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巣立ちと旅立ち

いつになく真面目な顔をしたモユルが夕食後、部屋を訪ねて来た。 いつか言うだろうなとは思っていた。 予想していたよりは早かったけど……。 「父上、母上。俺はリナと共にここを出ます」 はっきりと強い眼差しでモユルは言い切った。 「そうか……わかった」 リヒトもわかっていたのだろう。 短い言葉で了承した。 ――――――――――――――――――――― 「モユルがああ言い出す事わかってた?」 マーニャさんの淹れてくれたお茶をトレイに乗せて、テラスで本を読むリヒトへ差し出した。 「まぁ。モユルも好奇心旺盛だし、リナも昔から外界には興味を持っていましたから」 それを引き止めていたのは………俺か。 木になった俺に、リヒトは毎日会いに来ると言った。 意識の無かった俺にはわからないけど、きっとリヒトは毎日会いに来てくれていたのだろう。 俺の為にこの地を離れないリヒト。 ユミルさんはきっとリヒトから離れない。 マーニャさんは戦闘は不向きだ。 幼いモユルとリナでは、外界に興味があっても飛び出せなかっただろう。 二人をここに縛り付けてしまった。 リヒトの指が俺の髪をクルクル玩ぶ。 「また、自分のせいだとか考えてますか?」 「ん~まぁ……いや……そうだね」 曖昧に答える俺にリヒトは何かを考えて、少し寂しげに笑った。 「サクラのせい……と言うより。皆がサクラを好きすぎたせいですかね?」 リヒトは椅子を1脚、手繰り寄せて俺に座るように促した。 「誰一人として、ここを離れようと口にしませんでした。それはあなたに気を使ったからでも、俺に気を使ったからでもありません。皆、自分の意思であなたの側にいたかったから……」 リヒトに真っ直ぐに見つめられて、何となく目線を外す。 「皆、あなたが思うほど気を使う人間じゃ無いですよ?好きなものは好き、嫌なものは嫌だとはっきり言える者達です。リナなんて、あれで中々気が強くて教会にも反抗してましたからね」 「サクラは反対ですか?」 リヒトは頭を撫でて、俺の顔を覗きこむ。 そんなに不満な顔をしてた? 「反対……ではないけど、心配かな?リナはか弱いし、可愛いし、優しいし……悪い男に騙されたらどうしよう?モユルがちゃんと守りきれるかなぁ?」 「……サクラのリナ好きにも困ったもんですね……」 リヒトは微妙な顔で笑った。 「それでもリナも、モユルもこの危険な谷の底で5年間しっかり生きて来たんだよな……俺なんかよりよっぽどしっかりしてるか……」 「モユルには私が魔法を教えてきました。リナにはサクラから頂いた鑑定の力があります。2人なら大丈夫ですよ」 うん……2人ならきっと大丈夫だと思う。 俺が勝手に心配して、離れるのが寂しいだけ。 「……寂しくなっちゃうね」 少し冷めてしまったお茶を一気に飲み干す。 そんな俺の横顔を見ながらククッと笑った。 「寂しさなんて感じさせませんよ……モユルとリナが言いに来ました。旅先で鑑定スキルを使って得た知識で人助けがしたいと、モユルの起こす奇跡を他の人たちにも分けてあげたいそうです。忙しくなりますね」 「そんな大きな事を考えていたんだ……でも何で俺には言ってくれなかったんだろ?やっぱり……」 ……俺じゃ頼りにならないか? むぅ……と唇を尖らした俺にリヒトは声を上げて笑った。 「わかりませんか?モユルの奇跡を起こす為の力の源は?」 リヒトが立ち上がり、俺の座っている椅子の背もたれに両手をかけて、俺に覆い被さって来た。 「……へ?……あっ!!」 モユルの魔力の源……つまり俺とリヒトの……愛。 意味がわかったとたんに顔が爆発する程、赤く染まる。 「忙しくなるって……そう言う事?」 「ふふ……湯気が出そうですよ。サクラが恥ずかしがるから言わなかった様ですね。こんなに真っ赤になって……本当に可愛い。毎日何回だって愛し合いたいです」 下を向いた俺の顔を持ち上げて、リヒトはキスの雨を振らせてくる。 旅先で奇跡が起こる度に、元気だなぁとか思われる訳か!? 何そのプレイ!! 噴死しそうな体をリヒトに抱きしめられる。 「サクラとの愛の力が、モユルの奇跡で世界を救う……なんて素敵なんだ」 にっこりといい笑顔で微笑んだ。
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