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【冒頭サンプル】まざるしろぬば
【壱】 四ツ倉更
世の中便利になったよねぇ、と思う今日この頃ではあるのだけれども、ちょっと便利を通り越してるよね? という事案もちょいちょい見かけるようになったわけだ。
「いやー、これが割と多いんですよねぇー、レポートとか論文とか提出物へのAI使用」
僕のだらっとした言葉を受けて、苦笑するのは向かいの席の春日くんだ。
「あー……ちょっと前までは、ネット丸写しがどうとかで問題になってたよなぁ」
「はぁ、まぁ、それも困るんですけど、そっちの方がマシなんですよねぇ、検索するだけでいいんで。AIって、もう当たり前みたいにさらっと前提で嘘ついてきやがるから大変なんですよ、読むほうも」
「お察しいたします。チャットアプリなどの信ぴょう性はまだ正確ではない、とのお話を聞きますからね。四ツ倉さんのお仕事には非常に迷惑な代物でしょう」
その隣には、さらりと足を組んだまま微笑を崩さないイケメン霊能者ことくろゆりさんが鎮座していらっしゃる。
今日も大変眼福なお二人組だが、実は僕の好みは現在荻佑さんオンリーワンなので、『いやぁ眼福だなぁ』以外の感想は湧き上がらない。
性格美人のおにいさんと! 外見美人のおにいさんが目の前に居るのに全然ドキっとしない! すごい、これが恋か! なんていう僕の個人的な恋愛事情はさておき、話を進めよう。
平日の真昼間、くろゆりさんの職場こと、黒澤鑑定事務所の応接ソファーである。
ちょっとご相談があるんですけどぉ。
なんていう面倒くさい出だしのメッセに、即レスで時間を作ってくれたのは春日くんだった。持つべきものは『知り合いに霊能者がいるトモダチ』である。
「どんだけ教授を舐めてんだって話ですよ。言っとくけどAIとかコピペとか即バレるからな? って何度も言ってんですけど、あいつらそもそも何が悪いのか理解してない可能性すらある~ってのはただの愚痴なんですけど……まあ僕の仕事の話はどうでもいいんです。本題は、ええと……この写真についてなんです」
「拝見いたします」
おお、なんかちょっと霊能者っぽい。
などと若干感動しつつ、僕は一枚の写真をテーブルの上に置いてスッと差し出した。
僕とくろゆり氏の出会いはなんていうか、すごくレアな感じというか、異質だったんじゃないかと思う。少なくとも普通の依頼人と霊能者という出会いではなかったし、当時はまだ『友達の知り合いの霊能者』という肩書でもなかった。
僕はその時、とんでもない事件の真っ只中で、生きるか死ぬかみたいな状況で、わけもわからずにこの人に縋るしかなかった。
しかも実際にお会いしたのは結構後の事で、その後の付き合いも霊能者と依頼者というわけでもなく、僕の中では『春日くんのパートナー的おにいさん(職業呪い屋)』みたいな位置づけだった。
実は、この事務所に来たのも初めてだ。
春日くんは『あんなとこ縁がないなら来ない方がいいぞ』って言うし、荻佑さんもなんか頷いてたし。興味が無いとは言わないが、別段訪問するような用事もなかった。
思っていたよりも相当普通の中小ビルの半ばの階にあって、中も普通だ。
中から出てきたのが真っ黒い服のイケメンじゃなかったら、間違えましたと回れ右をしてしまいそうな程『霊能者の事務所』というイメージとはかけ離れている。
いやでも今は反社の方々もオシャレなオフィスでカモフラするっていうもんね……などと若干失礼な事を考えているうちに、僕の差し出した写真をしばらく眺めていたくろゆりさんが、かすかに首を傾げた。表情は一切変わらないので、なんか逆に怖い。
「……こちら、心霊写真とお見受けしますが」
「はぁ、そうです、一応ね、そう言ってました――ええと状況をまずご説明しますね。僕の職場の大学の学生さんが、心霊写真だーって結構でかい声で騒いでたわけなんですよ。それはもう小学生かよきみたち落ち着きなさいよって感じの騒動になっちゃってまして」
「まぁ……そうですね、なかなか、インパクトのある写真ではありますが」
