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はじめのはなし 04

 致している最中は、確かに、天井どころじゃなかった。  まず、慣らす時がやばかった。  別に痛くはないし変な感じだなーなんかこう、排泄感? うーんトイレにいるみたいなヘンな感じ、というとても下品な感想をぼんやり抱きつつ、ローションの感触嫌いじゃないし音エロいなというよろしくない発見をした、あたりまでは余裕だった。  余裕だったから天井の女がちらちら気になって、その度にちょっと体温下がって現実に戻って、そんでその度に乳首とか息子とかをゆるゆると刺激された。  くろゆりさんの黒い手袋は、ローションとか俺のソレからちょっと漏れた精液とかで濡れててらてらぬるぬるして、とんでもない絵面だ。あと、相変わらず慣れない感触できもちいいような気持ち悪いような不思議な感じがする。  結構ちゃんとした手袋なのに、外さないんすかと息も絶え絶えに伺うと、にっこり笑って替えは沢山ありますのでと返された。  あー。なんか、うん。手袋も人間もコイツの中じゃ多分一緒なんだなっていうのが透けて見えて、あははみたいな気分になる。  どうでもいいんだけどさ。別に、俺はこのイケメンと友達になったわけでもないし、この先仲良くしようと思ってるわけでもない。  むしろこういう人の方が、さっくりと後腐れなくていいのかもしれない、と、いい方に考えようとするのは後ろを慣らす指が段々とむずむずとした快感を引き出し始めたからかもしれない。  知識としては知っている。なんと言っても、職場の半分はゲイだ。  そこらヘンの男子よりは、アナルセックスというものに詳しい、というか、こう、リアルな会話をよく耳にする。  曰く、案外痛くはないけどそこで気持ちよくなるためには、かなりの時間とコツが必要だとか。前立腺刺激だけでイクには同じところを延々と攻める必要があるとか。でもそこでイクと死ぬほど気持ち良くて一週間は普通の生活出来ないとか。  普通の生活出来ないとかなんだよこええよと思ったけれど、詳しく聞くのはもっと怖いし、俺は本当にそっちには興味なかったから流していたけれど、今になって聞いときゃ良かったと後悔する。  じりじり、俺のチンコを弄りながら後ろの穴をずっと弄っていたイケメンは、やたらと一点集中型で攻めてくる。  チンコの裏あたりをぐいぐい押される。別に痛くは無いけれど『うーん擦られてるなー』くらいの気持ちだったから、俺にはそっちというか、アナルセックスで気持ち良くなる才能は無いんじゃないかと思ってきた。  できれば、痛いよりはきもちいい方が良い。  レイプされているわけでもないし、一応は合意の上での行為だし。あと、気持ちよくしてもらえないとどうも、天井の女が気になりすぎて恐怖が勝ってしまう。  なんとか意識を逸らそうと思って、俺のアレソレを弄るイケメンの手に爪を立ててみる。  ぐちゃぐちゃになった皮手袋が気持ち悪い。でも、それがなんかこう、エロくて、ねだるように腰を揺らしてしまった。  後ろに関してはうまいのか知らないけど、俺のソレを扱く手は、やたらと器用で確かにきもちいい。  裏筋をつう、と親指で押し上げられたかと思うと、括れをごりごりと強めに刺激される。ぎゅっと握ってはくれない。抓むみたいにずっと親指と人差し指だけが俺の竿のあちこちを行ったり来たりする。  敏感な先端に触れる時は、もどかしい程の柔らかさで指が離れる。  そんなとこ全力でこねくり回されたら死んじゃうかもしれないのに、俺の腰はもっとちゃんと触ってと揺れた。 「……っ、………ふ、くろゆりさん、……俺、これ、もしかして、すんげー焦らされてる……?」  ゆっくりと慣らしてんのかなって思ってたんだけど、段々と刺激が物足りなくなってきて息が荒くなる。  別にえっち嫌いじゃないけど、そこまでガツガツしたタイプじゃないと思っていた。  女の子とする時もがっつかないし、過去二回男に撫でまわされた時も、まーこんなもんか特別女子と変わんないなーという感じだったし。  