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おしぼのさま 日記4
日記 四
やはり私は三日坊主だ。
何かを書く、と言う事を習慣づけるのは難しいのかもしれない。何か重大な事がなければ、帳面の存在を忘れてしまう。
今日、旦那さまに呼ばれた。
ほとんど足を踏み入れない奥の間には、旦那さまと大旦那さまがいらっしゃった。
奥さまが亡くなってから、旦那さまは人が変わった様に笑わなくなった。元よりあまり陽気な方ではなかったが、毎日何かをぶつぶつと呟きながら廊下を行き来したり、真冬に冷たい水をひたすら浴びていたり。気がふれてしまったのではないかと、三木さまも心配する程だった。
私はこのところ、三木さまとお会いすることが多くなっていた。私の秘めた感情が、三木さまに知れる事となってしまったのだ。
初めて口を合わせた時の感情は、一生忘れないものだと思う。他人のそれは思いのほか柔らかく、私は夢の中に居るようだった。
成長した私達は、すっかり背が違っていた。立ったままではうまく唇が合わず、結局お互いに座って口づけする羽目になった。三木さまは私が子供の頃のように優しく笑い、キミが慕ってくれていたのを知っていたよと仰った。抱きしめていただけたあの感動を、どう書き表せばいいのかわからない。
旦那さま方の目を盗み何度か私と三木さまは通いあった。その事が発覚してしまったのではないか。私はそう思い、ひどく恐ろしかった。
旦那さまは私に、三木が好きかと問いかけた。
私はあまりに恐ろしく首を横に振ったが、優しく笑った旦那さまは、素直に言うといい。その事に腹を立てたりはしないと仰った。素直に言わぬと家を追いだすと言われ、泣く泣く私は三木さまをお慕いしておりますと頭を下げた。
旦那さまは不思議な話をした。けれどどれも、私の知識にないものだったので、よくわからなかった。ツクメキガンを知っているかと言われたと思う。私はこれを知らなかったので、後に三木さまに聞いたが、三木さまは青い顔をして黙ってしまわれた。
良くない事が起ころうとしている。
きっとそれは、私と三木さまの平穏な日常を壊してしまうものだ。
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