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おちてしんだこえのぬし

「珍しいですね、きみから誘ってくださるなんて」  待ち合せの駅に颯爽と現れたのは、今日もつま先から手袋の先まで真っ黒のイケメンだった。  相変わらず顔はマシだが存在感が胡散臭い――が、季節はど真冬。クリスマス前に雪降る? どう? つか去年の手袋どこやった? マフラー新しいの買った方が早くね? ブーツ生きてる? なんて時期なもんだから、都会の人混みの色合いもまあなんつーか、そこそこ地味だ。  そらたまに赤いコートとか、水色のブーツとかそういうのもいるけど。都会だから。それでもド真夏に比べたら、真っ黒のコートにパンツのくろゆりさんはまーそんなに……いや顔面の圧があるから目立たないとは言わんけど、言うても『どうみてもおさわり禁止の人』というわけでもない。  うん。ギリギリ行ける。  そう、俺はくろゆりさんと結構な日付を過ごし、やっと『こいつ、ド真冬ならちょっとセンスが死んでる程度の見た目になる……!』と気が付いたわけだ。  ありがたいことに、今日のくろゆりさんは黒いロングコートではなく、ショートコートだ。  ロングコート似合うんだけどさ、完全にマトリックスだからさ……。ていうか日本人でアレ似合う奴は、他の服似合わねーだろどう考えても、と思う。似合う方がおかしいんだっつの。 「別に珍しかねーだろ。たまに飯付き合ってもらうだろ。たまに。仕事帰りとかに」 「あれはアフターのようなものでしょう。というか、きみが僕に声をかけるのは、嫌な客が帰らないときだけですよ。もっとお気軽に呼び出してくださっていいのに」 「いやだってあんた、基本暇だと連日顔出して来るし、俺ももう別に住んでるみたいなもんじゃん……」  わざわざ外で待ち合わせてどっか出かけるような間柄じゃないし、出かける用事もないし、なんならそうまでして会わなくても残念ながら普通に顔を合わせまくっている。  くろゆりさん最近見てねーけど何してんだろな? みたいなときは、たいてい遠方に仕事行ってる時くらいなもんで、その他は『半同棲してる彼氏か?』ってくらいの頻度で顔を見ていた。  今さらあんたとどこ行くんだよ。いつもの俺ならそう言うところだけれど、今日はぐっと息を飲む。  何と言っても今日、『明日暇?』なんつークソほど恥ずかしい切り出し方をしてこの男を誘い出したのは、俺なんだから。 「フユちゃんがどーーーーーーしても、捕まんなかったんだよ……ねーさんたちは外出るとき男装すんの嫌がるし、鈴蘭ねーさんはまあ男の格好してついてきてくれなくもねーけどあの人何聞いても『別にいいんじゃないの?』しか言わねえからなんの参考にもならねー……」 「はあ。それで本日は、きみの冬の装い選びに、僕が抜擢された、と」 「しゃーないだろ! この前の水漏れ被害で押し入れほぼ全滅しちまったんだから!」  俺が現在住んでいるアパートは、一階の部屋だ。  別にそこまで新しくもないけど、オンボロってほどでもない、普通の二階建てアパートなんだけど、先月天井から水が漏れて部屋の大半が浸水するっていうわりとやばい事件があった。  勿論原因は雨とかじゃない。だって俺の部屋、一階だし。二階ならまだしも、一階だし。  そんで最悪なことに、水で溢れていた上の部屋には現在、誰も住んでいなかった。  じゃあこの水なに? 水道管とかそういうなんか? 配線てきな? いや知らんけど。確認もしてないし説明もされていないし、ただ管理会社からは大規模な改装をするからしばらくマンスリーマンションに住んでくれと平謝りされた。  まーね、今だって大半住んでなかったようなもんだしね。俺が毎日ちゃんと帰ってたらもうちょい早く異変に気が付いたかもしんないしね。  たいして大事なもんもないし、思い出とかそういうもんもない。