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既視感―1―
マーニャさんのお手伝いと言いながら何か特別な事が出来るわけではないので、お皿を並べたり盛り付けができたものを運んだりしている。
「マーニャさんはどうやって魔法を使える様になったの?」
「どうやって……何となく出来た……ですかね?物心ついた頃には使えてましたから」
そっか……と溜め息をつく俺をマーニャさんが不思議そうな顔で見ている。
「リヒトに聞いたら、呼吸の仕方を教える様なもんで難しいって、ユミルさんもイメージすれば出来る時は出来るって言うし、モユルなんて、えいってやればバーンてなる……だってさ」
「サクラ様は魔法をお使いになりたいのですか?」
「………………」
モユルが魔法を使えるって事は結構ショックだった。
俺だけ何も出来ない……。
「あら……もしかしてまた、ご自分だけ役立たずだなんて考えていらっしゃいますか?」
「え!?俺ってそんなにわかりやすい!?」
思わず顔を手でおおう。
何で皆にこうも考えてる事がばれるんだろう?
「やっぱり……でもサクラ様には素敵な魔法があるじゃありませんか」
マーニャはふふっと笑って「リヒト様と……ね?」と首を傾けた。
「なっ!?………それは……」
いろいろ知られているわけで今さらなんだけど、恥ずかしいものは恥ずかしい。
マーニャさんの言いたいのはきっと、リヒトとイチャイチャすると、モユルを通して起こっていた不思議現象の事だろう。
「………でも今回は何も起きなかったよ?もうその力も無いんじゃ……」
ちらりとマーニャさんを見ると、懐かしいあのキラキラした目で抱き締められた。
「あ~ん、もぉ!!なんて可愛らしい!!リヒト様に食べさせてしまいたい!!」
マーニャさん!胸が!胸があたってる!
「…サクラ様、花畑が出来たのも、モユル様が新しい技が出来たのもきっとお二人の愛がモユル様に力を与えたと私は思いますわ」
マーニャさんは優しく微笑んでくれて……。
俺とリヒトの愛が……モユルに?
……モユルはまだ繋がっているのかな?
俺は自分の頭を触ってみた。
当然何もなかったけど……。
マーニャにいきなり肩を掴まれ
「なっ……何なら今すぐにでもお試しに!リヒト様と愛をお確かめ下さっても良いのですよっ!!」
キラキラを通り越して、ギラギラしたマーニャさんの目が恐くなりその場を逃げ出した。
マーニャさん、変わったと思ってたけど、お変わり無いようで……。
――――――――――――――――――――
「リヒト様、そろそろ狩りをお願いしたいのですが」
夕飯時、マーニャさんがリヒトにそうお願いをしていた。
外の街と交流が出来た今でも基本獲れるものは自給自足で補っているらしい。
「じゃあモユル、明日にでも一緒に行こうか?」
「はい!」
え!?モユル、狩りも出来るの?
モユルに嫉妬するのも何だけど、羨ましい。
「ふふふ、サクラも一緒に行きますか?」
「え!?良いの!?」
リヒトはクスクス笑いながら頭を撫でてくれる。
「そんな顔をされて、置いて行けないでしょう?ユミルも一緒に、皆で行きましょう」
……皆で行きましょう。って言ったのに。
「どうしてこうなるの!?」
「サクラが可愛いからですね」
バックから腰を打ち付けながらリヒトは悪びれもなく笑う。
夕飯の後片付けもそこそこに、ベッドへ投げ込まれた。
「あ……明日……連れてって……あ、…くれ…る……っ…言ったのにぃ……あぁっ」
「『モユルも狩りに行くのにまた俺は留守番、俺だけ何も出来ない』って置いていかれた子犬みたいな顔されて見つめられたら我慢出来ないです……全部サクラのせいですよ。責任とって貰わないと……大丈夫、ちゃんと加減しますから」
枕に顔を埋める俺の耳元でリヒトが痺れるような声で囁く。
声に魔力か何か乗っけてるんじゃないかと思うほど、リヒトの声は俺の鼓膜を刺激する。
「…リヒトの……声……や……おかしく…なる……」
「じゃあ…もっとおかしくなって貰わないと……」
その後、耳元で『愛してる』だの『可愛い』だのを囁き続けるリヒトに、無駄な抵抗をしながら乱されていった。
――――――――――――――――――――
お風呂に入れられて、明日の為に早く寝ましょうと腰に腕を回してくるリヒトを振り切って、モユルの部屋へ逃げ込んだ。
「かー様と一緒に寝れるの!?やったぁ!」
無邪気に喜ぶモユルに若干罪悪感を抱きながら、一緒にベッドにはいった。
ふと、マーニャさんの言葉を思い出した。
俺とモユルはまだつながっているのだろうか?
「ねぇモユル……モユルの望みはなぁに?」
眠るモユルの寝顔に尋ねてみる。
当然返事は返ってこなかったが、モユルのおでこに叶うと良いね、とキスをした。
「おやすみ、モユル」
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