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第7話
二日酔いというものは、思っていた以上に壮絶だ。
そんな壮絶な体験をした日、午前中よりは幾分かマシになった身体を引き摺り、どうにか千春はMISS・LIPSに出勤した。
轟とハイエンの昼食作りを免除してもらった上に、立てなかった千春の為にハイエンは粥まで用意してくれた。お湯で温めるだけのレトルト食品であっても、介抱の気持ちと行為はありがたい。
スポーツ飲料と卵粥でどうにか体調を持ち直し、店の扉を開ける頃にはアルコールもすべて身体から出て行ったようで、多少だるいと感じる程に回復していた。
朝方はあまりの頭痛と吐き気に、この世の地獄かと思った。しかし目が覚めた時は、同じベッドに寝ているハイエンの存在の方に気を取られ、二日酔いなど忘れてしまう程動揺した。
というか、動揺された。
思い出すと自然と体温が上がり、うわーと頭を抱えたくなる。
誰もいないフロアでモップを動かしつつ、どうにもならない気持ちをぶつけるようにひたすら床を磨いた。
(……なにも、あんなにビビらなくても)
先に目が覚めたのは千春だった。
ぼんやりと昨日の事は覚えていて、ハイエンの家まではリリカが付き添ってくれたことも記憶にある。そこからは夢なのか現実なのか怪しい。
吐いたのはどこでの記憶だろう。このベッドまではどうやって来たのだろう。そんな事を思いつつも、千春は目の前の男の乱れたシャツから覗く鎖骨から目を離せずにいた。
なんとなく好みの顔に近い、と思っていたが、筋肉のつき方も格好良い。ハイエンは案外細く見えるが、きちんと体型を管理しているようだ。
浮き出た喉仏のラインが奇麗でたまらない。ぐらりとする頭の痛みが気にはなったが、どきどきしていてそれどころではなかった。
首筋に指を這わせてみたい欲望に耐えていると、ハイエンが身じろぐ。鼻にかかった声が漏れ、ますます千春は動揺した。
さっさとベッドを出て、自分の部屋に戻ればいい、と頭ではわかっているが動けない。
そうしているうちにハイエンの瞼がゆっくりと痙攣し、ぼんやりと目が開いた。
暫く瞬きを繰り返し、そしてみるみる内に瞳が驚愕に開き、『うわっ』という声と共に跳び起きその反動でベッドから転がり落ちた。
思わず手を伸ばそうと身体を起こした千春は、壮絶な頭痛と吐き気に襲われて、手を伸ばすことなくそのままベッドに崩れ落ちる。
ハイエンはといえば、のろのろと身体を起こして床に座ったまま、ベッドの淵に頭を乗せて顔を両手で覆っていた。
「……あー……あーそうだった……春さんがアレしてこれしてそーだった……うーわーびっくりしたー……」
「……え。……おれ、昨日、帰ってきて、あの後何か……ていうか、なんで一緒に寝、……っあーあたまいたい……」
「いやぁ……記憶がないのならばどうぞそのまま闇に葬ってください出来る事なら今ボクが転がり落ちたことも含めてどうぞ抹消してください……」
「…………なにも、ない、よね?」
「…………」
「ちょ、その沈黙なに、こわい。言ってよ、おれ何かした?」
気まずそうに視線をそらすハイエンに不安を覚え、横になったまま千春は縋る。
帰って来たところまでは覚えているのに、その後の記憶が怪しい。もしかしてとんでもない事をしでかしたのではないか。そんな不安で先ほどとは違う動悸がしそうな千春に、ハイエンは非常に言いにくそうに深夜の出来事を説明した。