そもそもそういう昔の何か~とかは大体実家に置いてきた。元々貧困生活を送っていたせいで、高価なもんなんかほぼない。お客さんに渡された高そうなバッグとか? それだって自分で買ったもんじゃないし、まー仕方ねーなと諦められた。  問題は俺の私物じゃない。滴る水のせいでなんか赤茶色に染まっちまった押し入れの中の仕事着たちだ。 「つーかなんだよ浸水って! 上の住人いねーのにどっから水湧いてんだよ! くろゆりさんの除霊全然きいてねーじゃんかよ!」 「僕は比較的全力で手を尽くしていますよ、きみの部屋に関してはね。だから引っ越すのが一番だと再三――」 「やだ! 絶対嫌だ! あそこより安いとこなんかドンピシャ事故物件くらいなもんだろ!?」 「僕の部屋が空いていますよ」 「さらっと同棲勧めてくんじゃねーよクソヤロウ、あんたと同居なんざ絶対嫌だからな。朝から晩までくっそ甘やかされる未来しか見えねえぜってー嫌だ人間としてこれ以上落ちぶれたらもう実家帰れなくなるかーちゃんに合わせる顔がねえ」 「いまのところは合わせる顔がある、とお考えなのが少々僕としては驚きですが」 「るっせーよくろゆりさんのくせに正論ぶっかますな」  ぎっと睨むとなんか妙に嬉しそうに微笑まれる。そのなんつーか、少女漫画的っつーか、ふふふって横に綺麗に擬音入ってそうな顔、くそほど気まずいし痒いからやめろと思う。  えー……つまり俺は、以上のどうにもならんハプニングで仕事着を結構な量失い、仕方なく買い出しに行こうと決意したもののいつもの連れであるフユちゃんが捕まらず、ついでに蓼サンもつかまらず、結局くろゆりさんに同行を求めたわけだ。  頭の端でちらちらする『つかこれもうデートじゃん?』って言葉を全力で無視しながら歩く。  彼氏と洋服買いに行く女じゃんこれ。いや彼氏と仕事着買いに行くオカマなんだけど……いや……彼氏じゃねーんだけど……。  今日の俺の服装はと言えば、椿ちゃん仕様じゃなくごく普通にいつもの俺だ。要するに坂木春日だ。  さっさと押し入れから引っ張り出していたおかげで助かったダウンに、普通のジーンズに普通のスニーカーだ。オカマの要素はこれっぽっちもない。  普段はフユちゃんと一緒だから、彼氏の振りして堂々とデカいサイズの女子服を物色する。  いやー、別に普通の服とかはいいけどさ、タイツとかストッキングとかは、普通に男の格好だと無理がある。ドラッグストアにも売ってるし最悪ドンキで買うけどさ……。  今日は男二人だ。紛うことなき男二人だ。うっかり恋人に見えたとしても、ゲイカップルにしか見えないだろう。  俺の今日の戦術はずばり、『女友達(または彼女)にプレゼントする服を選ぶ男とアドバイスするイケメン』だ。  もうたとえそう見えなくても、世間はそう見ていると信じこむしかない。どう見てもラブラブのゲイだとしても、いや俺はダチと彼女のクリプレ選びに来ただけだし? と思い込んで押し通すしかない……!  ……まあ、世の中そんなに他人のことなんか気にしてねーとは思うけどな。  知らん他人にまで自分がどう見えているのか気にしてしまう。俺はちょっとそういう、見栄っ張りというか、他人の目を気にしすぎる傾向があるっちゃある。  このところくろゆりさんのド変人っぷりに感化されて、ちょっとは度胸ついたかもしんねーけど……。  真冬の人混みの中では変人っぷりはまあ、うん、そうでもねーな? って感じに誤魔化せているくろゆりさんだけど、今度は顔面が強すぎて浮いていやがるしな。 「……イケメン、もうちょい世間に紛れる程度の顔面になんねーの?」  すれ違う女の子の『いまのみた?』っつー漫画かよってかんじのセリフを聞き流したあと、隣を歩くくろゆりさんをじとりと睨む。 「変装をしろ、という意味ですか? ああ……サラリーマン風に髪を上げた方が良かったですかね?」 