件の写真を横から覗き込んだ春日くんが、『うわ』みたいなとてもいい反応をする。
うーん、わかる。
僕も最初に見た時似たような声を出しそうになり、必死に飲み込み『こんなくだらん写真でおはしゃぎなさんな大学生諸君』なんて冷や汗だらだらかきながら声を絞り出した。
そのくらい、パッと見怖い写真なのだ。
パッと見。そう、しかしこれは、『一見怖い写真』でしかない。
少し古い昔のフィルムカメラのような画質。ぼやけてはっきりしない、全体的に赤と黄色が強い色調の中、手前で家族らしき女性と女児が笑っている。場所はどこだろう? なんか見たことない納屋があり、田舎感だけは伝わってくる。
奥に見えるのは、鬱蒼とした林だ。
その手前、母子から少し離れた場所に、白い何かが映っていた。
全身が白い人のようなものだった。
人のようなもの、としか表現できない。人間にしては奇妙に痩せているし、しかしこんなものと見まがうような物体を僕は知らない。何よりもその白いものの顔の部分には、気持ちの悪いほどの満面の笑みが浮かんでいた。
落ちくぼんだ真っ黒い穴のような目。歯をむき出しにした口。鼻は無く、耳もなく、髪も無い。けれど四肢はきちんとあって、両手を上げて片足で立っているように見える。
――なんだこれ。
怪談収集をライフワークとしていた僕は、勿論とある怪異が頭の中に浮かんだ。そして、黒澤鑑定事務所の名助手こと春日くんも、たぶん同じものを連想したのだろう。
「これって、あー……くねくね、ってやつ?」
わかる。白くて全裸のなんかが立ってるって言われたら、ネットオカルト齧った人間は大抵その名を口にする。
「まあ、そう思うよねー。僕も『うっわ、見るからにくねくね』って思ったし。だから学生諸君もわーきゃーしてたわけですよ、ほらくねくねって、見たらやばい系のやつじゃないですかぁ」
「正確には、その正体に気が付くと気がふれる、という怪異でしたね」
そう、くねくねの初出(と言われている怪談)はとある兄弟の話だ。
田舎の田んぼ道で、兄弟は白くてくねくねと狂ったように踊る何かを見る。そしてそれを凝視した兄は、白いものの正体に気が付いた、と言って倒れ、そのまま気がふれて入院してしまった、という話だ。大変ざっくりかいつまんでしまったけれど、まあ細かいディティールが知りたい人は各自ググってくれたらすぐ辿り着くと思う。八尺様、コトリバコ、ひとりかくれんぼ、くねくね――このあたりは平成の代表的なネット怪談だ。
すごく嫌そうに薄目で写真を見る春日くんの横で、物怖じしないイケメンくろゆりさんは、本当にミリも表情を変えずに少し唸る。
「しかし……このお写真は、実在するものではありませんよね?」
「は?」
ちなみにこの『は?』という怪訝な声は春日くんのもので、僕はにっこり笑っただけだ。
「仰る通りです。これ、生成AIの画像をプリントアウトしたものなんですよー」
「あ、そういう? そういう意味? え、なんでわかんのそんなもん」
「後ろに映っているこの表札の文字が文字化けしていますね。AIは考えて写真を出力しているわけではありません。あくまで『それっぽいモノの中から多数決をして』画像を生成しています。よって、細かい文字などは大抵わけのわからない日本語になってしまいがちだ、と聞きました」
「さっすが~僕の解説必要ないじゃないですかぁ~。あとこのお母さん指六本あるし。よく見たらこの親子の服も左右おかしいんですよね、ぱっと見はなんとなくそれっぽいんですけど。奥の林も地面と木と葉っぱが同化してるとこあるし」
「マジか……マジだ……え、これガチの心霊写真じゃなくて、ただの作り物ってこと?」
「とりあえずの結論としてはそうですねぇーどっからどう見ても生成AIが作り出した偽物心霊写真ってわけです。で、まあ、生成AIじゃねーかよって話も含めて結構な騒ぎになっちゃったわけですよ」
「はぁ、それはなんというか、お察しいたします。学生が提示した写真があからさまに嘘だったとなれば、良かれと思って糾弾する人々も出てくることでしょう」