「……あー。抱きついて、離してくださらなかったもので。しばし抱擁を交わした後にあのー、ですね、春さんが『キスしたい』と申されまして。流石に前後不明の酔っぱらい状態の方のお言葉にお応えすることは躊躇われたものの、問答できる感じではなかったので頬にちゅっといたしまして許していただこうと思ったんですが満足していただけなかったご様子で、まあ、その、結果奪ってしまったわけですが断じてそれ以上の事はしてませんのでボクが酔っぱらい春さんから奪ったのは唇だけです」
全ての説明を聞き終わり、千春は頭痛と共に眩暈も覚えた。
「…………オボエテナイ……」
「だからそのまま忘れてくださいと言ったのにー。もう春さんアルコールと名のつくもの全般禁止ですよぅ、禁止。まー結局昨日の騒ぎも何だったのか伺ってないんですが、まだそれどころじゃないみたいですし、とりあえずあのー、立てます?」
「むり。しぬ。はく」
「そんな感じしますねぇ。今日は起き上がれるようになるまでどうぞそのベッドの住人になってください。まあ、水飲んで寝てれば夕方には回復するでしょうし」
「ハイエン」
「はい?」
「……怒ってる?」
「え? いや、全然。なんで?」
「こっちみないから」
「…………あー……あーいや、えーと。……察していただけませんか……」
ボクにだって羞恥心やらなにやらは存在するんですよ、と、よろよろとベッドに頭を埋めてしまう年下の男がかわいすぎて、その一瞬だけ二日酔いの吐き気を忘れる程だった。
どうしようかわいい。
格好いいだけでもずるいのに、その上こんな風にキスをしただけで照れて視線をそらすだなんて反則だと思う。というかそんなキャラだっただろうか。もっと、遊び慣れているというか、飄々とかわす様な人だと思っていた。
そんな事を思いながらじっとハイエンを眺めていたら、ちらりとこちらを見たハイエンが千春の視線に気が付いた。
「……何ですか。ボクは今ねぇ、ひっさしぶりに大変動揺しているんですよお察ししてくださいよーホント。まったくもうまさかこんなぼんやりイケメンがーあんなえろい顔で誘ってくるだなんて夢にも思わなかったし自分のこらえ性の無さにも大変な反省を――…ちょっと春さん聞いてますか」
「え。えーいや……なんか、もったいなかったな、とか思って」
「は? なにが」
「だっておれきのうのこと覚えてないし」
まだ思考がうまく働いていなかったのかもしれないし、なんとなく場の雰囲気に流されたのかもしれない。
けれど千春はハイエンのことがかわいいと思ったし、口づけを覚えていない事を悔しいと思った。
そして千春が何を言ったのか、その意図を理解したハイエンは、今度こそ耳まで赤く染まり床に崩れ落ちた。
「…………はるさんにころされる」
それはこっちの台詞だ、と思う。ハイエンはかわいくて格好良くてとてもずるい。
相変わらず吐き気も頭痛もするが、それと同時に覚えのあるときめきのようなものが湧き上がる。
大変よろしくない感情だ。ここ暫くは、誰にも覚えたことのない感情。しかし、相手は既婚者でもストレートでもない。しかも意識してくれているらしい。それならば、手を伸ばすのは悪い事ではないのかもしれない。
お互いそう思っていたのかはわからないが、少なくとも千春はそんな事を考えてしまった。
一度意識してしまうと、つい、そういう目で見てしまう。
真っ赤な顔をパタパタと手で仰ぐハイエンの開襟シャツを見ていたら、うっかり手を伸ばしてしまいそうで、千春は無理矢理目を瞑った。
そんな寝起きの一件を思い出しつつ、黙々とモップをかけ、テーブルを拭き、ソファーを拭く。ドリンクや軽いつまみを用意し皿を洗うのが主な仕事だったが、勿論掃除と後片付けも男達がこなす。
キャバ嬢達は化粧をして喋っているのにどうして自分達が、と、掃除を厭うボーイ達の小言を聞き流しながら、千春はせっせと働いた。掃除は嫌いではないし何よりそういう仕事だ。嫌ならば他の仕事を探せばいい。
