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悩み相談所―1―
リヒトに対抗する様な、モユルからの『あ~ん』攻撃にいつもより食べ過ぎてしまい、お腹を休めるために外に散歩にでた。
柵の外には絶対出ないからと約束をして、一人で歩く夜道。
月明かり……月は無いんだっけ。
夜更かしな妖精さん?のお陰でほんのりと明るい夜道を歩いていった。
暫く歩くと見えてくる、岩壁にぽっかりと口をあける洞窟。
記憶の中ではいつも火が焚かれていて明るかったそこは、今では真っ暗に静まり返っていた。
かろうじて見える岩に腰をおろして外の風景をぼんやり眺めていると……。
「ユーイチ?どうした、こんなところに……一人か?」
洞窟の奥からユミルさんが表れた。
右の掌には小さな火の玉が燃えて、左腕には黒い何かを抱えている。
「ユミルさんこそ……どうしたの?……ユミルさん火の魔法使えたんだ……」
「あぁ火の玉サイズならな……ここは今、倉庫として使っているんだが、ふと思い出してな。ちょっと忘れ物を取りに来たんだ」
「………そっか」
視線を外に戻して……立ち去ると思っていたユミルさんは何時までも俺の隣に立っている。
「……?あの……ユミルさん?」
「あ?俺の事なら気にしなくて良いぞ」
気にしなくて良いと言われても気になるよ。
「クシュッ…!」
お風呂上がりに夜風にあたりすぎたかな……。
鼻の下を擦っていると、ユミルさんが肩に何かをかけてくれた。
「ずっと仕舞っておいたんだが……ちゃんと保管してたから大丈夫だと思う」
滑らかな手触りの毛皮。
馴染みのあるそれは、俺が寝るときに使っていた物だ。
「………それな…お前が消えちまった後、リヒトが見ると辛くなるって、しまっちまってたんだ……でも、もう大丈夫だろ?俺達にとっては思い出深い品だからな、こうして取りに来たって訳だ」
リヒト……キュッと毛皮を引き寄せた。
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