「……やめろ、想像しちまったじゃねーか……どうみてもホストになんだろ」 「いまのホストさん方はスーツに革靴ではないそうですよ? なんでも、ラフな方が今風だとか」 「あんたそういう知識どっから手に入れてんの? 客?」 「言われてみれば、夜の街の方は顧客に多いですね。人間の情が関わる場面が多いせいか、それとも単純に夜に街中を歩くせいかはわかりませんが。しかし僕もあまりまっとうに昼間出歩くことはないので、少し奇妙な心持です」 「いや、あんた普通に昼間仕事に出てんじゃん?」 「僕がお伺いするのは基本的に依頼人の家か心霊スポットですから。繁華街のデパートなんてもの、久しく足を運んでいませんよ」 「やめろ……より一層デート感を高めてくんのやめろ……」 「ああ。デートだと認識して浮かれても良かったんですね。……ではもう少し浮かれることにします」 「いやくろゆりさん今日わりと最初っからうっきうきしてんだけど!?」 「…………僕が? そうですか? ……そうかな」  きょとん、とした後に少しだけはにかんだように首を傾げうおおおおおやめろその顔俺のよくない部分が少女漫画みたいな音たてんだろうがよ!  はーくそ。さっさと終わらそう。さっさと選ぼうドレスとスカートとチュニックとインナーとタイツとパンスト。ついでに職場に着ていけそうな上着も死んだ。くそ。通勤は化粧落として私服だけど、お客様お見送りの時に上着羽織るからなるべく女っぽいやつがほしい。俺のサイズで。  ただでさえ光熱費が嵩む時期だっつーのに、この無駄な出費は堪える。  やっぱくろゆりさんとこに引っ越すべきなんだろうか……いやでもなぁーマジでこいつ俺のこと本気で甘やかして来るからなーちょっとたまに手段がやべーし人間か? その思考回路人間として正解か? って思うことはあるけど、最近は結構ドストレートに表現してくるし、毎朝珈琲淹れてくれてパン焼いてくれてよく眠れましたか? とか微笑んできそうですげーやなの。  なんて、財布の中身とこれから来る冬と想像上の朝の風景に思いを馳せていたせいで、向かいからくる人にぶつかりそうになった。 「あ、すいませ……」  すんでのところで、サッと避ける。つか人多すぎじゃねーのクリスマス前のデパートってこんな地獄なの? アパレル関係ってこの時期ヤバいとは聞いてたけど、こりゃ確かに鬼だよなって、客の俺から見てもわか――。 「春日くん」  唐突に、くろゆりさんが俺の手を引く。  え、なに? また誰かにぶつかりそうになった? 俺もしかして注意力散漫? ていかもしかしてデートじゃんとか思って浮かれてるの、俺の方? 「え、なに……」 「いまきみは、一体、何を避けたんですか」 「………………ん?」  くろゆりさんは相変わらずすたすたと歩き続けている。もちろん俺もだ。  デパートの中は流れるような人混みで、こんなとこで止まったら後ろのおばちゃんに激突されてしまう。  だから歩く。歩いているのに、騒めきも館内放送も浮かれてたクリスマスのBGMもうっすらと遠のく。  くろゆりさんが掴んでいるのは、俺の右手だ。右側にいるからそりゃそうだ。そして俺の左手首は、何か細い枯れ木みたいなもんにぎゅうっと――え、いや、いやいやいやいや、待って、何。何? 何が俺の手首掴んでんの? だってこれ、後ろのおばちゃんじゃないでしょ? 「……きみは本当に引き寄せますね。体質なのかな……今、どういう状況ですか?」 「どういう、って、え、なんか……なんか、に、うで、掴まれて、る? みたいな……え、待って、何? 俺なんか変なことした?」 「したと言えばしました。きみは先ほど、何もない空間をはっきりと避け、謝罪の言葉を口にしました」 「……うーわー……霊感ありますぅみたいな人の見本みたーい……」 「笑いごとではありませんよ。僕にすら、うっすら、聞こえる」 「きこえ……?」 