千春は、成り行きで始めたキャバクラの裏方という仕事が、嫌いではない。
日が暮れる頃に、続々と女性達が出勤してくる。
いつも早いリリカを筆頭に、気さくな挨拶を交わしていくキャバ嬢達が、今日は特に優しい。休みだった女の子にも昨日の騒ぎはもう伝わっているらしく、女性の情報網は怖いなぁなどと比較的どうでもいい事を考えた。
間延びした高い声が聞こえたのはその時だ。
「おはよーございまぁすー。あーもーちょうねむいー……あ、マネージャーおはようございますー。今日亜里奈寝不足なんでぇ、お仕事使い物にならないかも~」
きゃははと笑い声が聞こえて、困るよ仕事してくれなきゃというマネージャーの声が聞こえる。ただあまり困った様子はなく、なんとなく甘やかしているような声の響きに聞こえた。
声と同じようにふわふわとした足取りの亜里奈は、千春と同じ頃に働きだした新人だった。
まだ十九歳で、中堅が多いこの店では圧倒的に若い。もっと稼げそうな店がありそうなのに、と噂するキャバ嬢達に、リリカがそっと『他の店追い出されたみたいだから大人の余裕で優しくしてやんな』と耳打ちしていたのを聞いた。
確かに、少し癖のある女の子だ。
二十代も後半の千春にとっては、十代の少女など未知の生物に近い。それは年齢によるギャップなのか、ただ単に個人の性格の問題なのかはわからない。
化粧なしで出勤する亜里奈だが、その状態でも確かに可愛い。アイドルや芸能人のような華やかさではなく、若者特有のあどけない華やかさがあった。もう少し鼻が高く、目が大きければ目を引く美人だったかもしれない。
美人かどうかでいえばリリカやマキの方が上だろう。それでも若さと華やかさと男好きする少しあざとさが見える性格で、店の売上を伸ばしている子ではあった。
売上はあるが、しかし同時にクレームも一番多い。
昨日、千春が客にウイスキーをぶちまけられたのも、本を正せば亜里奈のせいとも言える。
ただ、千春は元々厨房でドリンクを作る作業に追われていたので、何が起こって騒ぎに発展したのか、その詳細は聞いた話でしかなかった。
フロアが騒がしいと思ってはいた。そのうち怒号が飛び交い始め、マネージャーの謝る声が繰り返され、今すぐウイスキーをロックでとボーイに言われた。
本来ならばボトルとグラスと氷をテーブルに用意し、その場で嬢が注ぐのがこの店のスタイルだ。だがその時はいいから早くグラスに注いでお客様にお渡ししろと言われ、テーブルまで千春が持って行った。
立ってどなり散らす男に、お前が厨房のやつかと睨まれ、姿勢を正して『はい』と短く返事をした。
そこで初めて、ドリンクオーダーを続けて間違えられた、という旨でその客は激怒していることを知った。
客側の勘違いか、それとも彼に指名されていた亜里奈のミスか、注文をうけたボーイのミスか、千春のミスかはわからない。それでも謝らなければ始まらない。何が原因だろうと、店側に言い訳は許されていない。
そう思い、腰を折るマネージャーと同じく、大変申し訳ありませんでしたと頭を下げた時に、千春の後ろにいた亜里奈の声が聞こえてきた。
「えー……だってカツゼツ悪くてー何言ってるかわっかんないんだもん……亜里奈わるくなくない? お客様は神様~とかそんなのいつの時代ーって話だし……大体お酒の名前もさぁ、難しくてよくわからな、」
そこで店長が彼女を引っ張って控室に消えるのを見届ける前に、千春の顔にグラスに入れたばかりのウイスキーと氷がぶちまけられた。
客が帰った後も散々で、嬢達は他の客のフォローに回り、ボーイ達は濡れた床の掃除を、そして着替えて仕事に戻ろうとした千春はキッチンに戻って来たところで盛大に倒れてしまった。