でも、くろゆりさんはなんかこう、うん。  ねっちょりというか、じっくりというか。そのささやかすぎる快感が段々ともどかしさに変わってきて、次第に意識はセックスに集中しだした。  相変わらず俺の息子を指で弄びつつ尻の穴を弄るイケメンはふんわりと笑う。  サングラスがないと、より一層甘い顔をしていることがわかる。 「焦らしてますよ。僕は、おねだりされるのが大好きです」 「……あー、うん……あー。そうかなって、感じが……っん、ぁ、」 「音が、いい感じになってきましたね。どろどろで、耳にも気持ちいい。もっと、触ってほしい?」 「ん……ぁ、触ってって、言ったら、触ってくれんの?」 「どうでしょう。気分によりますが。……坂木さんの乱れた姿は想像以上に僕の好みでしたので、比較的優しく要望にお応えするかもしれません」 「…………気分屋鬼畜……」 「恋だ愛だと執着されるよりは良いでしょう?」  イケメンは柔らかい声で笑って、そして俺はついに耐えられなくなってもっと触ってと小さな声を絞り出す。  もっと触ってほしい。そのぐちゃぐちゃに濡れた手袋で、滅茶苦茶に扱いてほしい。 「ぁ、触っ……ソコ、うん、もっと……やだ、それやだ、もっとぎゅって握っ……ぁ、それ、そのまま、ね、くろゆりさ……っ」 「……想像以上に素敵です。逆に、少し、意地悪したくなりますね」 「え、何それ、ひど、してくれるって、言ったのに鬼畜……っ、ぁ、だから、先っぽもっと、ちゃんとして…! やだ、それヤダ……!」 「後ろは痛くはありませんか?」 「いたく、ない、けど……でもなんか、痒いみたいな、変な感じだしきもちいいっていうかそういう感じじゃないし、そんなことより、前ちゃんと、ぐちゃぐちゃってしてほし……」 「うん、最後にしてさしあげます。でもまずは、キモチイイうちに後ろに入れちゃいましょう」  鬼畜イケメンは俺のおねだりをガン無視して、するりと自分のソレにゴムを被せた。  そこまででかくない。でも、尻に入れると思えば大きな異物だ。人間の尻は割と太いものが入ると聞いた事はあれど、実践したことはない。  あっつい棒が、尻にぐっと押しつけられる。  バックとかのほうが入れやすいんじゃないだろうか。相変わらず弄ってもらえなくてお預け状態のチンコに意識持って行かれつつもそんな事を口走ると、笑ったイケメンは『後ろ向きだと坂木さんのお顔が見えませんので』と気持ちのいい声を零した。  その声の響きにうっとりと意識をもっていかれているうちに、ぐっと、熱いものが俺の中に入ってくる。  入口というか出口というか、皮膚を引っ張られている感覚がしんどい。痛くは無いけど、怖い。  ゆっくりと慣らすように、抜き差しをしながら、それは進んでくる。腹の中に感じる圧迫感とは別に、相変わらずゆるゆると中心を扱かれていてそっちの方も気になって腰が動いてしまいそうになる。  でも、思った程痛くもないし辛くもない。  これなら前を扱いてもらえればなんかこう、イケるかも。と思ったところで、最後まで入ったらしい熱いモノが半分くらいまで抜かれた。  ずるり、と音がしそうな勢いに息が詰まる。  どうやら、件の前立腺というものはそこまで奥にはないらしい。 「……はじめてにしては、中々、悪くは無いですね。萎えてもいない。気持ち悪くは無いですか?」 「きもちわるくはない、けど……なんかこう、別に大変な快楽が襲うというわけでも……うわーいま、男にやられてるうわー、みたいな興奮はあるけど」 「興奮してくださっているならば結構です」 「ぁっ、……ふ、や、なか……、擦れ、て」 「入口のところが、ちょっといいでしょう? ……多分、もうちょっとで、ナカもよくなってきますよ」  ずるずると腰を動かしながらも相変わらずチンコも弄られている。  なにこれやばいわりと興奮する。俺イケメンに犯されてる。そう思うとぞくぞくしてきて、またよろしくない快感が襲った。  中ほどを突き上げられる度に声が詰まる。  セックスしてますって感じが、たまらない。