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土用丑の日①
「今日って土用丑の日なんだよね。
カイ、土用丑の日って知ってる?」
「んん、ムグッ」
「知らないかあ。
うなぎ食べられないもんねえ。
でもね、無理にうなぎを食べなくてもいいんだよ。"う"がつくものを食べればいいんだって」
「あむ、むう」
「それでね、偏食なウサギさんにね、精がつくものというか精そのものを食べさせにきてあげたってわけ。ほら俺、ウヅキ だから。
俺もウサギさんを食べれば精がつくし、こんなウィンウィンなことある?!
いや、正確には精が出る?
まあ細かい方はいっか☆」
「ふむ、むううっっ」
どういう理論だ。
あと、何やってんだこのオッサンたち。
俺は突然リビングでおっ始めた誉先生と白い人の方に視線を向けることなく心中でそう呟いてため息をつく。
大きめのモーター音が響いている。
白い人は絶対エグめの何かを尻に挿入されているし、その喘ぎ方からして口枷か何かも装着されているだろうな。
そんな事がわかってしまう職業病を呪いながら、平生を装って彼らに背を向けながらコーヒーを飲んでいる。
「あらあら、仲良しねえ」
外国人男の娘がキッチンからそれを見ながらニコニコしている。甘い香りが漂ってきた。今度は何を生成してるんだコイツと思ったら、命君が尋ねてくれた。
「れいちゃん、それ、なあに?」
「ウェディングケーキ♡」
「!?」
「何で?!」
いけない、思わずつっこんでしまった。
すると外国人男の娘は、満面の笑みでこう言うのだ。
「う がつくたべもの、たべるひでしょ?きょう」
まあ確かにそうだな。ナルホド。
と、一瞬納得しかけて
「イヤだからってウェディングケーキ?!
ルール スレスレのところ狙ってくるな」
「あらぁ。せっかく、しょうちゃんとゆうとうせいクンのおにんぎょうもつくったのに」
そうやって見せてきたのは、それはもう可愛らしいシュガークラフト。
とても良くできている。特に翔さんの平凡さの中に光る奥ゆかしさと可愛らしさがよく表現されている。
文字通り食べてしまいたいくらい可愛い。
実はこの男の娘、最近料理の腕をネタに動画配信で相当儲けている。所謂インフルエンサーというやつだ。
顔だけは可愛いし、早々に男の娘であることを明かし時代に合わせ上手くやっている。
港◯女子よりも阿漕なことやって生きてきたくせに清純ぶってるのも腹立つ。もっと汚れ仕事をしろ。お前が立つべきステージはそこだろ。
日々のストレスで荒んだ俺は、ヘイトが止まらない。
いけない。
人を呪わば穴二つだぞ、とこの前翔さんに諭されたところじゃないか。
でもそもそもで言えば、穴に入れてくれない翔さんが悪いんだ、一番のストレス源だ。もう大好きだ、壊れるほど抱いてほしい。
「ああ、あんん!」
そこに空気を読まずに響くのが白い人の地獄のような喘ぎ声である。
「わあ、カイくん、やるぅ」
流石の外国人男の娘も口をあんぐりと開けている。そんなにすごいのかと思わず振り返ると、完全玄人向けのず太いバイブがピンク色の孔から引き抜かれているところが見えてしまった。
穴はぽっかりと広がったまま。
赤色の内壁がびくびくと動いてるところまでよく見える。
「もう一回。頑張って広げようね」
「んむ、むう……」
白い人は涙目で大きく首を横に振るが、誉先生は楽しそうに目を細め上唇をぺろりと舐めた。
もう一度容赦なくバイブを一気に挿入され、カイさんは背筋をピンと張った。
後ろから抱いている誉先生がそれを愛しそうに受け入れる。
