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誉くん×大人カイくん
ソファーで寝転んで本を読んでいるオレの前に誉が腰を下ろした。それからオレの頭を撫でくりまわす。頭が揺らされるので、本の文字がブレて読めたものじゃない。
オレは本から目を離して、眉を寄せながら誉を睨んだ。
しかし誉はそれを気にする様子なんて全く無く、今度はオレを無理矢理座らせるとその横に自分も腰を下ろした。そして誉が取り出したのはブラシとヘアオイル。
数年ぶりに姿を現した誉が、オレの髪に触れるや否や半ば発狂しながら取り寄せた。美容にアンテナの高い玲曰く"すごく高くて有名"なブランドのものらしい。
誉と"別れて"から、なんとなくそのままにしてしまった髪は胸の少し下まで伸びた。
暑いし邪魔で仕方ないので適当に編んで結っていたのだが、それが誉は気に入らなかったらしふい。
やれ絡まってるだとか枝毛がどうだとか、伸ばすならきちんと手入れしろだのなんだのと小言を言われながら勝手に手入れをされて、はや3ヶ月。
「ようやく綺麗になったねえ」
誉はオレの髪をゆったり梳かしながら満足気に言う。たしかにツヤが良くなったのは認めるが、おかげでヘアゴムが滑って外れやすくなってこちらとしては迷惑だ。
「傷みすぎていて、これはもう切っちゃうしかないかなと思ったけど、何とかなって良かったよ。というか、そもそもだけど、何で伸ばしてるの?
不器用で面倒くさがりなんだから、自分で綺麗に手入れなんてできるはずがないことくらい、ポンコツの君でもわかると思うけど」
こいつ、畳み掛けるように遠慮なく人をディスってきやがる。
「恋人の趣味」
勿論誉以外に恋人なんていた事はないが、その人を馬鹿にした態度に無性に腹が立ったのでそう答える。すると誉は目を丸くした。
「カイ、俺は恋人じゃなくて夫だよ」
いや、驚くポイントそこかよ。
そして誉は矢継ぎ早に続ける。
「それから、君ならどんな髪型でも可愛くて好きだよ。髪の毛の1本まで満遍なく愛してるよ」
「お前はどうしてそんなに自分に自信があるんだよ」
「だって君の面倒を見れる生物なんて俺の他にいるの?いないよね。
それに夫である俺以外と恋人関係なんて結んだら不倫だし、そんなの絶対許さないよ」
「兄さんの彼女を寝取っておいてよく言えたもんだな」
「だから寝取ったわけじゃないし、事情があったって言ったじゃないか。俺はいつだって君だけを愛してるし、誠実だよ」
「知るか、嘘つき」
「ともかく、万が一のことがあったら俺は君を一生他の誰の目にも触れないところに監禁するし、相手は細胞の一つも残さないレベルで入念に消すから。おかしなことは考えないことだね」
「脅迫だぞ、それ」
「睦言だよ」
誉は目を細め微笑んで言う。
元々オレに関心を持った人間に対して異常な敵意を持つ傾向はあったが、確実に悪化している。
更に今は何も持たなかった学生の頃とは違って金も地位も権力も持っているから余計にタチが悪い。誇張じゃなく本当にやりきるだろう事が目に見えているので、オレは横を向きながら答えた。
「………嘘だし」
「はあ、よかった。危うくカイの関係者を手当たり次第消すところだったよ。ほら、そんなに数いないからさ、下手に探るよりそのほうが早いじゃない」
「マジで呼吸するように人をディスってくるな、お前は」
「ひどいなあ、俺、一度たりとも君をディスったことなんてないよ。事実の指摘はするけどね」
「……」
ああもう嫌だ。
素なのかわざとなのか知らないが、この無神経さがもう耐えられない。
オレは閉口し、タバコを手に取る。
しかしそれすらもスッと上から抜くように奪われて余計にイライラが募った。