えろい。もっとぎゅっと前を扱いてくれたらすぐにでもイッちゃえるのに。そのもどかしさに声を洩らしていたのに、何十回目かの突き上げの時に急に腰がびくんと揺れた。 「…………え?」  え。え。なにこれ。え。なに。  急に身体が先に反応したから頭が付いて行かない。  軽いパニックになっているうちにもう一度突かれて、その時初めてとんでもない快感がぶわりと身体に広がった。 「……っひ、ぅ!? え、え、や、何、何これっ、あ、やだ、ばか、だめ、擦っちゃ、ソコ……だめ……っ!」 「よくなってきた? ここ、気持ちいいでしょう」 「やだやだ馬鹿死ね何これ死ぬ馬鹿突くなって言って、ッ!? 馬鹿! ぁ、あ、っ、やだ、すご……っ、死んじゃ……っ」 「死にませんよ。気持ち良くて、癖になる方もいるそうですが、まあ死にはしません。良い反応ですね、坂木さん。ここを、擦るように突くと、腰が浮きあがる。顔が随分ととろとろです。女の子みたいですね、こんな、擦られて感じてしまうなんて。ほら、勃ってますよ、見えますか?」  甘い声のイケメンは、その柔らかな声で容赦なく言葉攻めしてきやがる。  それがまた、キモチイイと思ってしまうから俺はもう駄目だ。薄々気が付いていはいたけれど、どうやら俺はM寄りの人間らしい。  キモチイイ。  擦られるのも、弄られるのも、焦らされるのも、嬲られるのも。気持ち良くてもっとと身体は訴えて腰は揺れるのに頭がそれに追いつかない。  口から出るのは駄目と嫌ばっかりなのに、チンコ勃っててやばいしもっとぐちゃぐちゃにしてほしいしもうわけがわからなかった。  ずりっと、くろゆりさんのソレが俺の中を擦る。  その度に、腰がはねて耐えられない程の快感が這い上がる。  もう下半身の感覚が無くなりそうだ。気持ちいいのに気持ち良すぎてよくわからない。キモチイイこととイキタイことしかわからない。 「……っぁ、……あ、やだ、ソコ……っ、擦んな……ぁ、は……っ」 「どんな、ふうに、きもちいい?」 「や……ッ、無理っ、だめ、溶け……っ、どろどろに、なる、わけわかんな……ッ!」 「うん。いい解答です。素直で、良い。坂木さんは快感に弱いタイプですね。素敵です。このまま性器を擦り上げて差し上げましょうか?」 「……ッ、ぁ、」 「想像力も素晴らしい。焦らし甲斐もあるし、責め甲斐もある。後ろでイっていただきたいところですが、まあ、最初は無理でしょうし、予想以上に坂木さんが僕の好みでしたので少しだけ優しくしましょう」  そう言って涼しい顔で腰を揺らしながら微笑むイケメンは、俺のふるふると震えるチンコをゆるっと握って来た。  いろんな汁とローションで濡れたそれは、えらい有様でぬるっぬるだ。  ぬめりが気持ち良くて最悪だ。擦り上げられるだけで息がおかしくなるし、カリの下の方に握り込んだ関節が当たって馬鹿みたいにきもちいい。  それでも十分ゆっくりだ。自分でするときはもっと、順応に快感を追う。  もどかしすぎて腰が揺れて、中に入ったものに良いところを擦りつけるみたいになった。なにこれアホみたいに恥ずかしいのに、そんなことより気持ちいい。  ちらちらと視界の端に見えていた天井の女も、今はもうそこにいるのかどうかすらわからない。  もしかしたら見えてるのかもしれないけれど、俺の視界はそれどころじゃなくて、イケメンをとろりと見つめて媚を売るだけの器官になっていた。  もっと擦って、と掠れた声で訴えると動いてくれる。  もっと握って、と喘げば皮手袋が俺の濡れた起立を扱く。  吐きだしたくて気持ち良すぎておかしくなってて、最終的に俺の口からはエロ動画のAV女優みたいに願望ばかりが飛び出していた。  擦って、突いて、お願い、いきたい、いく、だめ、もっと、触って、お願い、いきたい。  そんな事をうわごとのように連呼しているうちに、快感はより一層高まり腰の感覚がおかしくなって、イケメンのチンコに突かれながらイケメンの手で扱かれてついに俺は射精してしまった。 「……―――っ、ふ、ぁ……、あ……」  なにこれすごい。