなかった!!」
「お前こそ何を言ってくれてんだっ!!」
リヒトのおしりを思い切り蹴飛ばすも全く利かない。
「はははっ。恥ずかしがるなよ、俺が手伝ってやろうか?」
「いるかっ!!」
「冗談はさておき、ミルクがとれるならまた料理の幅が広がりますね」
冗談じゃないだろ、その鼻血は………。
俺は癒しを求めてその場を離れた。
「リナ、何か面白い事書いてあった?」
「凄いですよ。この子、一年中何時でもミルクを出すことが出来るんです!是非飼いましょう!」
「へ~お前スゴいな~」
ほうほう、モユルは生物の生態すら、変えてしまうのか……。
「飼うならこの子のお家が必要だね。リヒト……一緒に…手伝って…」
振り返ると誰もいない。
「お兄様ったら、張り切って木材を取りに行きましたわ」
「……出来る男は、仕事が早いね……」
小屋をプラモデル感覚で作って行く三人に俺とリナは手を出すことも出来ず、あっという間に出来上がる。
マーニャさんは何故、継手や仕口が出来るのか……それに加え、ユミルさんの強化魔法は接着剤のように木材と木材を繋ぎ合わせている。本当に何者なんだろう……。
「ハナコ、良かったな~みんなにお礼言わなきゃね」
ンモ~~
ハナコはお礼を言うように、一鳴きした。
俺はハナコの体を撫でてやる。本当に良かった。
こんなに人懐っこいのに、今日の夕飯に……なんて言われたらどうしようかと思ってた。
「ハナコと名付けたのですか?」
「うん。立派な小屋を作ってくれて、ありがとうリヒト」
いろいろ考えたけど、モユルの件がトラウマなので無難な名前にした。この世界で無難かどうか知らないが。
「新しい家族がまた増えましたね。どんどん賑やかになっていくと良いですね」
ハナコと遊ぶリナを眺めて嬉しそうに微笑みでいる。
その横顔に何故か心がざわついた。
「リヒトは……家族が増えると…嬉しい?」
「?サクラは嬉しくないですか?」
……確かに。
嬉しいことだよね。
何でこんなこと聞いたんだろ?
「家族が増えるの良いことだよね」
笑ってごまかした。
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