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第64話

湊side 侑舞の話が終わり、今度は自分が話す番になった。 なんと切り出せばいいのかしばらく悩んだが、思っていたことを伝えるしかないんだと割り切って話しだした。 「最初にこれだけは言っておくね。俺は、侑舞に自由を奪われたとか、迷惑かけられたと思ったことも、感じたこともないよ。」 湊の言葉に侑舞から驚きの声があがった。 それと嘘だという言葉も。 「嘘じゃないよ。侑舞から見たらそうじゃなかったのかもしれないけど、俺は俺なりに好きなように生きてきたよ。ずーっとね。」 そう言って笑いかけた。 そして話を続ける。 「俺は侑舞から逃げてた。侑舞がさっき言った通り、俺は父さんが死んでから侑舞との距離感を変えた。意図的に俺が変えたんだ。表面上は侑舞のために。でも本当は自分自身が傷つかないために、侑舞の変化にあえて気づかないふりをした。侑舞の心に踏み込もうとしなかった。」 「俺ね気づいてたんだよ。侑舞が俺に迷惑かけまいとしてたことも、体調が崩れたり入院するたびに申し訳なさそうにしていたのも。全部、全部わかっていて気づいていない振りをしてきた。俺が踏み込めば、侑舞は俺から離れるだろうって思って。何かあったときに対処できる関係を保つために踏み込まなかった。お互いにとってそれが一番だと勝手に決めつけていたんだ。」 侑舞は何も言ってこない。 さっきと完全に逆の状況だ。 「今回の件は俺のせいだと思ってる。だから謝らせてほしい。侑舞を死にたいと思うとこまで追い込んでしまってゴメン。謝って許されることじゃないことは分かってる。本当にごめんね。」 そこまで言うと湊の目から涙が溢れてきた。 「俺が……!俺が4年前のあの日から逃げなかったらこんなことにはならなかったのに。守りたいって言いながら1番苦しめてたのは俺だった。俺の弱さが侑舞を追い詰めた。」 その後湊の口から発せられるのは、「ごめん」という謝罪の言葉だけだった。 そんな兄の姿に、侑舞の目からも涙が止めどなく流れ続けていた。 そこからはただ静寂だけが続いた。

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