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牧歌斉唱―2―
「ドンドルグース?」
「食用になりますし、何より羽根を使って寝具が作れるので丁度良い獲物ですね」
岩陰から覗く川には、水鳥?が群れている。水鳥なのにくちばしには鋭い歯が並んでいる。
メインとなる肉の在庫が心もとないと、マーニャさんからの依頼で、狩りに来ております。
役に立たないのは重々承知しておりますが……何もしないのは忍びないので無理を言って同行させてもらいました。
ユミルさんが狩りに行くと言うのでついて行こうとしたら、明らかに不機嫌なリヒトに止められ、リヒトと狩りにでる事になった。
「あの大きさだと持って帰れるのは2羽、いやサクラもいるので3羽くらいでしょうか?お待ち下さいね」
ちゃんと俺を戦力にいれてくれたのが嬉しい。
リヒトが標的を決め、睨んだ瞬間。
ドンドルグースが3羽、いきなり倒れた。
群れは驚いて、一斉に飛び立っていった。
「?……何したの?」
「電気を直接体に流して感電させました。水場で電気はどうかと思ったんですけどね」
……俺の為か。
確かに血塗れのモノは持ちたくない。
「さぁ、帰りましょうか。これ以上は持ちきれないでしょうし」
リヒトは片手に1羽づつドンドルグースを軽々と持ち上げ、後1羽は俺の担当なのだが……う…結構重い……。
両手で抱えてやっとだ。
リヒトとの力の差を痛感させられた。
「大丈夫ですか?」
「大丈…夫………」
洞窟までどれぐらい、距離があったっけ…?
ゆっくりなら進めるけど、このスピードだと時間かかりそうだな……。
「……ゴメンね、遅くて」
「その分長く、サクラと二人きりになれるので、私は嬉しいですよ?」
ニコニコと笑うリヒトの顔は本当に嬉しそうに見える。
「あ!ちょっと待って下さい」
リヒトが向かった先の岩の陰に鳥の巣のようなモノがあった。
………………。
結局、ドンドルグースは3羽ともリヒトが持った。
俺はというと、リヒトが見つけたドンドルグースの卵を持ってその後をついて歩いている。
籠を肩から下げて卵を入れているので、両手は空いているのに「卵は割れやすいので、大事に持っていてください」
そういって、ドンドルグースを奪われてしまったが、俺が持つとそれはそれで迷惑がかかるので、甘えておいた。
俺だって、男なのに守られてばかりで嫌になる……。
このままでは『ヒモ』みたい……いや、家事すらしていないから『ヒモ』以下か……。
食べさせて貰って、守って貰って、何かあれば、一番に優先されて……。
そんな価値ないのに……。
モユルか……モユルの力は強大だもんな。
せめて、モユルの苗床として、モユルの力を発動させる条件が俺なのならば皆の望む通りに…………。
……そんな事を考えながら歩いていたせいか、前を歩いていたはずのリヒトの姿はなく、暗い森の中に一人で立っていた。
「リッ!………」
大声をだしかけて、魔獣たちに自分の場所を教えるだけだと、飲み込んだ。
闇雲に歩き回るのも、得策ではないだろうし……。
『みんなの場所に戻りたい!』
………何も起こらない。
薄々気づいてたけど、ユミルは誰かを守りたいという時しか力を貸してくれない。
後はリヒトと触れあっている時……。
「!?」
森の中に女の子が立っていた。
リナよりは上、リヒトぐらいの年だろうか?
金色の髪に赤い瞳………真っ黒なドレスが森に溶け込み、顔だけがくっきりと浮かび上がり、美しい目はつり上げられ、俺を真っ直ぐに睨んでいる。
「誰……?」
答えの代わりに女の子が手をあげた。
瞬間、周囲をいくつもの羽音が響き、猫程の大きさの蜂に囲まれていて、女の子が手を俺に向けて下ろすと、蜂たちが一斉に向かってきた。
全力で逃げ出したが、森の中は歩きづらい上に飛ぶ蜂のスピードに敵うわけもなく、腕に鋭い痛みが走り、地面に転がった。
腕をかすっただけだったが、転んだ拍子に卵を落としてしまい、割れた卵が転がっている。
『大事に持っていてください』
ごめん……卵すら持ち帰る事も出来なかった。
籠に残った卵を抱き締めて向かってくる蜂たちの攻撃に覚悟を決めた、その時……
卵が眩い光を放ち、光の中から大きなクチバシを持つ、銀色の羽を持った大きな鳥が姿を現した。
大きな翼の羽ばたきで風が巻き起こり、身体の割に素早い動きで大きなくちばしで蜂達を噛み砕いていく、あっという間に蜂の群れを殲滅すると大きなくちばしをカタカタカタ……打ち鳴らし大きな音を響かせている。
てっきりドンドルグースの卵だと思っていたのだが、両手で掴めるぐらいの卵からこのサイズ鳥が生まれるとは……この世界はまだまだ俺には理解不能だ。
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