「仰る通りです。もう局地的大炎上状態です。ネットが現場じゃないからまだマシってだけですよ、もはやいじめの領域に入っちゃってて、先生方も口を挟まないわけにはいかないって状態なんですよね。いうてこの写真を心霊写真だーってお出ししてきた生徒――白峰くんって言うんですけど。白峰くんが悪いっちゃ悪いんで、AIで作った嘘画像であることを認めてちゃちゃっと謝罪して終わりにしちゃいなさいよって学生課で面談したそうなんです。んで、こっからが本題なんですが」
「え、今の前振りだったの?」
「うふふ。前振りでした。なんでもこの白峰くん、この心霊写真に呪われているって主張しているご様子なんです」
「――生成AIで作った、心霊写真に?」
春日くんの眉が更にぐっと寄る。普通にしていてもそこそこヤンキー顔なので、怪訝な感じの表情は普通に怖くて面白い。
「詳しい状況は知りません、ウチのゼミの生徒じゃないんで僕全然関りないんですよぅ彼とー。でもちょっと僕、ほら、色々学校内でも有名っていうか、自衛と生き残るために結構必死に怪談集めおにーさんしてたじゃないですかぁ。そのせいで、『あのほら古典? あたりのゼミの手伝いしてる四ツ倉くん? って幽霊とか詳しくなかった?』みたいなふわっふわしたご指名を受けてしまいましてぇー……この件、丸投げされちゃったんですよねぇ」
「え、更ちゃんが? 大学側に?」
「そう、僕が。学生課とか先生方に。なんでも白峰くん相当参ってるみたいで、最近は家からも出てこない状況らしいんですぅ。いやぁ、そういうのはご家族とかご本人がどうにかすべきでは? って薄情者の僕的には思うわけですが、どうにもそういうわけにもいかなくなってまして」
「学校側にも被害があったのでしょうか」
「お察しがよすぎて若干怖い。そうです、白峰くん以外の学生にも被害が拡大してしまったんですよ。夜の学校で白いくねくね動く奴を見かけたとか、写真を撮ると後ろにこいつが映ってるとか……それだけならほんと『おまえら小学生かよしっかりしろよ』って話なんですが、白い奴を見かけたっていう学生がことごとく体調を崩しちゃいまして、びっくり、ゼミによっては学級閉鎖レベルの過疎っぷりになっちゃってます」
「それは、……思っていたよりも大事ですね」
「このままだと食中毒とかなんかの感染症? みたいな感じで大騒ぎになりそうレベル。さすがにヤバいわけで、大学生なのに家庭訪問みたいに先生やら事務員やらがてんやわんやで対応してるわけです。藁をも縋るってやつですかね~。こういう時怪談だと『知り合いの霊能者』とか『近所の拝み屋さん』とかが出てくるわけなんですが、生憎とそういうものと一番縁があったのがなんと僕だったーってわけです」
以上、本日僕が黒澤鑑定事務所を訪ねた理由のご説明だった。
実際に淡々と羅列してみると『そんなことで……?』と思わなくもない。
白峰くんは登校拒否状態とはいえ、立派な成人男性だ。学校行きたくないなら行きたくないで、別にそれでいいんじゃないのと僕は思うし、他の生徒だって同じだ。
それなのにやたらと大学側がざわざわとしているのは、今回被害にあって休んでいる生徒が成績優秀な人間が多く、学校としても辞められるとちょっと困るな……という大人の事情がチラチラと見え隠れしている。
感染症を疑う親が出てきているのも事実だし、保健所に通報とかされても困る、というアレもある。
不景気を謳う世の中だ。学び舎だって学生の金で成り立っているわけで、生徒が減るのは困る。変な噂が立つのも勿論困る。
……とはいえ、僕は実際にこの白い奴に遭遇したってわけでもない。
いっそ白峰くんを引っ張って来れたら良かったんだけど、一応ご自宅ピンポンした僕をあしらったご家族は『帰ってください』の一点張りだった。けんもほろろって感じだ。
僕は僕の好きな人以外にどんなに冷たくされてもノーダメなので、おっとマジか予想外! 以外の感想はない。
一応お助けするお気持ちだったんだけど、きみがそのつもりなら仕方ない。大学に言われた事だけ適当にこなしてご報告して、僕はこの件から手を引く気満々だった。
