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おしぼのさま 日記3

   日記 三  しばらくぶりに帳面を見つけた。  少し忙しかったので、すっかり、この帳面の事を忘れていた。三日坊主だと三木さまに笑われてしまうかもしれない。思い出した時に、きちんと書いていこう。  忙しかったのはお葬式を出していたからだった。  奥さまがお亡くなりになった。  人間が死ぬものだということはお話で聞いていたが、実際に亡くなった人を見るのは初めてで、正直不思議だった。  今まで動いていたものが、動かなくなる。考えていたものが、考えなくなる。うれしい、かなしいという感情が、すっと消えてしまうことを考えると、ひどく怖い。  自分が死んでしまうのも怖かったが、私は、三木さまがもし死んでしまったら……と考えてしまい、暫く寝付けない日々を送った。  奥さまの事はあまり好きではなかった。私がお部屋の掃除に伺うと、汚いものを見るように顔をしかめ、私が粗相をしないようにと監視するようにじっと見つめてくる。  見られる事が恐ろしく、何度か手を滑らせ奥さまの私物を壊してしまい、その度に廊下で正座をさせられた。  暗く冷たい廊下は恐ろしい。  誰も、何も居ない筈なのに、天井がぎしぎしと鳴ることがある。まるで、人が天井裏を歩いているような音で、私はすぐにでも三木さまのお部屋にかけ込みたくなった。  しかし私は最近、三木さまのお部屋に行くことを控えている。  奥さまが昔言ってらしたことが、ようやく理解できる歳と知識を得た。他の人よりは知識が無い私は、常識と言われる様な物事を三木さまのお話と、三木さまが貸してくださる本で学んだ。  男女の仲、というものがどういうものなのか、どの本で知ったのかは覚えていない。しかしそれが何かを理解すると、私は今までの自分の行為がひどく恥ずかしいものだと思った。  もう、三木さまのお部屋に伺っても、怒る奥さまは居ない。  旦那さまも大旦那さまも、お葬式の後から忙しそうで、ほとんどお屋敷にいらっしゃらない。  しかし、だからこそ人目を忍んで三木さまにお会いするのはいけない事のように感じた。  子供の頃に戻りたい。何もしらない子供であれば、今も、無邪気に三木さまに頭を撫でてもらえるのに。きっと私は、それだけでは満足しなくなってしまっている。  そんな自分が恐ろしく、私の足は三木さまのお部屋から遠のいた。

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