「禁煙中。代わりにキス一回」
「だからそれ、オレやらないって言ったじゃん」
「俺はやってるの」
「勝手に人を巻き込むなよ」
「ほら、こっち向いて」
「ちょ、ムグッ」
勝手にやったオレの血液検査の結果が最悪だったそうで、誉は俺にまた禁煙を強いるようになった。更に"吸いたくなったら代わりにキスして我慢しようね"とか言い始めて迷惑なことこの上ない。
「んんん……っ」
にゅるりと誉の舌が口内に押し入って来る。
昔よりもさらに厚くなったように思えるその胸板は、押し返そうとしてもピクリともしない。
「んぅ、や、やめ……」
仕方なく顎を引くと、離さないとばかりに強く抱きしめられた。
麗らかな午後のリビングに、淫猥なリップ音と水音が響く。
そのキスが深くなるたびに重くなっていく腰にオレは絶望した。
誉によって若い頃からじっくり躾られ続けた身体は、オレの意志とは関係なく勝手にそれを欲してしまう。頭の中が誉で一杯になり始めたのを何とか制しようと歴代徳◯家の将軍の名前を思い出そうとしたが上手く行かなかった。
「おや、もっと欲しくなっちゃった?」
急にスッと誉の舌が離れていく。
オレがついそれを条件反射で追ってしまうと、誉はニンマリと笑ってそう言った。
そしてオレの髪をするするとその手で梳く。
僅かに引っ張られるようなその刺激にすら反応して、下腹がピクピクと痙攣した。
それを見透かした誉が、今度は大きな手でゆっくりそこを撫でる。
「やめ、ろ」
「やめていいの?」
「ンッ」
急にそこをぐっと強く押され、重い腰がビクビクと震えた。そしてその手が離れると同時に腹の力が抜けて……。
「えっ、出ちゃったの?!」
「うるさい、うるさい!」
じわりと広がっていくハーフパンツの真ん中のシミを見て自覚し、オレは顔を覆った。
顔が熱い、何なら耳まで熱い。
誉が膝を割り開こうとするのを力を込めて阻止する。しかし適うわけもなく、いとも簡単に開かされズボンごしにベタベタの真ん中を擦られた。
下着とぬるぬるの精液がこすれて、むず痒いような痛いような変な感じだ。
「やめろ。ゆび、いれんな」
「こんなゆるゆるのとろマンで何言ってんの」
「やだぁ、あ……っ」
「はいはい、気持ちいいね」
再会してからというもの毎日何時間も拡げられている孔は、誉の指を大歓迎とばかりに受け入れてしまう。そのまま前立腺を擦りながら誉はオレの足を広げて体をそこに滑り込ませた。
手際よくズボンを下ろされ、パンツをずらす。
露わになった孔は外気に触れて、きゅんと窄まり誉の指をより強く咥え込む。
「そこまですんなら、パンツ、ぬがせよお」
「これはこれでいいかなって」
「余計恥ずかしいじゃんか」
「なら、このままで」
次に誉はニコニコしたまま己の先端を孔にあてがう。熱いその先っぽの感覚に身を震わせる。
恐る恐る見やった誉の大きなペニス。
口の中一杯に出てきた生唾を飲み込むと、誉がゆっくり頭を撫でながら言った。
「ほら、カイが気持ちいいの、挿入るよ」
それはまだ若かった頃。
慣れぬセックスの快感に戸惑って泣くオレにいつも誉がしてくれた仕草、かけていた言葉だ。
ずんとした圧迫感とともに拡がっていく快感に、思わず熱い吐息が漏れた。
侵入してくる誉を押し出そうといきむと、誉が昔と変わらぬ優しい声で言う。
「拡げるの上手、お利口さんだね」
「やだ、いやだ」
「暴れないの。ほら、よく見て」
「うう、はいってくる」
「そうだよ。お尻気持ちいいねえ」
「きもちくな、や、ああ」
口から出る言葉とは裏腹に、その快感を全身が受け止めて悦んでいる、
中で誉の熱が動くたび、それを感じるたび、たまらなく気持ちいい。
