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俺の味?―2―
「……牧場だ」
ハナコ達の小屋はとても立派な物に変わっていた。
ミルクを搾る場所もあり、センパイが卵を産む為の場所、ユキの毛を刈る場所もあった。
ユキの毛は3日に一度くらいのハイペースで刈り取れるらしく、ここでの大事な財源となっているらしい。
立派なゲートから中に入ると、センパイが近づいてきた。
俺の周りをゆっくり回りながら頭を下げる。
頭を撫でてあげると頭をすりつけてくる。
ハナコはベロベロと顔を手を舐めてくるし、ユキは前足をあげて乗っかってくる。
「かー様すごい!!モテモテだね!!」
ハナコ達を一匹づつ抱きしめて撫でていく。
教会の人たちにやられていたらどうしようかと思っていた。
生きていてくれて良かった。
モユルがブラシを持ってきてくれて一緒にハナコのブラッシングをして、ユキのブラッシングをする。
センパイはずっと俺たちの様子を見つめていた。
「かー様、見て!!センパイが卵生んでたよ。今日はもう一個生んでたのに、かー様に会えたのがうれしかったのかな?」
そうだったら嬉しいな……5年も経ったのに……姿も変わったのに、俺ってわかってくれてるのかな?
センパイにお辞儀をして、大きな卵を抱えたモユルと家へ戻る。
「交代しようか?」
「大丈夫!モユル強いもん!!」
「ふふ…頼もしいね」
モユルと話していると心がホクホクして丸くなる。
ニコニコとモユルの姿を見つめる俺に、モユルは卵を見つめながら
「かー様……あれ、食べてみたい」
「あれ?」
なんだろう?
食べ物なら俺じゃなくてマーニャさんに……。
「たまご焼き!!とー様が前に言ってたの、甘くってふわふわですごくおいしかったって!!マーニャに作ってって頼んでも、あれはかー様じゃないとダメなんだって…」
あんな物を大事に思い出としてあたためてくれている事に、嬉しさと恥ずかしさが交じって口元が緩んだ。
モユルは期待の目でキラキラと見てくる。
「う〜ん、そんなに期待されても……マーニャさんの料理の方が美味しいと思うよ?」
「い〜の!!食べたいの!!」
「わかった……でも、美味しく無かったらごめんね?」
モユルはいっそう大事に卵を抱えて家路を急いだ。
マーニャさんと一緒にキッチンに立つ俺をリヒトとモユルが見てくる……ガン見だ。
「えっと……あんまり見られると作りづらいんだけど……?」
「モユルもお手伝いする!!」
卵を作って貰った菜箸に苦労しながら、混ぜるのを手伝ってくれる。
後ろからリヒトが抱きついてきて耳に囁く。
「サクラのエプロン姿があまりに可愛すぎるので……今すぐ食べてしまいたい」
モユルもマーニャさんもいるのに、な……何言ってんの!?
モユルは混ぜるのに夢中で気づいておらず、マーニャさんは「リヒト様ったら」と静かに微笑んでいる。
マーニャさんは随分大人になったんだな……。
フライパンに卵液を流し込み、モユルと一緒に巻いて行く。
真剣な眼差しについギュってしたくなるのを押さえながら、なんとかたまご焼きが完成した。
ワクワクした顔で口にいれたモユルはゆっくりと噛み締めて
「とー様のいうとおり、かー様みたいな味だね!!」
俺みたいな味ってどんな味だ?
「サクラの優しさに溢れた優しい味ですよ。ほらサクラも、あ〜ん」
目の前に差し出された、たまご焼きに一瞬躊躇して、口を開けた。
「かー様、美味しい?」
「…うん……美味しいよ」
俺の味かどうかはわからないけど、幸せな味がした……。
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