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サヨナラじゃなくて・・・2

春都(はると)は、新しく宛がわれた部屋で、(つがい)候補が来るのを待っていた。 まだ頬が渇いていない。 部屋の中央には天涯付きの大きなベッドが1つ。 他には暖かな色合いの間接照明くらいしかない。 初夜を迎えるための部屋だ。 ベッドの(すみ)に浅く腰掛け俯いたまま、春都はまるで生け贄にでもなった気分だった。 いくつか置いてあったクッションを抱き寄せ、ばふっと顔を埋めた時だった。 部屋のドアが軽くノックされ、番候補と思われる青年が入ってきた。 「──っ!」 クッションにしがみついたまま、顔を上げられない春都。 不安と恐怖で動けなくなっていた。 「どうした、具合が悪いのか」 落ち着いた低い声で話し掛けられる。 息が苦しい。 具合が悪いのかも。 「・・・は・・・は・・・っ」 浅く速い呼吸。 眩暈がする。 「恐がるな、お前が嫌がる様な事はしない」 そう言って、声の主は春都の隣に座り、背中を優しく摩った。 智秋(ちあき)とは明らかに異なる、大きな掌。 鼓動が激しくなっていく。 このまま張り裂けてしまうのではと思う程に。 「・・・っ、く・・・るし・・・っ」 「ゆっくり呼吸しろ。恐くない、大丈夫だ」 背中を摩る相手の掌にもきっと、この鼓動は伝わっているだろう。 番候補はそれ以上何も言わず、ゆっくり背中を摩り続けてくれた。 少し呼吸が落ち着き、春都が顔を上げる。 春都の隣に座り、優しく背中を摩ってくれていた青年は、さすがαと言うべきか、整った容姿をしていた。 「冬真(とうま)だ」 「とうま、さん・・・」 自分も名乗らなければ。 それに、初対面で迷惑をかけてしまったのだから、お礼も言わないと・・・。 「ぁ、あの、すみません、でした。少し落ち着きました、ありがとうございます。僕、春都と言います」 「春都」 どくん。 名前を呼ばれただけなのに、心臓が跳ね上がり身体が熱くなる。 これはきっと・・・・・発情だ。 「ぁ・・・僕・・・どぉすれば・・・?」 「何も心配しなくていい。お前が嫌なら何もしない」 「ぇ、でも・・・」 Ωが発情したら、αは孕ませたがるのではなかったのか。 いっそ無理矢理に犯されれば、何もわからないまま事が済むのではないかと思っていたのに。 「ぁ、あの、冬真さんは、その・・・僕はタイプじゃなかった、ですか・・・?」 発情しているのは自分だけなのかと、春都は少し悲しくなって聞いた。 あんなに、智秋(ちあき)以外に触れられる事を恐れていたのに、冬真を前にすると何故だか彼に惹かれてしまう様だった。 「正直に言っていいのか?」 「ふぇっ?は、はぃ・・・」 真剣な顔で覗き込んでくる冬真の視線に耐えられず、ぎゅっと目を瞑ってしまう春都。 「お前を抱きたい」 「──っ!?」 耳まで赤くなった春都。 やがて絶望の縁にいた生け贄は、自ら手を伸ばし、喰われることを求めるのだった。

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