元々酒に非常に弱い自覚がある千春だが、まさか酒を被っただけで吐くほど酔うとは思わなかった。
結果非番だったリリカを呼びだして、どうにか家まで送ってもらった。
朝からハイエンが可愛くてうっかり記憶の隅に追いやっていた微妙な感情が再来する。たまたま悪い客に当たっただけだとしても、あの時亜里奈が余計な事を言わなければ収まっていたかもしれない。誰も口に出しては言わないが、おそらく皆がそう思っている筈だった。
その当の亜里奈は、昨日の事など忘れたかのように、なんの躊躇いもなくさらりと千春に挨拶をして控室に入った。
別に怒ってはいない。亜里奈もまだ若い。次からはもう少しお客様に対する行動を反省してもらえればそれでいいと思っていたが、せめて一言謝罪でもあればもう少し気持ちも晴れるのに。リリカに昨日の礼を述べていた千春はそんな事を思ってしまう。
そう思っていたのは千春だけではなく、そして行動に移したのがマキだった。
「おはよう亜里奈ちゃん」
「あ、おやよーございますマキさんー。わぁ今日のネイルシックでちょうかわいい~!」
「ありがとう。……あのさ、わたしが言う事じゃないかもしれないんだけど、一応言っとくね? 昨日の事さ、別に誰が悪いとかじゃないと思うけど、一応亜里奈ちゃんのお客様だったわけじゃない? それでスタッフに迷惑かけちゃったんだから、ちゃんとそれは一言謝らないと。気まずくても、最初にそういうのちゃんとしないと、そのままずるずると取り返しつかなくなるよ?」
メイク道具を出す亜里奈に、すっかり支度が終わったドレス姿のマキは低めの声で淡々と諭した。
二十四歳で二人の娘を一人で養うマキは、すらりと背の高いショートボブの美人だ。リリカが姉御なら、マキは保護者といった趣がある。
落ち着いた雰囲気も相まって、最初は怖い人かと思ったが、レシピサイトやスーパーの特売日を教えてくれたりと、非常に気さくで優しい女性だった。
亜里奈への言葉も、叱るようなものではない。アドバイスのようにまとめられていて、ぼんやりと聞いていた千春はこんな上司がいたら会社生活楽だなぁなどと人ごとのように感心していた。
しかし対する亜里奈はあからさまに顔を歪めて、不満そうに唸る。
「はぁ~? なんですかそれ、亜里奈が悪者みたいじゃないですかぁ。確かに亜里奈が聞き間違えたかもしれないけど、あんなに怒鳴る程の事じゃないし、絶対頭おかしいじゃんあのオヤジ。ていうか、千春ちゃんもお酒かぶっただけだし、別に殴られたとかそういうのじゃないし。あ、でもいきなり倒れてまじびびっちゃった! あはは、お酒めっちゃ弱いのになんでお酒作るお仕事してんの~ちょううけませんー?」
千春は、あまり怒ったりはしない方だと思う。暴力も苦手だし、喧嘩をしたこともない。
それでもこの時は、相手が男なら殴っていたかもしれないと思った。声をかけたマキも、頭に手を当てて溜息をついた。
「……笑えないから、ちょっと、あー……日本語通じてる、かな?」
「やだ、マキさん馬鹿にしてるー! それオバサンの口癖ですよ~若い子馬鹿にするのよくないなぁー。ていうかちゃんと謝ったしー別にもうよくないですかぁ? そうやってくどくど気分悪いこと引きずってる方が厭味な感じだと思いますけどー」
「マキチー。ごめーんマスカラ貸してえーあたし忘れてきちゃったーよー」
流石の千春も口が開きそうな持論を滔々と述べる亜里奈の言葉を遮ったのは、リリカの明るい声だった。
亜里奈には何も返さずに、マキはリリカの目の前に座ってバッグを漁る振りをした。
メイクなどとっくに終わっているリリカも、まつ毛を直す振りをしながら、こそっと低い声を出す。
