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おしぼのさま 日記2

   日記 二  三木さまの事を書こうと思う。  三木さまは、いつもお優しい。私が纏わり付いても、他の方のように嫌な顔をしたりしない。優しく抱きとめてくださり、手を繋いでくださり、少し上から微笑んでくださる。とても器用で、私の伸びた髪の毛を奇麗に結ってくださるのは、いつも三木さまだった。  三木さまは背が高い。私が追いつくだろうかと言うと、もしかしたら超えるかもしれないねと笑った。私はからかわれていたのかもしれないが、三木さまが楽しそうだったのでどうでもよかった。  私が家の中で怖い思いをすると、三木さまはいつも一緒にいてくださった。  例えば、玄関。私は外には出ないので、普段あまりここに近づくことはない。けれど、掃除を任される時もある。  私が玄関に近づくと、隅の方からおかしな音がする。ギイ、ギイ、と何かが軋むような。擦れるような。嫌な音だ。  私はそれが酷く怖く、玄関の掃除をなるべく早く済ませるとすぐに三木さまのお部屋にかけ込んで頭を撫でていただいた。三木さまは部屋の布団の上で、御本を呼んでいる事がほとんどだった。  本当は頻繁に入ってはいけないと言い付かっていたが、事あるごとに私は三木さまのお部屋に行き、奥さまに見つかるとひどく怒られた。  そんな時は決まって、三木さまが助けてくださった。  まだ子供なのだからと三木さまは庇ってくださる。使用人と何かあると噂されても困ると、奥さまはよく言っていたが、私にはその意味がわからなかった。  仲良くしてはいけないということだろうか? 私が訊くと、三木さまは困ったように、自分がしっかりしていればいいだけの話だからと言った。  本当は私が三木さまに頼らずにお屋敷の仕事をこなせればいいのかもしれない。でも、それは多分無理だ。  このお屋敷は暗くて少し恐ろしい。三木さまがいらっしゃらなければ、旦那さま方の不在中に逃げ出してしまったかもしれない。  三木さまが頭を撫でてくださるから、私はこのお屋敷に住んでいられる。  もし三木さまがいらっしゃらなくなったら、と考える度に恐ろしくなった。  ずっとお屋敷にいてくださいねと言ったら、三木さまは困った様に笑った。

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