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君と最後の口付けを:リヒト視点―1―
「どうしてっ!?どうして入れられないのっ!?」
エルザは俺のモノを無理矢理入れようとしては失敗して、金切り声を上げている
「俺はサクラに夫婦の誓いを立てた。お前とはやれない」
「うそよ!うそよっ!!何であんなヤツと!!私たちは結ばれる為に生まれたのよ?」
金色の髪を振り乱し、叫ぶ姿は気の狂った魔女にしか見えない。
「俺はお前の事など愛した事は無い。俺が愛しているのはサクラだけだ」
「私は貴方の為に……貴方の好きな世界樹に近づこうと、世界樹を研究し食べ続けてきたのよ?」
そんな狂気じみた愛など貰っても困る……まさかここまで教会が狂っていたとは……。
こんな奴らに世界樹様は力を奪われ続けていたのに、何も気づかずに自分の運命を悲観ばかりしていたのか。
サクラは無事だろうか……痛いと……パパ助けてと、泣くモユルを見ながら何も出来なかった。
「わかったわ…あのガキがいるからいけないのね……あのガキを貴方の目の前で兵士達に犯さてあげるわ。あのガキが賎しく腰を振る姿を見れば貴方もきっと目が覚めるはず……ふふふ……はははははははははは」
「やめろ!くそっ殺してやる!サクラは誰にも触れさせない!!」
外に出て行こうとするエルザを止める事も出来ない。
「……へ?」
エルザが外に出ようとした時、いきなりエルザの体から炎が吹き出した。
杖や指輪…世界樹を使って作られたと思われる物が燃えている。
「いやっ!!熱い!!アづ…い……」
エルザは口から火を噴き出した。
世界樹を食べていたと言っていたな……内蔵から焼かれているのか……。
いつの間にか体の自由も戻っていた。
立ち上がった俺の足をエルザが掴んできた。
「た…たすけて…しに…たくな…い……」
いっそ死んだ方が楽だろうに……なまじ世界樹の力を体に取り入れていたせいで、なかなか死ねないようだ……しぶとい女め……。
「お前が俺だけいれば良いと言った様に、俺もサクラさえいれば良い」
縋る手を踏みつけ、エルザの悲鳴を無視して先を急いだ。
サクラ……サクラ……頼む、無事でいてくれ……。
―――――――――――――――――――
「ユミル!!」
焼けこげた死体の山の中、ユミルの姿を見つけた。
駆け寄るとリナーシアとマーニャもいた。
良かった皆生きている。
「無事だったか……サクラは?」
みな下を向いたまま何もしゃべらない……。
「ユミル!!答えろ!サクラはどうした!?」
ユミルの襟を掴んで詰め寄るが、ユミルは俺の顔を見ずに、ただ一本の木を指差した。
見た事の無い木に一歩、一歩近づいて手を伸ばす。
「ま…さか……サクラ……?」
俺が幹に触れた瞬間、そうだと応える様に薄紅色の花を咲かせた。
『……桜色……だね。桜の花の色』
散って行く花びらがあの日の夜を思い出させた。
……サクラ、あの女は焼かれて死んだよ……。
土の中は冷たいだろう……一緒に帰ろう……。
相変わらず恥ずかしがり屋だ……。
隠れてないで早く出ておいで……。
「お兄様っ!!もうやめて下さい!!爪がっ!!」
リナーシアに腕を掴まれた。
「爪?ああ……はがれてしまったね……でも早くサクラを出してあげないと……」
リナーシアの静止を無視して、穴を掘るのを再開すると、俺の頬をユミルが殴った。
「リヒト止めろ!!ユーイチを殺す気か!?」
殺す……?俺がサクラを?
「サクラはこの木の下にいるんだろう?早く出してあげないと……暗い場所を怖がっているだろうし……」
「ユーイチがその木になったんだ!そんな事して、その木が倒れると、ユーイチを殺す事になるんだぞ!?」
「この木がサクラな訳ない……声が……しないじゃないか……サクラじゃない……サクラは木になんてなってない……」
ボロボロと涙が溢れた。
絶対愛する人を木になんてさせないと、ずっと一緒に歩いて行くんだと……幼い頃の誓いの言葉が虚しく心に蘇る。
「うあぁぁぁっ!!サクラっ!!サクラーっ!!」
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