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名の呪のはなし 03
風呂でセックスするもんじゃない、というのを、齢二十五にして男相手に知ってしまった。
「……っ、ふ、……ぁ、や……っ」
「……ほら、春日くん、ちゃんと腰あげて」
「ぁ、無理……、も、あっつ……ぁ、あ、っ」
流石ラブホ、というくらい風呂は奇麗ででかくて、男二人でも余裕で浴槽に入れるくらいだった。丸い浅い浴槽には、泡立ってぬるぬるのお湯が張ってある。
ちょっとした興味で備え付けのバブルバスの素を入れたのも失敗だった。全裸も醜態も晒している相手に今更泡で隠すものなんてないのに、なんかよくわかんないテンションで泡風呂にしてしまったせいで、お湯が波打つたびにくしゅくしゅびちゃびちゃ、なんかアレな音がする。
ぬるりとした泡が纏わりついて気持ち悪いんだか気持ちいいんだかわからない。
その上お湯のせいで暑いし、湯気のせいで息苦しいし、体力がガンガン奪われていって膝で立っていることもできない状態だった。
腰を上げていることもできない。浴槽の淵にしがみついてへたり込んでいたら、腰を引かれてくろゆりさんの膝の上に乗せられた。
暑いからお湯の中に入るのは嫌なのに、しっかりと後ろからホールドされて逃げられない。ていうかチンコ握られて中に指入ってて逃げるどころじゃない。
「ふ、……ぬるぬるですね」
「泡の、せいじゃん……っ、ぁ、ん……っやだ、ば……っ、一緒に、押すのヤダ……っ!」
「僕はね、春日くんに『やだ』って言われるのが好きなんです。……これもやだ?」
「ひぅ……!? あ、ぁ、っ、や……ッ、ソコ、馬鹿、やめ……っ、かきまわさな、やぁ……ッ!」
「馬鹿と言われるのも、比較的好きですね。春日くんの言葉は本当に容赦がなくていい。音聞こえますか? お湯と泡が春日くんの中でぐじゅぐじゅになってますね?」
「ん、ぁ……えろ、おやじ……っ」
「相違ないですよ。僕の方が随分と年上ですので」
にっこりと笑った雰囲気のくろゆりさんは、流石に黒い手袋も黒い服も脱いでいる。
全裸になったイケメンはなんつーかただのイケメンで、怪しい呪い屋かつ男相手に全力言葉責めしてくる変態だということを忘れそうになった。
この前全力で開発された前立腺付近を叩くように擦られて、押される度に腰が浮き上がるような感覚になる。
暑くてぼんやりする。息が苦しくて、気持ちいいんだか苦しいんだかわからない。
耳の後ろから聞こえてくる甘い声は、相変わらずえげつない。
今日はおねだりを強要され、焦らされ、鳴かされ、乳首めっちゃ擦られてわけわかんなくなって気持ち良すぎてぶっとんでてぜぇはぁしながらとんでもない言葉を羅列した……気がする。
最初はガツガツ責めてくる癖に、俺がぶっとびだすと急に焦らし始めるから嫌だ。
そんなの必死におねだりしちゃうでしょキモチイイこと好きだものオトコノコだものって話だ。
腰を動かせば気持ちいって分かってたらそら動かしてしまう。ただ、本当に体力を湯にもってかれていて、自分じゃうまく動けなくて爽やか鬼畜メンズに渾身のおねだりをする羽目になった。
挿れてよ擦ってよもっと奥、ソコ、やだ、動いて擦ってちゃんと突いて、的な事を口走った記憶はある。
その度にくろゆりさんが満足げにふわりとほほ笑むのが最高にムカつく。
結局やっといかせて貰った後にのぼせて動けなくなって、人生初のお姫様抱っこでベッドに運ばれてしまった。
お風呂でセックスして身体洗って貰って拭いてもらって全裸でお姫様抱っこでダブルベッドにイン、だなんてラブホを満喫しすぎだ。死にたい。
死にたい気分で水を飲ませて貰って、髪の毛乾かしてもらって、更に死にたくなったけど、くろゆりさんの後ろの鏡になんかちらっちら長い髪の人間が映った気がしたから離れて寝ろよとか言えなかった。
本当は全力で同衾なんてしたくないけど、不可抗力だ。
パンツだけ穿いたくろゆりさんがベッドの横に潜り込んでくる。まるで恋人のようにナチュラルに寄り添ってぎゅっと抱きついたら、流石にびっくりしていたみたいだった。
