9 / 72

二人で過ごす昼休み_02

 ぶにゃと鳴くからブニャ。そう勝手になずけて煮干しを与え続けた。  すると匂いを覚えてくれたようで、餌が無くても寄ってくるようになった。  やっと懐いてくれたと沢山撫でて美術室へと行く。  ブニャがそろそろ鳴く頃かと下を覗き込めば、誰かがそこにいる。  誰だろう。  俺のようにブニャの噂を聞いて見に来たのだろうか。  知らぬにおいに警戒したか、ブニャも出てこない。  次の日、更に次の日もその姿はあった。  そんなに猫に会いたいのか、それともそこで一人で過ごしているのか。なんだか気になる。  なんとなく手にしていたスケッチブックと鉛筆。  黒く塗り潰すか、何も描かないか、ずっとそんなだったのに。  手が自然と動き出す。  出来上がった絵は後頭部の絵だった。 「なんだこれ」  見た瞬間、なんだかおかしくなってきて、一人でくつくつと笑いだす。  なんでこんなものを描いたんだろう。 「あははは、他の奴が見たらなんていうかな」  俺と同じ反応をするだろうか。それとも、また描けて良かったねと言ってくれるだろうか。 「……また、描くことができた」  描きたいって気持ちと描けた喜びが涙となって溢れた。  次の日も、次の日も、後頭部ばかりを描いていたが、そろそろ、それ以外も見てみたいと思うようになった。  今日も彼は来ているのだろうか。  何か話すきっかけはないか、そう思っていた所にブニャの鳴き声が聞こえた。  今まで出てこなかったのに珍しい。  そう思って下を覗き込むと、何かを手に持っている。  もしかして食べ物だろうか。その匂いにつられて出てきたのかもしれない。  これはチャンスだ。  ブニャの煮干しを手にし、ベランダへと出て彼に声を掛ける。 「おい、そいつにやれ」  と。

ともだちにシェアしよう!