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君と最後の口付けを:リヒト視点―2―

皆は洞窟へと戻り、俺とサクラを二人きりにしてくれた。 サクラに背を預け花びらが散っていくのをただ見ていた。 「サクラ……私は貴方を守れなかった……怒っていますか?」 「今まで生きた17年より、貴方と一緒にいたこの数日間がどれだけ充実していたことか……」 返事をしてくれる人のない独り言が風に流れていく。 「この先、貴方のいない時間をどう生きていいのか……私も木になれれば、共に寄り添いあっていられるのに……」 『ゴメンね、リヒト』 俺の前に一人の男性が立っていた。 俺より年上のようだが、目元や口元には面影が残っている。 「サクラ……?」 男性は自分の手や体を確認して、指で頬をかきながら笑った。 『ははっ、モユルの力が無いからか……こんなおっさんでゴメンね』 照れくさそうに笑う笑顔は間違いなくサクラのもので……抱き締めようと回した手は空を切った。 サクラはゆっくり木の下に腰をおろすと地面をポンポンと叩き、俺に座るように促した。 『彼女にね、こどもの話をされて……俺にはどう頑張っても産むことは出来ないからなぁ……リヒトに何かを残したくて、焦っちゃってさ……こんな事になってしまった……』 「私はこどもが居なくても、貴方だけいてくれればそれで良かった」 『だからごめんってば。俺だって、ハナコ達を見て家族が増えたと喜んでいるリヒトを見てて辛かったんだ。俺にはリヒトに家庭を持たせてやれないから……』 「ずっと側にいてくれると言ったじゃないですか」 サクラの手に自分の手を重ねる。 触れることは出来なかった。 『ふふ……だけどリヒトと繋がれなかったのに他のヤツにやられるなんてどうしても嫌で……そしたらモユルが力を貸してくれたんだ。リヒトも、俺に他のヤツが触れるのは嫌だと思ってくれたのかな?』 「俺の……せいですか?」 『違うよ。君のおかげだよ』 「貴方に他のヤツが触れるなんて想像しただけでも嫌ですけどね……貴方が消えてしまうくらいなら、貴方の傷ごと愛しますよ?」 『………やっぱり君と最後までやれなかったのが心残りだな!こんなに好きだったのになぁ!』 「そうですよ。おかげで俺は一生童貞です」 『へ?リヒト童貞だったの?そのわりには……まぁ、この先リヒトはまだ若いんだし、良い人が見つかるよ』 バンバンと背中を叩くふりをするサクラの瞳を見つめる。 「無理です。私は貴方に夫婦の誓いを立てました」 『夫婦の誓い…?』 「∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞」 『それ……前に聞いた……』 「妖精の言葉です。一生貴方にだけこの身を捧げると誓いました。なので貴方以外には勃たないし、無理に入れようとしても弾かれます」 『そ……それは、悪いことをしたね……』 「もう……生きる気力もありませんよ」 『……じゃあ、リヒトに生きる理由をあげる……手を出して?』 「?」 俺の手にサクラが手を重ねると俺の手にひとつの種が残った。 『モユルの種……どう育つのかは俺も知らない。だけど肌身離さず持っててあげて?』 「モユルの……俺と貴方のこどもですね。大切に育ててみせます」 サクラの頬に手を添えるとくしゃりと顔が歪んだ。 『ずるいよ……泣かないで、笑顔でお別れしたかったのに……』 「お別れなんて……毎日会いに来ます」 サクラは首を横にふった。 『俺は世界樹にはなれなかった。リヒトの声ももう聞けないし、リヒトと話すのもきっとこれで最後だ……』 「それでも会いに来ます。モユルを連れて」 『今まで何度も漠然と死にたいと思ってきた……でも君の為に……教会の呪縛から君を解き放つ為に死ねて、今まで生きておいて良かったと思った……のに……今は……死にたくなかったと思ってしまう。君とずっと一緒にいたかった……』 「……その涙を拭ってやることもできないのが悔しい……サクラ……」 『リヒト………』 俺達は最期に、触れる事のない口付けを交わした。

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