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おしぼのさま 日記8

   日記 八  三木さまが鬼子だというのは、この家のおかしな習慣のせいだと知ったのは、蔵の中の文献からだった。  暇な時間を全て、もの読みに当てていた。  のたうち回ったような筆の字は私の字よりも読みにくく、今は読めない漢字を教えてくれる人も居ない。  ただ、時間だけはあった。私は三木さまのイキジとして、ここに生かされなくてはいけないのだろう。死ぬまで一生、この蔵の中で。  その事も古い書物で知った。旦那さまは、まさか私が文字の読み書きができるとは思ってもいないようだった。  漢字というものをなんとなく理解することで、やっと私は自分の名前が文餌という字を当てられたものだと知った。私は最初から、この家の餌となるべき人材だったのかもしれない。  三木さまは本来生まれるべき子供ではなかった。  代々、男しか生まれない不思議な家だったのだという。そこに生まれた足の悪い女は、まさに凶兆の子供だったのだろう。  幼少の頃は男と偽り育てられたのかもしれない。三木さまがお外に出ないのは、足が悪いからだけではないはずだった。村人にその姿を晒しては困るからではなかったのか。  凶兆の子供は囲われ育てられ、そしていつかの為にと買っておいた下男と恋に落ちた。奥さまを殺され狂った旦那さまは、要らぬ鬼子と身分不相応の恋仲になった下男を利用し、そしてイキジとツクメをつくったのだろう。  時折、誰かの唱える祝詞が聞こえる。  あれは、三木さまを寄せ付けない為の呪文なのかもしれない。  最近は夜になると、塀の周りを誰かが徘徊する音が聞こえるようになった。ずる……、たん、ずる……、たん、と、その音は片足を引きずるように動く。三木さまは左足が特に悪く、ほとんど動かない様子だった。  三木さまが私を探している。  その事実が嬉しく、私は早くこの暗い石蔵の中に、片足を引きずるツクメが現れるようにと祈った。  さあ、私を、探し出して殺して下さい。  貴女と同じ世界で苦しめるように。

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