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その日まで:リヒト視点
エルザの使った『道』は閉じてしまったが、諸悪の根源とも言えるオクスダートの生死を確認したい一心で新たな魔法を手に入れた。
ゾルグボアを運んだ時の要領で空を自由に……とはいかないが、空高く浮かぶ事が出来るようになった。
サクラの最期の願い。
ハルヒメの力を悪事に使われたくないと……残っていた世界樹の全てが燃え尽きた時、オクスダートもその身に宿した世界樹と共に燃え尽きたようだ。
谷を越える方法を手に入れた今も、リナーシア、ユミル、マーニャとこの谷で暮らしている。
――――――――――――――――――――――
「ピーマンは嫌!!」
お皿に残ったピーマンについてユミルと戦っているようだ。
「お前のかー様がお前のために作ってくれた野菜を残したら、かー様は悲しむだろうなぁ……作ってくれたマーニャママも献立を考えたリナママも悲しむなぁ……」
「うぅ〜」
フォークを握りしめピーマンと睨み合いながらパクリと口に入れた。
「苦い〜〜」
「よく頑張ったな。とー様に見せてこい」
ユミルに頭を撫でられてご機嫌になり、空になった皿を持ってこちらにトテトテと向かってくる。
「とー様!ピカピカなった!」
「ふふ、偉いねモユル。かー様もきっと喜んでいるよ」
小さいモユルを抱き上げておでこにキスをする。
「とー様!かー様のところに行くんでしょ?モユルも行く!」
おろしてやると、えへへと笑い、洗い物をマーニャに渡している。
―――――――――あれから5年。
貴方が残してくれたモユルは、種が割れ……人の子供として産まれた。
子育てなどしたことなかったが、みんなであーじゃないこーじゃないと、悩みながらもうまくやっている。
ハナコもセンパイもユキも、みんな変わりなく過ごしている。
「とー様、かー様はいつおめめを開けるの?モユル、かー様とお話ししたいこと、いっぱいあるのに!かー様いつもここでおねんねしたまま……」
モユルは木の根元に座り、見えない何かを掴んでいる。
「モユルはかー様の姿が見えるのかい?」
「?とー様見えないの?かー様いつもここにいるよ?ここに座ってねんねしてる〜」
モユルはそういって木に寄りかかって寝たふりをする。
そうか……貴方はいつも、そこにいてくれていたんだね。
最期に貴方と口付けを交わした場所……。
木にもたれて眠るサクラを想像して、唇があるだろうと思う場所に唇を寄せた。
「あ〜かー様笑ってる!!モユルも!モユルもチュー!!」
同じようにモユルも口を寄せた。
帰り道、モユルはいつもより楽しそうに俺の手を引いて歩く。
「かー様、嬉しそうだったね!明日もいっぱい、いっぱいチューしてあげたらかー様おっきしてくれるかなぁ〜?」
「そうだね。いっぱいチューしてあげようね」
何度でも、何度でも、口付けを交わそう……。
貴方が目覚めるその日まで―――――。
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