82 / 85
反撃失敗
モユルは山の様に積み上がった、魔獣達の上に座って自分の手のひらを見つめていた。
俺達の姿に気が付くと、飛び降りて駆け寄ってくる。
「母上!あんなにコックコックが苦手とは……びっくりしました」
俺を抱き上げて笑っている。
この国の人達は、人を抱き上げるのが好きだな……。
「心配かけてごめんね。しかし……凄い数だね?二人で狩ったの?」
「殆んどモユルだ。言っただろう?モユルが神掛かってたって」
ユミルさんのニヤニヤ顔に蹴りをいれる。
モユルは自慢気な顔をしながら、
「いきなり力が湧いてきて……母上が目覚められたんだなと……大丈夫そうだとすぐにわかりましたよ」
責めるでも、揶揄うでもないモユルの言い方に、いたたまれなくなり顔を手で覆った。
「今日は俺が運びます」
そう言うとモユルは、リヒトがやっていた様に風を起こし、魔獣の山を浮かべて移動を始める。
注意深く魔獣の山を見てみたが、あの巨大ゴキの姿はなさそうで、胸を撫で下ろした。
「ファグラダック!!今日はご馳走ですね!!」
魔獣達の中からあの丸々した鳥を見つけてマーニャさんは目をキラキラさせて、はしゃいでいる。
ユミルさんがマーニャさんの好物だと言っていたけど、本当に好きなんだな。
「ユミルさんって……マーニャさんの事……よく見てますよね……」
結構、息も合ってるし……。
「ないからな!?他に誰もいなくてもコイツだけは無いから!!」
「絶対にありえません!!ユミル様が相手にするのはサクラ様でなくては!!!」
何も言ってないのに2人で即座に大声で否定を始める。
これは、いつもからかわれているのをやり返すチャンスでは……。
「そんなムキになって余計、怪しい……実は……ふふ」
ここが攻め時とニヤリと2人を見ると……。
「マーニャ……入り口見張っとけ……」
「そうですね……本命はリヒト×サクラですが寝取られというのも……美味しいですね」
2人の目が怪しく光って俺を見下ろす。
「2人の邪魔はしたくないが……お前の事を好きだと言ったと思うんだがなぁ……俺だって人並みに傷つくんだよな……」
ユミルさんの腕が結構な力で、俺の両腕をガシッと掴む。
「え……あの……冗談……です……ごめんなさい……」
――――――――――――――――――――――
「サクラ?疲れた顔してどうしたんですか?」
「な……!!何でも無い!!今日の夕飯も美味しそうだね!」
「ユミルとマーニャは妙に嬉しそうだな」
「あぁ、さっきユーイ……「あ!リヒト!!これスゴく美味しいよ?はい、あ~ん」
無理やり怪訝な顔をするリヒトの口にファグラダックのレバーのソテーを押し込める。
浮気はしてないから!
浮気はしてないからこれ以上は聞かないで!!
リヒトに喋る隙を与えずドンドン口に押し込む。
そんな俺をユミルさんとマーニャさんは楽しげにずっと見つめていた。
ともだちにシェアしよう!