急激に高まる快感に、だんだん訳がわからなくなってきた。
それが怖くて誉の胸を推しながらイヤイヤと頭を振る。すると誉は両手首を安々と掴んでオレの頭上に固定した。
そのまま深く強く奥を突きながら、誉はふうと息を吐き呟いた。
「長い髪を振り乱して感じてるの、なんか凄くエッチで、いい。もっと虐めたくなっちゃう」
それを契機に、誉の攻めが一層激しくなる。
「や、やめ、やだ。やっ!」
逃げ出そうと身を翻したが腰を掴まれ叶わない。
更に思い切り引き寄せられながら腰を打ち付けられた。
誉が最奥の孔をこじ開けるたび、脳が焼け付くような快感が走って意識が飛びかけた。
それなのに誉は気を失うことを許してくれず、尻を叩いて呼び戻してきやがる。
「カイ、寝たら気持ちいいのわかんなくなっちゃうよ。ほら、起きて。おーきーて」
「うう、も、じゅーぶんわかった、から」
「まだまだ、もっと分からせてあげるからね」
「やだよ、もういいって」
「ダーメ。あとやっぱりお顔見ながらしたいな。こっち向いて、ね」
「うう、もうやだ……」
また反転させられて、ぎゅっと抱きしめられた。
そして誉は変わらず腰を強く打ち付けながら、顔中にキスを落としてくる。
そしてオレを見下ろして、うっとりした顔で呟くのだ。
「愛してるよ、カイ」
オレは愛してない。
もう、お前のことなんか全然愛してない。
そう思っているのに。
「愛してる」
こうやって抱きしめながら何度も言われると絆されてしまうからタチが悪い。
こいつが放つ"愛してる"は、呪いだ。
誉はオレを抱きしめる手により力を込めた。
「もう絶対逃さないよ」
ああ、きっとそうだろうな。
オレ自身ももう、こいつから逃げられる気がしないんだ。
☆
「で、結局、何で髪の毛伸ばしたの?」
結局あの後場所をベッドルームに変えて更に3回も連続でヤられ、やっと一息ついたタイミングで誉が言った。
「別に何でもいいだろ、しつけーな」
「君のことは全部知りたい。
もしそのきっかけが他の男なのだとしたら本当に許せないから社会的に消」
「だからそういうのやめろよ、気持ち悪いな」
オレはそう言って誉に背を向けた。
しかし誉は俺の体を無理矢理反転させて自分の方に向け、抱きしめてくる。
その上で諦め悪く何度も聞いてくる。
もうあまりにもしつこくてオレの心が先に折れた。
「お前以外に髪の毛触られんのが嫌だった」
「おや」
しまった、バカ正直に言わなきゃよかった。
そう思ったときには時すでに遅し。
誉は一瞬目を丸くしたが、その後これ以上なくそれを下げた。
そして、
「カイ……そうだったの。
なにそれもうやだ可愛過ぎてしんどい……。
やばい、愛してる。ほんと大好き」
と、感極まっ多様にそう言うとかなり全力で抱きしめ直してきた。
「ちょ、苦しい、やめろ。
てか、なんで弄ってんだよ。
もうしねえよ、やめろ」
「君が可愛いこと言うから勃った。
これは君が悪いよ」
「なっ、アラフォーのクセに絶倫すぎるだろ!
信じられねえ!」
「妻を満足させるのは夫のつとめだからねえ」
「満足通り越してもういいわってなっとるわ。
やめろ、やめーろー!」
「満足してくれてたんだ?嬉しい。
でも俺、こんなもんじゃないよ。
もっとよくしてあげる。任せて」
「任せない……っ」
誉はあっという間にオレを組み敷いてニヤリと不敵に笑った。
これはもう駄目だ、今夜オレはこいつに抱き殺される。
まるで断頭台の前に立つような気持ちで、オレは誉によってゆっくり広げられていく膝を震えながら見つめることしかできなかった。
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