「マキチやっさしいよねー。あんな子にもちゃんと注意してあげるとかさ。アタシ無理だわアレ、生理的に無理だからなるべく遠くに居るっていう選択肢しか取れないわーマジで殴っちゃいそうだから」
「……わたしがおかしいのかなー……。うちの子もなんか、時々とんでもない理論ぶちかますけど、それよりすごいっていうかタチ悪いよ」
「わかってないよねぇ。あの子アタシの事テンション高い優しいおねーちゃんだと思ってるけど、ホントに優しいのはちゃんと怒ってくれるマキチみたいな女なのにねー。お疲れ母上。キミの働きはちゃんと春ちゃんも見ていたぞ」
話を振られ、微妙な気持ちでボーイと談笑する亜里奈を眺めていた千春は、慌ててマキに礼を言った。
「…………なんか、ほんとすいません。おれはなんていうか、あのー、平気だし別に、酒に弱いのはほんとだしたしかに怪我とかもしてないし、」
「そうだけど、でもそういうんじゃないでしょ。考え方がとんでもないのはさ、若いんだからどうにか矯正できるんじゃないかなって思うんだけどなぁ……あー、あの若さでこっち入って来たらもう駄目なのかなーリリちゃん十代からキャバじゃんどうやってそのしっかりキャラクターに成長したの……」
「んーあー? あたしはさー最初の店が超絶体育会系だったからさ。あと借金苦でそれどころじゃなかったねーあんな生意気な口きけるほど人生余裕無かったわぁ。もっとも今の子はどんだけ借金しててもなんとなかなるなるー精神かもねー。楽しけりゃいいんじゃないの」
口紅を直しながら、リリカは呆れたように言い放つ。
亜里奈に対して同情できる心境ではない千春は、苦笑いをするしかなかった。
「リリちゃんの他人評論、納得できちゃうからやだなぁ。人生楽しめばいいと思うけどさ、他人に迷惑かけたらアウトだよね。チーちゃん、ほんと、気にしないでっていうか、悪い気分にしたらごめんね? 多分悪い子じゃ……ないと思いながらじゃないと仕事しんどいんだけどなぁ」
「まーそのうち店長が愛想尽かして放り出すか、それとももっとイイトコ行くんじゃないの。あたしはあんま関わりたくないなぁ……この前来てたあの子の彼氏っぽいのも、なんかやーな感じだったしさ」
「え。彼氏ってホストさんの?」
「そうだっけ。そうだったかな。なんかもっとヤクザの下っ端っぽかったけど。基本話聞き流してるからなー。つかホストなんかに入れ揚げてるから金ないんじゃないのあの子。借金相談してたし、結構さっさと泡とかの方に行くんじゃない?」
別に泡が悪い仕事だとは言わないけど、と締めて、リリカはバッグを閉じた。そろそろ、開店する時間が来る。
ただ今日は生憎の雨で、しかも台風が近づいているらしい。テレビが部屋に無い千春は、昼間にぼんやりと読む新聞でその情報を知った。
台風来るしお客さんも来ないかもねえ。リリカが呟き、マキが同調する。
「春ちゃん傘持ってきた?」
「え。今日からもう降るんだ?」
「なんか二十時ごろから降水確率跳ね上がってた記憶あるよ。この前忘れ物の傘と置き傘ぜーんぶ処分したばっかなんだよねー」
「……まあ。うん。走って帰れない距離じゃないから、うん」
「旦那に迎えに来てもらえばいいじゃん。相合傘でお帰りよー」
「なにそのラブイベント絶対やだよ……」
そんな事を言いながら、千春はまだ若干ダルい身体をキッチンに向けた。頭が痛いのは、二日酔いの余韻というよりも、台風の気圧のせいかもしれない。もしくは、まだ先ほどの亜里奈の言葉を引き摺っているのかもしれない。
流され体質の自分は、心は広い方だと思っていたのだけれど。
世の中にはいろんな人間がいるのものだ、と。そう思うことで、どうにか鬱々とした気持ちを払いのけた。
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