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二人で過ごす昼休み_04
暫くはプロレスの話をしていたが、田中の視線が机の上のスケッチブックに向けられる。
「なぁ、どんな絵を描くんだ?」
「見るか」
それを手に取ると田中に渡した。
「へー、すげぇ……、え、これって」
花瓶と花、林檎、彫像、空、鳥、猫、黒く塗りつぶされたもの、描きかけの何か、そして後頭部が続いている。
まぁ、そういう反応になるわな。
「あぁ、お前の後頭部」
というと、驚いた顔をする。
「俺の事、知ってたのかよ」
「あぁ」
すると、いきなり怒りだして、スケッチブックを机の上に叩きつけた。
「ざけんなっ、ボッチだと思って同情したのかよ」
全然、そんな事など思ってはいなかった。
「違う」
というが、どうやら怒りは収まらないようだ。
「じゃぁ、なんだって言うんだよ」
「見てみたいと思ったんだ」
それだけだと、勝手に描いてごめんなと手を合わせる。
「実は、スランプ中で、ずっと描けなくて。先生が昼休みにここを使っていいよって鍵をかしてくれて。描きたいって気持ちになるまでここでぼーっとしてた」
ブニャがきたら餌をやろうと外を覗いたら俺が居て、暫く、眺めていたと素直に言う。
「それから何度か見かけるようになって。どんな子なんだろうって興味が出てきてさ、君を見ていたら描きたくなって、で、この絵の出来上がり」
と後頭部の絵が描かれたぺーじを開いてみせた。
「何か話す切っ掛けがないかと思っていた所に、ブニャが出てきて。あぁ、チャンスだなって」
「は、俺なんかと話したいなんて思うなんて、物好きだな」
口元が緩みかけている。それを隠したいのか、必死で耐えていた。
嬉しいんだな、田中。
こちらもつられて口元が緩みかけた所で、田中の表情がかたくなる。
少し懐きかけたところだったのに。
「戻るわ」
「そうか」
迷惑だったか? そうだとしたら悲しい。
それが顔に出ていたか、田中が困ったというような表情を浮かべていた。
「田中、俺、昼は美術室にいるから」
「……まぁ、ここは静かだし、来てやってもいいよ?」
よかった。
一人でも平気だと思っていたけれど、話し相手がいる方が楽しい。
それに、どうしてかな、田中の事を放っておけないと思ってしまったからだ。
教室に帰るのを見送り、俺も美術室を出る。またあした、田中と昼休みを過ごすのが楽しみだ。
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