「……どうしました? また何か見えました?」
「言いたくない。認めたくない。もう寝よ。寝よ。もっとこっち来いよ馬鹿寄り添えこんちくしょう」
「たまには可愛らしく誘っていただいてもいいんですよ? と思わなくもないんですがその素の男子感も悪くはないですよね。怖いならキスしますか?」
「え。何、くろゆりさんとちゅーするとなんか除霊効果とかあんの?」
「除霊とまではいきませんが。僕はこういうところに来る前にお札を飲んでくるので、唾液交換でも気休め程度の効果はあるんじゃないですかね」
「おいそういうの早く言えよ」
なんだよじゃあ怖いの誤魔化す為にエッチする事なかったんじゃん……とは思ったけど、恋人でもない男とキスっていうのも結構なハードルなんじゃないかと気がついた。
女の子ならまだしも。イケメンとはいえ、相手は男だし俺は別にゲイじゃない。
くろゆりさんの薄い唇を眺めてうーんと悩んでいると、奇麗に微笑んだその口がふと近づいた。
「……キスしてみますか?」
息が触れるくらいに近い。
「それ、誰にでも言ってるだろ。ホントかよお札の効果って」
「誰にでもというわけではないですよ。お札自体を売った方が早いですし僕の利益にもなりますので、お客様には基本的にお札を直接購入していただきます。春日くんも御希望ならば販売いたしますが」
「そんな金あると思ってんの?」
「ですから僕の飲んだ札のおこぼれで宜しければ、おすそ分けしますよ? というお話でして。嫌ならば無理強いはしませんが」
「……………………舌入れた方が良いやつ……?」
「唾液交換をした方が効果はありそうですよね」
くい、と顎をあげられて、流れる動作でくろゆりさんは唇を寄せた。
なんとなく察していたけどなんかこう、流れがスマート過ぎてムカつくったらない。ふわりとくっついた唇から覗いた舌が、ぬるりと動いて俺の下唇を舐めた。
思わずぞくりとしてしまう。
腰がはねたのはばれていて、ちょっとだけふふと笑われた。
「ん……ふ、ぁ……ちょ……あんま、ゆっくりすんの、よくない……ん、」
「どうして? 焦らされるの、好きでしょう」
「お預けプレイはエッチだけで十分だっつの……ん、その、……舌、なぞるの好き、かも」
くろゆりさんの舌はあったかくてエロくてキモチイイ。
ゆっくりと絡むそれは、適度な呼吸の合間を与えてくれる。キスの合間に鼻にかかった声が出てしまう。耳の後ろを引っ掻かれて、キスとは関係なく首が竦んだ。
「……ッ、ん、ぁ、……ちょ、キス、だけじゃ……」
「気が変わりました。もう少し運動した方が良く眠れるんじゃないかな、と思いますし」
「ちょ、何言ってるかわかんな、おいやめろ腰さわ、ぁ、馬鹿、ダメダメ駄目ダメ触んなバカヤダもう無理死ぬからぁ……っ!」
「死にませんよ。動けなくなったら僕が責任を持って介抱します。ラブホテルのベッドはスプリングが効いていてとてもいいですよね。ぜひ上に乗って腰を揺らしていただきたいものです」
「そんな元気ないから! 膝も立たないから! 無理! 無理だってば触んなっつのバカ!」
「反応してるのに」
「エロい触り方するからだろ変態ッ、ぁ、ヤダ……っ、ん、ふ……ぁ、んんぅ……やらって、言って……ぁ、や、あ……ッ」
「……僕も、今日は眠れそうです」
なんだか不審な言葉が聞こえた気がするけれども、その真意を尋ねる前に内腿を撫で上げられて変な声が出て、押しのけようとしたらえろいキスされて息も言葉も全部奪われた。
押し倒されたらもう逃げられない事を知っていた。知っていたのに、のこのこ一緒の部屋に入った俺が悪い。正直、まあ、エロいことするかもなって思ってたけど。でもまさからお風呂えっちの後のベッドで二回戦目だなんて思ってなくて、若干の恐怖があった。
本当に体力全部使っちゃう気がする。
俺明日夜仕事なんだけど、立てるのかなこれ。
もし動けなかったら、くろゆりさんに一日分の給料払ってもらわないと困る、と思った。
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