やばい。しぬかもしれない。  真っ白になった頭の中には、そんな頭の悪い感想しか浮かばない。  とにかくそれほど気持ち良くて、俺が今までしてきたセックスって何だったの? って感じだった。  中が痙攣しているのが自分でもわかる。  イった筈のチンコはまだ半分くらい硬くて、それを擦られまくってマジやめてほしくてヤダって言ったのに笑顔一つでダメと言われた。解せない。 「射精中に、そのまま擦られるの、気が狂いそうになるでしょう?」 「やだって、ちょ……っ、ほんと、馬鹿、もう、イったの、に、あ……馬鹿! 鬼畜ッ!」 「本望です。中々女性は、そこまで罵ってくださらないので、こういう行為も楽しいですね。気持ちいい程度の抵抗があるので、坂木さんは良いですね。僕の方が癖になりそうだ」 「ならなく、て、いい……ッ! あとほんと、やめッ」 「では坂木さんが射精した回数分、僕はお仕事をしましょう。この家以外でも、坂木さんは不思議な経験をするのでは?」 「…………っ、え、何、それ、呼べばかけつけてくれんの……?」 「今の一回はこのお部屋の本日の代金分ですね。いいですよ、呼んでいただければ僕のわかる範囲でお手伝いをします」 「それって結構すごい条件なんじゃ?」 「そうですね。他に同じような条件でお仕事の契約をしている方はいません」 「なんで、俺だけ」 「うん、そうですね。相性が良い、というのもありますし、セックスに満足しているのもありますけれど。貴方にとても興味がある」  なにそれ愛とか恋とかそういうのか勘弁してくれ、と思ったら、俺のチンコを扱きまくっていたくろゆりさんの濡れた手袋が、すう、と俺の首筋を横になぞった。 「……首が、落ちる夢を見ませんか?」  なんで、と、一瞬で興奮が消えた。 「なんで。……わかんの」 「お名前に呪がかかっているような気がしたので。そのお話も、まあ、後でいたしましょう。契約もきちんと紙にした方が安心でしょうし。とりあえず仮契約としては先ほどの条件で良いでしょうか」 「さっきのって、あの、俺が一回いくと、クロユリさんに一回お願いきいてもらえるっていう、システム……?」 「そうです。坂木さんはお若いですから、今日のうちにあと二回はストックできるんじゃないかと思いますが」 「……俺の首の話もしてくれんの?」 「不可思議な現象のご相談も業務内容にありますので」  たっぷり数分、イケメンのチンコを入れられた状態で悩んだ俺は、最終的には『わかった』と頷いた。  その瞬間に容赦なく扱かれて、すぐに自分の決断を後悔したのだけれども。 「……僕は万能ではありませんが、まあ、身の回りの危険くらいならば祓ってさしあげられると思いますよ」  でもその代わりに、俺の下半身の方が心配になった。  天井に足が揺れているとんでもない部屋の除霊をお願いしたら、とんでもない変態イケメンとセックスする契約に行きついた。  何を言ってるんだかわからないが、俺だってわからない。  ただ、確かにセックスしている最中は怖さなんかどうでもよくて、散々鳴かされ弄られ焦らされ死ぬほどいかされた後にお札を貼ってもらったら、天井の足は半分くらい消えた。  この札はかなり高いものらしいのだが、定期的に貼り替えた方がいいとのことだ。  その分の代金も、セックスでの支払い可だということで。……なんかこう、この物々交換感どうかなって思うには思うんだけれど、金がないのも事実で正直なところ有り難いものは有り難い。  足腰がダメになって立てなくなった俺を抱えて、狭い風呂に入ったくろゆりさんが、しきりに排水溝を気にしていたのがものすごく嫌で気になったけど。  それを指摘したらその分の代金風呂場で直でいただかれそうだったから黙って見ない振りをした。  これが、職業オカマで時々変なものを見るレベルの霊感モチの俺が、職業呪い屋のイケメンで変態なくろゆりさんと出会った時の話だった。 はじめのはなし/終

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