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奪われた天使―1―

不思議なもので……。 今さら何が起きても驚かないと思っていたのに、この世界はまだまだ不思議に満ちていた。 外見だけが大人になったと思っていたモユルだが、中身も何故か成長してきた。 どこで覚えたのか……という言葉、知識、行動。 わりとリヒト成分が豊富だった事が若干気になるところではあるが……。 「俺のリナがぁ〜……」 モユルのプロポーズにリナは笑って応えた。 俺の癒しの天使が息子に奪われてしまった。 「母上、申し訳ありません」 母上という言葉がむず痒い。 自分より目線の高くなったモユルを睨み上げる。 「あはっ母上可愛い!!そんな可愛く見つめられると困ります。俺はリナ一筋なのですが……」 これは親子のスキンシップで浮気じゃないですよね。と、いいながらモユルは俺を抱きしめてくる。 「昨日までは俺が抱っこして上げてたのに……」 「あまり大声を出すと獲物が逃げてしまいます」 笑顔で額に青筋を立てたリヒトに怒られた。 そう。 モユルがいきなり大きくなろうと、この方々はブレないようで……昨日の話通り狩へと森に入っている。 先頭をユミルさんが歩き、その後ろを俺とモユル、その後ろにリヒトが歩いている。 「母上、はぐれないで下さいね」 手を繋がれて、岩場など足元の悪い場所ではエスコートされている……。 段々、背後から感じる気配の雲行きが怪しい。 「サクラ……こちらへ……私と手を繋ぎましょう」 「父上、息子に嫉妬なんてみっともないですよ?」 笑顔でバチバチと火花を散らす二人に溜め息を吐いて、ユミルさんの腕に掴まった。 「放っておいて大丈夫そうだし、ユミルさん行こう」 「お?役得だな!」 二人を置いて、ユミルさんと歩き出した。 しばらく歩くと、ユミルさんが立ち止まり、しっ!と口に指を当てた。 ユミルさんの視線を追うと、丸々太った鳥がいた。 「ファグラダックだ……アイツの肝臓は高級品でな、マーニャの大好物だ」 そっと静かに忍びよるユミルさん……。 そんな最中、背後から……。 「サクラ!置いていくなんて……心配したんですよ!!」 「母上!!酷いです!おいてけぼりなんて!」 ファグラダックは、その体の割に凄いスピードで逃げていった。 ―――――――――――――――――――― 王子とその息子が並んで、怒られている。 モユル……俺のリナを奪った罰だ。 しっかり怒られろ。 ほくそ笑んだ俺に気付いたのか、モユルがこちらを睨んできた。 「もとはと言えば、母上が俺を置いていくから!!」 おっと、いきなり俺に責任転嫁か? 「そうですよ!よりにもよって、ユミルと二人きりで抜け出すなんて!」 リヒトまで便乗してきた。 「だからっ!!大声を出すなと……」 言いかけて、ユミルさんの目が光った。 俺の目では追いかけきれない、スピードで剣を抜き、一本の木に向かって投げた。 「へへ……大収穫だ。珍しいヤツがいたぞ……」 茂みにわけいり、剣を回収したユミルさんの剣の先でピクピク動く黒い大きな物体……。 「うぎゃああぁぁぁっっ!!!」 思わずリヒトに抱きついた。 「やだっ!!やだやだやだ!!ゴキじゃん!そんなの大収穫でも何でもないよ!!」 食べるの!?それ食べるのかよ!? 「サクラ?落ち着いて……?」 落ち着いてられるかって!!俺の顔よりデカイ、ゴキだぞ? 「コックコックと言って、焼いただけで一流料理に匹敵するシェフ泣かせの虫だぞ?しかも栄養満点。リナも好物だ」 「嘘だ!!リナはそんなの食べないもん!!美味しくても、栄養があってもやだっ!!そんなの食べるなんてユミルさんもリヒトも大嫌いだぁ!!」 ユミルさんはゴキを見てパニックになった俺を面白がって、ほい。 と、俺に向けてきた。 しかも足側。 その足がカサカサ動いて……。 俺は、泡を吹いて気を失った。

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