『さ んか い でしに ま した』  耳の真横からでろっとした声がダイレクトに聞こえた。  う、わ、みたいな声が出そうになって思わず息を止める。ついでにイケメンの手をぎゅっと握ってしまって死ぬほどカップルしてしまった。 「な、なに、これ、なにがいんの、これ」 「わかりません。残念ながら僕は目がそれほどよくないもので。ああ、無理に見ようとしない方が良いです。おそらくコレは、きみがコレを避けたことで、認識されたと思って付いてきたのでしょう。とりあえずは無視が一番の対処法です」 「い、いやいやいやなんか、手、手、あの、這い上がってきて……っ」 『おち て しに し し しんだ しんだ しんだ? しんだ? しんだ? しんだ? いたい さむ い しん し』 「……で、出たらいい? こっから出たらいい?」 「場に憑いているものなら、移動という行為はある程度は効き目があるでしょうが……きみ、腰に巻きつかれていませんか?」  言われて初めて視線を落とし、俺の腰の下あたりからこっちを見上げるなんか……細長い顔をした何かと目が合って『ひッ』って悲鳴出てしまった。  いや出るよ。これは俺悪くねーよ。悲鳴出る。  いくら心霊スポットに慣れて来たとはいえ、自分に被害がなければそこまでこわくはねーかなぁ程度だ。  ここまで顕著にターゲットにされたら恐怖はカンストする。ていうかなんか生暖かくてやばい。ぞわぞわする。これ以上こいつに捕まれていたら本気で肌が腐るんじゃないかってくらい悪寒がする。 『ここ き きら い だ して だし て しんだ しんだ? しんだ?』 「いやいやいやいや。むりむりむりむりどうしたらいいのこれマジ無理無理久しぶりにやばい泣きそうむり勘弁してほんとこんな人混みど真ん中でマジかようそだろ」  ここが誰もいない心霊スポットなら俺のやることは決まっている。  イケメンの胸倉掴んでちゅー一択だ。  このイケメンは常に札を飲んでるし、その効力かそれとも単に俺の精神が安定するだけか知らんけど、大概のヤバいヤツはキスの合間にどっか行ってるか、どうでもよくなるのが常だ。  しかし残念ながらこんなとこで『ちょっとくろゆりさんちゅーしてよ』と言うわけにはいかない。やるわけにもいかない。男女のカップルだってンなとこでいきなりキスしねーよ酔っ払いかよって話だ。 『しんだ? しんだ? し ん だ 』 「…………く、くろゆり、さ……っ」 「きみが慌てふためいて僕に縋る姿、なんだか久しぶりな気がしますね。出会った頃を思い出して大変よろしくない気持ちになりますが――僕は、きみが泣くより暴言を吐いている方が好きですよ」  こっちへ、と引っ張られて人の流れから外れる。  紳士服の売り場を抜けて、玩具のコーナーを通りすぎて、ゲーセンコーナーを横目に俺が引き摺りこまれたのは男子トイレだった。  さすが流行りのデパート、トイレはそこそこ綺麗だ。でも建物が古いせいか、若干今風というよりは古風で狭い。  つかこんなとこ来ちゃって大丈夫なの? 袋小路じゃね?  と思ったとたん、個室に連れ込まれた俺が見上げた天井に、細長い顔のソレはいた。  うーわぁ……普通についてきてんじゃん……。  なんかよく見たら白目がないのに目が小さくてきもい。きもいっていうか、おかしい。人間の顔はそんなバランスじゃないだろ。人間に真似た何かが、やっぱうまくいかなかったけどまあいいか、と諦めたような顔だ。  死んだとか繰り返してたけど、本当か? おまえ、本当に、元々は人間なの? ……別の、何かじゃなくて? 「春日くん、あまり見ない方がよろしい。……簡易的な除霊を試します。少々手荒になりますが我慢してくださいね」 「え。……ちゅーすんじゃねーの……?」  すっかりキスするつもりで連れ込まれたもんだと思っていたから、思いの外真剣な顔したくろゆりさんに圧倒されてちょっとビビる。  