だって白い人とか知らんし。見たことないし。休んでるのもウチのゼミの子じゃないし。僕が直々に泣きつかれたわけじゃないし。
こういう事言ってるから『更ちゃん先輩って結構ドライですよね』なんて言われちゃうわけだが、こちとら己の命とさわ子さんの命が第一だ。わけのわからんものに今現在も呪われなうな人生で、他人を無償で気にかけている余裕はない。
そう、僕は乗り気じゃなかった。やる気もなかった。
この件を、荻佑さんにご相談するまでは。
「いやぁ、こんなん本人が出てこないんだから写真一枚でどうしろっていうんだよーって思ってたわけですよ。だってなんの情報もないんだもの。とりあえず専門家の方に御相談しましたよぉーって実績だけ作って、大学に報告して終わりでよかろうよって思ってたんです。実害がなければ」
「実害があったわけですか? 四ツ倉さんに」
「んーーーー……いや、僕はないです。たぶん。いや僕は結構鈍感なので、実は気が付いてないだけ説もあるんですが――これ、一応荻佑さんに見せたわけなんですよ。ほら、あの人一応写真というか映像関係の人だし」
ていうか普通に親密な仲だし、僕は週の大半は荻佑さんのお家に入り浸っている爛れた大人生活をしている。荻佑さん優しすぎるからね、困るとかやめなさいとか言わないからね、そりゃもう入り浸っている。
別に相談ってわけじゃないけど、普通に世間話のノリで大学側から預かった例の写真のコピーを荻佑さんにさらっと見せたわけだ。
一見不気味な心霊写真。
でも、よく見たらAIだってわかる画像。
ちょっとしたネタくらいの気持ちだったというのに、荻佑さんはまるで時間が止まったかのように動きを止めて、徐々に顔を曇らせた。
曰く――。
「この白い奴、他の写真にも写っているのを見たことがあるそうです。『心霊万華鏡』に投稿されてきた、視聴者の心霊写真の中で」
その言葉を聞いた僕のお気持ちたるや、皆さん想像に容易い事と思う。
指先から背中まで、一気に鳥肌が立つ。
悪寒に近い寒気が頭の皮膚を這うように、ぞわりと拡大する。いやいや、そんなばかな、だってこれ――架空の画像ですよ?
ちょっと震えながら無理やり笑う僕に向かって荻佑さんは、『これ、あんま関わんない方がいいかも。早めにくろゆりさんに投げた方が良い』とだけ言って、写真を裏返して封筒に入れて返してくれた。
いや怖い。いやいや、急に怖くなってきた。
ただの架空の幽霊じゃーん。みんなインフルエンザとかで休んでんじゃないの? ていうか僕関係ないし。とか思っていたわけだが、荻佑さんがしっかり関わっているとなると話は別だ。
僕はさわ子さんと荻佑さんに関しては、絶対にあきらめないし絶対に守ると無駄な覚悟を決めているのだ。
怖い、が、怖いからと言って観ないふりをして捨てるわけにもいかなくなった。
問題が放置してよい方向に転ぶことなんてない。僕は気合を入れなおし、黒澤鑑定事務所の扉をノックした。というわけだ。
「……というわけで、こちらの写真の件、ご依頼に伺ったという感じです。あ、領収書出るなら学生課が支払ってくれるみたいなので料金に関しては問題ありません。それと個人的にお手伝いが出来るなら、いくらでも無償で走りたいと思っています。まあ、僕に出来ることなんて大してありませんけども」
「いえ、お手伝いしていただけるのならば大変ありがたいです。思うにこれは――すこし、面倒な依頼かもしれません。春日くん、僕の寝室の本棚から、『厭噺総集写』という本を持ってきてくださいませんか? 彬書房怪談文庫、著者は秋葉彼岸花氏です」
「え、あの真っ黒文庫の中からそれ探すの面倒なんだけど……」
「作者五十音順になっていますよ、本棚の端を探してください」
「へいへい」
いやそうに部屋を出ていくわりに、春日くんはちゃんと仕事するんだよねえらいしかわいいね……と思っている僕の前で、くろゆりさんは珍しくほんの少し険しい顔をしていらっしゃる――ように見える。
「……結構ヤバめの状況です?」
思わず話しかけると、ふと顔を上げたイケメンは、やはりミリもトーンを変えずに口を開いた。
