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美世さんちのはなし
いつも通りリビングに入ると、何もない床の上にうつ伏せで横たわっている命くんが直ぐに目に入った。
「またこんな所で寝て……」
俺はため息混じりにその方へ向き、
「命くん、起きて。
こんな所で寝てると白い人に踏まれるよ」
と、肩を揺らす。
が、爆睡しているのか強めに揺らしても起きる気配がない。というか、何だろう、体に力が入っていない。
されるがままにガクガクと揺れる命くんに違和感を覚え、慌ててその小さな体をひっくり返す。
それでも命くんは起きない。
命くんの目は固く閉じられたままだ。
「ちょ、命くん、命くん?」
鼻息すら聞こえなくて、頬を撫でる。
信じられないくらい、冷たい。
焦って左胸に耳を当てる。音がしない。
「え、うそでしょ。命くん、命くん……」
まさか、まさか。
そう思いながら更に強くその身体を揺らしていると、背後からボソボソッと声が聞こえた。
いや全然聞き取れんわ、そう思いながら振り返ると、立っていたのはお義父さんだ。
家主のくせに何故か屋根裏に潜んでいる彼の姿を見たのはかなり久しぶりだ。
そしてその義父が降りてくるということは、やはりただごとではない。
命くんは、命くんはもしかして、もう……。
そう胸が苦しくなった時、お義父さんはジャージのポケットから小さな何かを取り出した。
それを命くんに向けて、ボタンを押している。
ピッという電子音が鳴った。
え、スイッチ?
そう思った時、腕の中の命くんがパッチリと大きな瞳を開けた。
そしてそのタイミングで、軽やかな笑い声とともにリビングの戸が開く。
声の主は例の外国人男の娘と、間違いなく命くんだ。
ちゃんと動いている彼は、俺の姿が目に留まると直ぐにニコニコしながら言う。
「さとるくん、ただいまあ」
半ば混乱しながらそんな命くんと腕の中の命くん(仮)を交互に確認する。
すると、お義父さんが命くん(仮)をぞんざいに
つまみ上げた。
「こら、玲、お前もちょっとは持てよ」
そして少し遅れて聞こえてきたのは、大好きな翔さんの声だ。
いや、待てよ。
確か男の娘と命くんの2人で夕飯の買い出しに行ったはずだ。翔さんも一緒だったなんて聞いてない。だったら俺も一緒に行きたかったのに!
「やぁよ、レディはおもたいのもてないのよ」
「何がレディだ、男だろ、お前は」
そう悪態をつきながらも荷物をきちんと持ってキッチンに運んでやる翔さんはとても優しい。
神過ぎる。好きだ。大好きだ。
今すぐ抱いてほしい。
「あ、理、仕事終わったのか?
って、え、命くん?」
「なあに?」
「いや、君じゃなくて。理が抱いてる……」
「ミコミコ1号でござる」
そこでようやく口を開いたのがお義父さんだ。
彼はそう言うとぞんざいに俺の腕の中の命くんを拾い上げる。
「スーパーリアルラブドール ミコミコ1号でござるよ」
「……………はい?」
「うわ、すごいですねー!」
聞いた瞬間呆れる俺とは反対に、翔さんはパッと顔を輝かせてお義父さんの元に寄る。
そうだ、忘れていたけどこの人工学部だし、やはりロボット工学とか興味があるんだろうか。
「歯もある!舌もすごくリアルですね!」
「リアルなのはここだけじゃないでござるよ」
「命くんの可愛い胸も幼児体型な薄いお腹も完璧に再現してるじゃないですか!」
いやなんかもう我が夫ながらそこまで命くんの体を熟知していることが気持ち悪いし妬ましいんだけど。
「コッチもバッチリでござるよ」
「ちょっ、やっそこまでは……」
「命のク◯ち◯ぽ好きでござろう?
後ろもホラ……おや、ちょっと興奮してきたでござるな?」
「い、いや、そんな」
自他ともに認めるロ◯コンの翔さんだ。
お義父さんはニヤリと笑むと翔さんのペニスをズボン越しにヤワヤワと揉み始める。
「そんな時のためのミコミコ1号でござる」
「いや命くんの気持ち考えて」
横でスンッとなっている命くんがあまりにも哀れで思わず叫ぶ。
「絶対本人のほうがいいでしょ、生きてるんですよ」
「わあ、お口の中、あったかい…。
ぬるぬるでふにふにだー」
「もう少しゆっくり腰進めて、上手でござる」
「ちょっと、ちいちゃいこにこんな……背徳感がヤバいです」
「ふふ、好きにして良いでござる。
そのためのミコミコ1号でござるよ……」
「ちょっと待ってちょっと待って、何挿入してるんですか!!てか、そもそも!そもそもなんで翔さん挿入できてるの!」
「命くんなら全然勃つ」
「ひどい!!!!」
「俺もさっき抜いてみたでござるが、本物の命と変わりないでござる。
もう命の孔は不要でござる」
「人の心!」
横の命くんの瞳から光が消え、虚無ってるので思わず叫んだが、義父と夫(と言い張る)は気にすることなくお楽しみ始めてしまう。
なんならお口に翔さん、後孔に義父という分担で3Pを始めそうな勢いなのが見ていられず、
「命くん、あの、大丈夫?」
と、その小さな体肩をポンとしながら声を掛けた。
すると命くんは、
「ひどいよパパ!」
と、珍しく声を張り上げた。
そしてズンズンとお義父さんの方へと大股で向かい、スポンと服を脱ぐ。
プロの早着替えもビックリするほどの速さだ。
「ぼく、今日はミコミコ光る下着プレミアムなんだよ!
