72 / 85

悩み相談所―2―

「それで?喜びにわいている中、お前は何でそんな顔をしているんだ?」 ユミルさんが俺の横に腰をおろして、肩を抱いてくる。 この人は、何故いつも心が弱っているときに側にいるのだろうか……。 「また死にたいとか考えてんじゃねぇだろうな?お前が死んで喜ぶヤツなんていないって、周りがどれだけ辛い思いをするか理解したと思ったんだが………」 ユミルさんの顔が怒りに染まっていくのに慌て否定した。 「考えてない!考えてないからっ!!」 じゃあ何だ、と疑いの眼差しを向けられる。 「……俺は何時までこの世界にいれるんだろうって……」 隣でピクリとユミルさんが揺れた。 「あっ!違う!死にたいとかじゃなくてっ!!………また…消えてしまうのが怖いんだ……」 「死ぬのが怖いのは普通だろ?」 「俺……今、何で生きてるんだろうって……1度この世界から消えた俺が今いるのは、世界樹の力?モユルの力?それとも何か別の力?……自分で自分の存在している理由がわからないから……その力が何時まで続くのかわからなくて………不安で堪らない。ある日突然消えてなくなるかもしれない」 肩を抱くユミルさんの手に力がこもる。 「リヒトとお別れする時、死が怖いとわかったよ。だから……何時まで存在していられるのかわからない、今の状態が怖いんだ。リヒト、モユル、ユミルさん、リナ、マーニャさん……皆といて、凄い幸せ。幸せ……だからこそ……」 頭をわしわしとかき混ぜられ、 「俺は死んだことも生き返ったこともないからなぁ……お前の気持ちは正しくわかってやれん………残念ながら、お前が欲しい言葉は俺の言葉じゃないだろうしな………」 「ユミルさん………」 「お前はもっとリヒトに甘えろ。あいつだってもう子供じゃないんだ、頼ってやれよ……さてと、心配症の旦那も俺がお前に手を出さないかハラハラしてるからな……おい!リヒト!!」 「え………?」 立ち上がったユミルさんが洞窟の入口へ向けて声をかけると、岩陰からリヒトがバツの悪そうな顔で出てきた。 「…リヒト……いつから……」 「サクラが家を出た時からです……」 ……最初からって事か……。 大きな手が頭をポンポンと叩き、 「また、悩みがあれば話を聞くくらいはしてやるよ。次はベッドの上で聞いてやるから……いつでも訪ねて来いよ」 「もぅ!!ユミルさんっ!!またそんなこと言って!!!!」 「はは!!じゃあ後は旦那に任せて、邪魔者は退散だな」 ヒラヒラと手を振ってユミルさんは戻っていった。 残された二人の間にただ沈黙の時間が流れる。 「すみません……あとをつけるなんて事をして…盗み聞きなんて……格好悪いですね」 そしてまた訪れる沈黙……。 あんな風に突然消えて……傷付けたリヒトに……また消えた時の事を考えていた、とか言えない。 「サクラ……あなたが生き返った理由は俺にもわからないし……俺もあなたがまた消えてしまったら、と思うと怖いです………でも……もし、あなたが不安になったら何度でもユミルじゃなくて俺に話して下さい。喜びも悩みもあなたと全て共有したい。それで、悩んでも仕方ない事なら一緒に今を共に楽しみましょう」 俺の横に腰を下ろしているリヒトの膝の上に向かい合う様に乗っかった。 「!?」 「ごめんね。でも俺……リヒトの事頼りにしてない訳じゃないよ?…ただ……心配かけたく無くて……」 首に手を回して抱きつくと、リヒトの匂いがする。 「サクラ!?」 「本当に自分の存在が不安定過ぎて……リヒトと別れる事が怖くて……」 首筋に頭をすりつける。 「こうしてリヒトとくっついてたら怖く無いかも……」 「サクラっ!!あなたって人は!!俺の限界を試してるんですか!?」 あ……くっつけた体を思い切り引きはがされた……。 「またそんな顔をして!!……あぁもう!!」 リヒトにギューと抱きしめられたことに、ほっとして、抱きしめ返した。 「サクラ……覚悟……できてるって事ですよね?」

ともだちにシェアしよう!