「いまのところは何とも言えません。ただ、少し調べものが多くなることは予想されますね。人手はいくらあってもいいと思います」
「あ、じゃあ荻佑さんにも協力してもらいましょう! なんか最近一つ仕事が飛んで暇だって言ってた!」
「そうしていただけるとありがたいですが……とりあえず僕は白峰さんのお宅に一度伺ってみましょう。四ツ倉さんにはお手数ですが、この件に関わっていると思われる学生と現状の整理をお願いします」
「かしこまりですー」
「あと、何か妙な事があればすぐご連絡ください。くれぐれも、はなめよけを使う事のないように」
やだ、ばれてる。
とは思ったが、にっこり笑って『おっけーです☆』とだけ返事した。
僕がいざとなったらバケモノにバケモノぶつける最終手段を取ろうとすることを、たぶん、春日くんあたりが心配しているのだろう。
その春日くんが、若干げんなりしながら一冊の文庫本を手にとって戻ってくる。
怪談文庫ってどうしていつも似たような表紙なんだろうなぁ。
いや、そうしないと怪談好きな人に見落とされちゃうからなんだろうけど、それにしてもこの黒い中に花とか鬼の面とかが浮かんでて隣におどろおどろしい文字でタイトル書く形式、そろそろ誰かうち破ってもいいんじゃないかと思うよねー。
「あ行ぜんっぜん五十音順じゃねえよ……あの本棚マジでもうちょい整理しろ……」
「失礼しました、先日並べ直した筈なのですが」
「なんかそうやってちょいちょいポルターガイスト的なヤツを示唆すんのやめろこえーから。で、この本が何で今必要なんだよ」
「失礼します。僕の記憶が確かならば……ああ、ほら、ありました」
パラパラと、くろゆりさんが綺麗な手で文庫本を捲る。その半ば、七十ページめくらいで、彼は捲る手を止めた。
どうやら心霊写真がメインの怪談本らしい。開かれている本のページには、白黒印刷の非常に見にくい写真が印刷されていた。
予想はしていた。この流れなら、まあそうなるでしょうよと思っていた。
そこにはあの白い人間のようなものがはっきりと映り込んでいた。あの黒い目と歯をむき出しにした笑顔で。
「…………いやこれソレじゃん……」
心底げんなりした様子で春日くんが呟く。ふふ、僕はもうコメントするのもしんどい。
だってこの写真はやっぱり少しおかしくて、手前の男子学生らしき人達の姿勢を見るに、やっぱりAI生成されたものにしか見えなかったからだ。
「こちらの本は今年の頭に発行されたものですが、掲載されている写真のほとんどが捏造だと読者が訴え、ネットで検証されたうえで絶版になりました。作者の秋葉彼岸花氏もその後、SNSのアカウントを消しています。彬書房からどうにか辿れるかもしれませんが……」
「でもあそこの出版社ってわりと適当な感じじゃね? 杜環サンもなんか適当で怖いって愚痴ってたけども」
「彼がそのように言うのならば、あまり期待はできませんね。まあ、何か手がかりがあれば僥倖くらいに思っておきましょう。それでは四ツ倉さん、こちらの依頼、正式に承りました」
「あ、はい! よろしくお願いします!」
「お力になれるかはわかりませんが……少なくとも、切れるだけの縁は切れるように、努力しましょう」
縁を切る。
これは、くろゆりさんが『どうしようもないモノから最大限逃げる』時に使う言葉だ。
うーん……もしかして僕、結構やばい案件に足つっこんじゃったの? え、大丈夫? もう幽霊屋敷に閉じ込められたり、追いかけっこしたりするのイヤなんだけども。
……でも僕が持ち込んだし、荻佑さんにも関わってるなら、今更やっぱやめまーすとも言い難い。
こうして『生成AI写真の幽霊』に関する調査が開始されたのだった。
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※3万字くらいの書き下ろし中編の冒頭です。本文はBOOTHでDL販売してます。
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