バイブが動く度、白い人のペニスから精液がピュッピュと飛び出ている。
拘束具で足を大きく開かさせられているので、全てが丸見えだ。
「気持ちいいねえ、カイ」
そしてそんな白い人の様子をうっとりと見守りながら誉先生がそう言う。
「奥までグリグリしてあげるね。
このバイブ大きいから結腸まで届くよ。
入り口こじ開けて振動マックスにしたらどうなるのかなあ、試してみようか」
「ンー!ンー!!!」
「わかったわかった、今あげるからね」
「ーーーっっっ!!!」
白い人はこれ以上なく身体をのけぞらせ、痙攣した。そしてピンと張った足から力が抜けて動かなくなる。
ああ、これは飛んだなー。
それを他人事のように見ながら、俺は残りのコーヒーを啜った。
「カイ、カーイ。起きて。
あれっ、泡吹いてるな」
誉先生はそう言うと白い人の頰を叩いて口枷を外す。ウン、と小さな声が彼から上がった所で、
迷うことなく口づけた。ちゅくちゅくと音が響く、濃厚なキスだ。
「ん、ん……」
やがて白い人の足の指先がピクリと動いた。
誉先生は変わらず角度変えながらキスを与えている。やがて白い人は腕を上げて、誉先生のシャツを掴んだ。すると誉先生は嬉しそうに微笑んで抱きしめた。そのキスがより深くなる。
「ほま、これ、もうやだ……」
キスからの離れ際、白い人はそう誉先生に訴えた。いつものイキった様子は無い。
もうそんな余裕がないのだろう。
「んー?でもカイ、俺のは嫌なんでしょ?
もう俺のこと嫌いなんだもんね?
あ、それともカイくんは欲に負けて嫌いな男に体許しちゃうような年中発情期のウサギさんなのかな」
「うう……っ」
白い人はモジモジしながら下唇を噛み締めて誉先生をキッと見上げる。
一方、誉先生は楽しそうに目を細めてニヤニヤしている。
駄目だ、これ。
どう見ても白い人に勝ち目なんてない。
びっくりする位根性がない白い人は、本当に情けないくらい直ぐに陥落した。
誉さんのシャツを目一杯引っ張って、自分から下手くそなキスをして。
「意地悪ばっかするなら、ホントに嫌いになるからな……っ」
だからそれは最早本当は好きだと言っているようなもので。
呆れて思わず深い深いため息が出てしまった。
チョロい、チョロすぎる。
そしてそんな子供じみた天邪鬼な誘い文句で頭の良い誉先生がそう簡単になびくはず……。
「カイ……もう、君って子は!
毎秒ごと可愛いを更新してくるんだから……ほんとかわいい……たまんない……やばい……。
俺も愛してるよ、カイ」
「愛してるまでとは言ってなっ。
んむ、んむむっ」
いやもう、誉先生、至極簡単になびいてるし。
ちょっと涙ぐむくらい喜んでるし。
そのまま強く抱きしめて貪るようなキスしちゃってるし。
そうだ、忘れてた。この人、白い人のことになるとIQが300くらい下がるんだった。
「相変わらずラブラブねえ」
外国人男の娘がほっこりしながら言う。
ラブラブなのは構わないがラブラブしている場所が問題だよな、そもそもだけど。
ここ、貴方たちの自宅ではないのですが。
あまりにも迷惑だし、目の毒だし、気分も悪い。
コーヒーも飲み終わったし、自室に籠もろうと思ったその時。
「やあ、こんにちは!」
突然リビングの扉が開き、白くない人が入ってきた。白い人の兄、航院長だ。
事故で十年も植物状態だったくせに、誉先生の怪しい医師仲間の力を借りて華麗なる復活を遂げたスーパーポジティブな変な人だ。
最初こそ遠慮していたくせに、最近普通に家に入ってくる。何なんだこいつ、大病院の院長のクセに暇なのか?
