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二人で過ごす昼休み_03

 彼が上を向いた瞬間、運悪く顔面に煮干しの入った袋が落ちた。 「おー、顔面キャッチ」 「なにしやがる」  怒っている。当たり前だわな。  地味に痛いだろうし、なによりも煮干し臭い。 「ブニャのお昼。食わせてやって」  というと、彼はしゃがみ込んで煮干しを与え始めた。  傍に行ってもいいよな。折角、きっかけができたのだから。 「すげぇ食いっぷり」  その姿を眺めながら、口元を綻ばす彼の横にそっと立ち、 「お水」  と水を差し出した。  傍にいたことに驚いた彼が、目を見開き俺を見る。 「アンタ……」 「アンタじゃない。俺は三年の橋沼総一(はしぬまそういち)だ。君は?」 「俺は二年の田中秀次(たなかしゅうじ)」  近くで見た彼は、見た目に気を付けていて、女子にモテそうな顔をしている。背は高く良い体格をしていた。 「意外と良い身体つきをしているな」 「俺よりも橋沼さんの方がすげぇじゃん」 「まぁな」  そう、俺は田中よりも更に背が高くて体格も良い。  親父も、祖父も体格がよい方だから、それもあるのかもしれない。  それにしても、何故、一人でいるのだろう。 「飯、ここで食べていたのか」  そう、食べかけのパンの袋を指差す。 「あぁ。教室、ウルセェし」  教室の喧騒から逃れてきたのか。だからかと納得した。 「確かに。なぁ、一緒に食わないか?」  静かな美術室なら大丈夫かなと、誘ってみるが、 「あ?」  嫌そうな顔をされてしまった。  さすがに、強引過ぎたか? だけど名前まで知ることができたんだ。もう少しだけという気持ちが勝る。 「行くぞ」  と腕を掴み、強引に引っ張った。 「離せよっ」  払い除けられそうになり、さらに力を込めた。すると、抵抗するのをあきらめて力を抜くのを感じた。 「行くから離せ」 「よし」  美術室まで連れて行くと、中へと入るのを躊躇う。 「え、入っていいのかよ」  部員でもなんでもないのに良いのかと、その表情が物語る。 「いいよ」  とポケットから鍵を取り出す。本当はそんな特権はないけどな。 「アンタ、そのガタイで美術部かよ」  やっぱり、そう思うよな。運動部、しかも柔道部員だと間違われることが多い。 「それ、よく言われる。持ち腐れって」 「は、そりゃ言われるだろ。それだけ良いガタイをしてたら」 「格闘技は好きだぞ。でも見る専門」  と机の上に置かれているプロレス雑誌を指差す。  従兄がレスラーをしていて、雑誌の表紙を飾っていた。 「利刀(としかた)」  知っていたか。レスラーとしては小柄な方だが、空中に高く飛び華麗に技を決める。 「お、好きか?」 「あぁ。この前の試合、凄かったな」  相当好きなんだな。俺の従兄が利刀のメディカルトレーナーをしている。  実は俺も顔見知りなんだけど、それを話したら会わせろと言いそうだな。今はまだ秘密にしておこう。

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