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牧歌斉唱―6―

夕食後の一仕事というには職人のこだわりが光る立派な岩風呂が作られた。 あの鍋で良いと言ったのに「外から丸見えじゃないですか」「こんな深くて溺れたらどうするんですか」と俺の話を元に新たに作ってくれた。 リヒトと脱衣所で服を脱いで浴室に向かう、洗面器も作ってもらったのでかけ湯をして…汚れはマーニャさんに魔法で奇麗にしてもらってるし、石鹸も無いから洗えないのでそのまま入る。 ふわぁ~。 極楽、極楽ってつい言葉がでる。 やっぱりお風呂は良いよね~。 気持ちがほぐれてく気がする。 リヒトも俺にならって同じように湯に浸かっているが、どこかよそよそしい。 「お風呂苦手?嫌なら無理しないで先に上がってて?」 「いえ……そういう訳ではないのですが……」 顔が赤い。 俺は慣れてるけど慣れない人には辛いのかな? 「もう逆上せた?」 リヒトに近づいて、頬に手を伸ばすと思い切り避けられた。 「すっすみません!あまりこういう格好で近くにこられると…」 こういう格好?リヒトの格好を見る。 当然、お風呂なので裸だ。 初めて見るけど、やっぱり筋肉が全然違う。 レッドキャスクベアーからとれた油で作ったランプの仄かな明かりがリヒトの体の陰影を際立たせていて……自分の貧弱な体が、なんだか急に恥ずかしくなってきた。 「もぉ!リヒトが変なこと言うから、こっちまで恥ずかしくなってきたじゃん!」 リヒトに背を向けて距離をとった。 銭湯気分で全く意識していなかったのに! お湯が揺れて、上がるのかと思ったら、リヒトが側まで来ており、抱き締められた。 「鍛練が足りず、申し訳ありません。初めての恋人の裸を見て意識するなと言われても…」 肌と肌の触れあう感触に胸がドキドキしはじめる。 『恋人』……そうか……つ…付き合ってるのか……俺達。 腰にあたる固いモノに自分の貧弱な体を見てリヒトが欲情してくれる事を嬉しく思う……が、これ以上触れあっていると俺のモノも大変な事になり、お風呂から出られなくなってしまう前に立ち上がった。 「ごめん、先に上がるね」 慌てて脱衣所に上がってきたけど、タオルが無いことに今更ながら気がついた。 「タオル無いんだった、どうしよう…」 湯上りに心地よいぐらいの風が吹いて体を乾かしてくれている。 「これで大丈夫ですか?」 リヒトに優しく撫でられているような心地よさに、安らぎを感じて目を閉じる。 風が止んで肩に服をかけられた。 「そんな顔をしないでください。食べてしまいたくなる」 頬に柔らかなキスをひとつ、すでに服を着込んだリヒトに手伝われながら風呂を後にした。 体はほかほかして、心はふわふわしている。 「サクラの姿が可愛すぎて気持ちは落ち着きませんでしたが、体はとてもリラックス出来ました。今日は良く眠れそうです」 湯上りの為かほんのり色づいた頬が可愛いらしくて、リヒトが好きだという気持ちが、日に日に積もっていく。 「また一緒に入ろう?」 「う…頑張ります……」 そんな会話も嬉しくてルンルン気分で風呂場を出た時……。 メェ〜 ふわふわのヒツジが顔を出した。 リヒトと顔を見合わせて「また、家族増えちゃったね」と笑ってから、とりあえずハナコ達と同じ小屋に入ってもらった。 ――――――――――――――――――― ヴィブモースの糸で織った布とドンドルグースの羽毛で出来た俺の布団。 両脇は相変わらずの葉っぱベッド。 俺だけ布団なんて申し訳なくて眠れないと、辞退しようとした。 「この布団の上で激しくむつみあう、お二人の姿を想像しながら丹精込めて織った私の気持ちはどうなるんです!?」 マーニャさんがこれ以上壊れる前にありがたく頂戴した。 でも、この格差は流石に心苦しいので、次は俺の服を作るというマーニャさんに、みんなの布団ができてからにしてくれとお願いした。

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