カリカリカリカリカリ。扉の外を、爪かなんかで引っ掻いている音がする。 「きみが落ち着くならそれでもいいですが、おそらくその程度ではどうにもならないものかと思います。かくなるうえは師匠をぶつけるしかないレベルの何かですね」 「中ボスクラスじゃん……まじかよ……なんでそんなのが都心のデパートのど真ん中にいんだよ……」 「都心のデパートの真ん中だったから、かもしれませんよ。人が集まる場所には、人ではないものも集まります。そういうものですから」 「……除霊、って、それ、辛いやつ? 痛いやつ?」 「若干辛い思いをするかもしれません。以前一度経験があるかもしれませんが、塩と酒を口に含み別の場所に吐き出します。その間一切喋れません。また、僕とも別行動をとることになります。……大丈夫ですか?」 「くろゆりさん、前はそんな優しくご説明してくれなかった気がすんですけど……」 「状況と感情が変化しただけですよ。僕も少々驚いています。僕はきみが相手だと、少々自信がなくなるらしい」 「……なにそれ好きだから的な?」 「他に理由がありますか?」 「いま口説くとこじゃねーだろ……」 「事実を述べただけですよ。口説いていいのならば本日存分にきみの全身に口づけを――」 「いやいいから除霊しろ。まじで。あいつちょっと目がでかくなってんだけど。てかあれ目? あれ? もしかして口――」 「見ない。僕の方を見てください。……買い物、できませんでしたね。実はきみに似合いそうな洋服を何点かプレゼントできたら、と思っていたのですが」 「やめろ、口説くなっつってんだろ。そんなんまた今度でいいだろ」 「また僕とデートしてくれますか?」  勿論、と言うのはねーだろ。照れてウン……なんてキャラでもねーし、いや顔はそこそこ暑かったから今更見栄張るのもやめたけど、それでも俺はなんでもない風にするからはよやれ、と吐き捨てる。  明日も明後日もあるじゃん。くろゆりさんに関しては『別に死ぬわけじゃないし』とも言い切れないけど、まあ……俺が隣にいる限りは、たぶん、明日死ぬわけじゃない。 「では始めましょうか。暫く喋れませんが、春日くん、なにか言っておきたいことは?」 「…………帰ったら、」 「はい」 「ちゅーして」 「……………………はい」  ぺらぺらといつも通りの長い言葉が返ってくるもんだと思っていたから、すんげー甘い顔でYESだけ言われてなんかこう、俺の方があーーーーーーーってした。  くそ。バレてんじゃないかな、俺が結構べたべたな、あんたの照れ顔好きな事。バレてないつもりでいたし、今後もぜひとも、隠し通していきたいのに。  それでは、と容赦なく照れ顔を引っ込めた呪い屋の後ろで、まだ何か叫んでいる長い顔がチラチラ見える。  くっそこわい。久しぶりに怖い。  久しぶりに怖いから俺は、でろでろに甘いイケメンのちゅーを思い浮かべて、イケメンの手を握ることだけに集中した。  街中でエンカウントしたヤツはわりとしつこい。場所に付いているっていうか、人に付く奴が多いのかもしれない。  結局こいつが完璧に剥がれたのはこれから四時間後のことで、へろへろになった俺達はとりあえず俺の借り住まいで合流することにしたんだけど――。  ……しっかりしめて来たカーテンが全開で、そこになんか背の高い女みたいなやつが立っててゆらゆら揺れながら手を振っていたから、俺はそっこーでくろゆりさんに電話して今日泊めてくださいお願いしますもうラブホでもなんでもいいです一緒にいて、と懇願することになった。  最近慣れてたつもりだけど、やっぱあれだ……自分の生活圏内に出ると、急にダメになるな、アレ。  っていう、必要のない確認をしてしまった。くそみたいな冬の日のことだった。

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