そんな白ブリーフよりずっともえもえきゅん★なんだから!」
「えっ、えっ、命くん待って尊い」
「翔さん、拝まない」
「ホラ、パパ!ボクならこんなポーズもできるよ!好きにして!めちゃくちゃにして!!」
命くんはお義父さんの目の前で可愛らしい悩殺ポーズを見せつける。
翔さんは既に興奮がやばい、見ていてわかる。
その興奮をなぜ俺に向けてくれないのか。
その一方で、お義父さんはと言うと。
「あ、今そういうのいいでござる」
右手のひらをスッ前に出し完全拒否である。
確かあのミコミコの下着は、お義父さんが特注で作らせ、珍しくテンション高めに命くんに着せて商材を撮影していたやつだ。
決して気に入ってないわけはないと思うのだが。
「わああん、ひどいよパパ!」
「何でそこでそんなにスンッてなるんですか」
「今は翔と2.5次元のミコミコ1号にモエモエキュン★してるでござる。3次元には興味ないでござる。
空気読めでござる」
「めんどくさ……っ。
てか、3次元から次元下げるの逆に新しすぎるでしょ」
こちらに泣きついてきた命くんを宥めつつ問う。
しかしお義父さんの興味とテンションは本来向くべきである命くんではなく、ミコミコ1号に向けられている。
ミコミコ1号を抱き直し、翔さんに何か話し始めたが、小声で早口且つボソボソ言っているので勿論聞き取れない。
しかし翔さんはそうではないようで、感心しながら耳を傾け、素人童貞らしく律儀に興奮している。
だから何でその興奮を俺に向けてくれな……あ。
そうだ、いいことを思いついた。
「お義父さん、ちょっとお話が」
「お前もミコミコ1号に興味があるでござるか?」
「ええ、まぁ。お願いがあるのですが……」
そしてお義父さんに耳打ちをする。
★
後日。
「なんだコレ」
翔さんは、俺の横のものを見て思い切り眉を寄せる。割とのっぺりした顔をしているのに、そんなに眉間にシワができるなんて新しい発見だ。
愛しすぎる。
「ミコミコ1号が大層お気に入りの様子だったので!作ってもらいました。さとるくん1号です!」
「何だって?」
「ミコミコ1号の技術を活用し、高校1年生頃の可愛らしい俺を完全再現してもらいました。
更に趣味で培った技術で俺の思考に近い感じのAIによる会話も可能です!ちなみに声も当時のものを再現しました!」
さあ、と翔さんにそれを押し付ける。
「翔さん、ほら、可愛い俺ですよ!!」
『センパイ、スキデス。ダイテクダサイ!!』
「うわ気持ち悪い!」
「ええっ」
翔さんは、ていっと勢いよくそれを横に投げ、3歩後退りする。その顔はドン引きで真っ青だ。
「えっ、何でですか?!小さい子好きでしょ!?」
愛する人の予想外の反応に慌てつつそう尋ねると、翔さんは真顔で言った。
「いや、俺、男は無理」
「なんでだよ!!!!!!!」
思わず全力でつっこむが、翔さんは当たり前のことのように言うのだ。
「ちんこついてたら無理」
「命くんにも付いてる!!!!!!!」
全く不条理だ。
『チッ、非処女童貞のフィジカルメスなメンタルノンケが』
「おい、理、なんだって?!」
「俺じゃないです、さとるくん1号です!」
「お前の思考に近いAIだとかなんだとか言ってたよな!」
「……言ってましたっけ」
「言ってた」
『普段人の話なんて聞いてないくせに余計なとこは聞いてるんだからタチが悪いよ』
「理…?」
「だから俺じゃないですってばぁ」
「うるさい、こんなのスクラップにしてやる」
「あぁっ」
そしてプリプリと怒った翔さんは、さとるくん1号を引きずりながら部屋を出ていってしまったのだ。
ちなみにだが、このさとるくん1号はこの後改修されてカイくん(15歳)1号となり、誉さんにかなりの額で引き取られまた一悶着起こすのだが、その話はまたの機会にしようと思う。
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