「Welcome〜♪
こうちゃんセンセ、コーヒーいかが?」
「お、頂こうかな。
玲くんが淹れてくれるコーヒーは美味しいからね」
「まあ!おじょーずね!」
航院長は外国人に素晴らしいビジネススマイルを見せて俺の方に向き直った。
そうしてようやくリビングの更に奥で行われている不純同性交遊に気がついたようだ。
……しかし。
「誉、カイ。2人共仲直りしたのかあ。
よかったな〜」
と、呑気にそう言うと外国人が出したコーヒーを飲み始める。
この人、唯一の常識人になり得るかと思ったが事故の後遺症なのかどうも頭のネジが何本かぶっ飛んでいる。
「あ、ほま、はげし……っ、
む、むり、おっき……って、兄さ……っ」
「やあ、航。弟くん頂いてるよ〜」
「や、見ないで、てか、助け……っ」
「あぁ、誉。お構いなく。
カイ、もっと腰振らないと誉が気持ちよくならないぞ。頑張れ」
「あ、あんっ」
いや手拍子やめて、ホントまじで。
そんな俺の方嘆きなど露知らず、結局航院長は一度誉先生が奥の奥へと射精し、更に白い人がナカイキするのを見届けてから改めて俺たちに向き直った。
そして満面の笑顔で言うのだ。
「今日は土用丑の日だろ?
これから皆で鰻食べにいかないか?」
「あぁ、いいねえ鰻」
「だろ?馴染を貸し切ったから皆で行こうぜ」
「……俺は遠慮しておきます」
「そうか?翔くんは来るって言ってたぞ。
バイト先から直接来るそうだ」
「……行きます」
「あとユウユノも来るだろ?
湊も来るから、遊ばせてやりたいんだがなあ」
「湊くんも来れるんだ?具合良くなったんだね。ユーノも喜ぶし、もちろん行かせるよ」
「あぁ、満が上手くてさ。最近大分いいんだ」
「……さっきから気になるワードと新キャラが出ているので説明を求めたいのですが」
「ん?説明してなかったか?
満は俺の飼い主で、湊はペット仲間になるのか?でもまあ俺のほうが先だから後輩??」
「……聞いた俺が馬鹿でした」
未だかつてこんなに爽やか且つ自信満々に自分が飼われている宣言をしてきたやついただろうか、いやいない。
駄目だ、頭が痛くなってきた。
「満はさとるくんのことを知ってたぞ。
教え子だそうだな」
「アイツから教わったことは一つもないですけどね」
「あと、丁度夏休み帰省中だそうで、満の弟の学くんも来るそうだ。
翔くんのバイト先に迎えに行くと言ってたな」
「一刻も早く行きましょうか。
なんならこちらから先に翔さんをバイト先に拾いに行くでも良いくらいです」
「おや、さとるくん、そんなに鰻が好きかい?
良かったよ〜」
「いや、好きなのは鰻じゃなくて翔さん……」
「まあまあ、じゃぁけいちゃんもよぶわね!
みことちゃんとパパさんもさそいましょう」
「多分2人共来ないと思うよ」
というか、何でこのリビング家主がいないんだ。二人共在宅してるのに。
いやしかし、そんなことを言っている場合じゃない。さっさと翔さんを回収しなくちゃ。
「ほら!そこのオジサン2人!行きますよ!」
「うーん、今いいところだからちょっと待って」
「おいていきますよ!」
「あはは、急に止めると痙攣が止まらなくなることがあるからな!ごゆっくり!
先に俺たちだけで行こうか。
誉、場所わかってるだろ?いつものあそこ」
「了解」
航院長は爽やかにそう言って立ち上がると、連続ア◯メ絶頂ど真ん中の弟の頭をよしよしと撫でた。本当に頭の中どうなってるんだこの人。
立場的にも一番常識人ぽいのにこんなだから普通に一番怖い。
てか、こんなのが日本を代表する大病院の院長ってどうなんだ。世の中って理不尽だ。
そんなことを思いながら、俺は白い◯塔宜しく航院長の後をついていく。
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