26 / 72

友達+α_05

 美術室には、三年の教室と同じ棟になるので俺の方が先につく。  椅子を一つ持ってきて座って待つことにした。 「俺がいたら、田中の奴、嫌なんじゃないの」 「まぁ、そうだろうな。苛められたし」 「あれは、そういうんじゃない」  たまに悪ふざけが過ぎるが、根は良い奴なんだ。悪い事をしたときちんと反省もしている。  それに友達思いだ。一度、懐に入れた相手にはとことん優しい。  田中もそうなれたらいいのに。まぁ、こればかりは冬弥しだいか。 「あ、きた」  足音が近づいてきてドアが開き、そして、冬弥の姿を見て驚いている。  冬弥が手をひらひらと振る。表情が見えないが、田中が苦笑いを浮かべて向かい側の椅子に座る。  すると冬弥は前屈みになり顔を近づけた。なんだか、睨み合っているようにしか見えないぞ、二人とも。 「俺は総一のお友達で、尾沢冬弥(おざわなおや)ね。彰正と同じクラスだろ。アレの兄貴ね」 「委員長の兄貴かよ」  兄弟といっても冬弥と彰正は血がつながっていない。親同士が再婚し家族となった。 「あぁ、だから知っていたのか」  例の事を、と、田中が目を伏せる。 「言っておくが、彰正じゃないぞ。お前と同じクラスの女子から聞いた」  どの学年にも仲の良い女子がいるのだから、聞けば情報はすぐに手に入るだろう。  話しは田中の黒歴史にまで発展し、流石に聞いていて痛々しくなってきたので止める事にした。 「冬弥、いい加減にしなさいよ」  田中を守るように頭を抱きかかえると、 「甘やかすなよ、コイツの事」  と田中の額を冬弥が小突き、俺はやめなさいとたしなめた。 「お前がとやかくいう事じゃない。田中はちゃんと解ってる。な?」  俺は田中を信じているぞ。そんな思いを込めて見る。 「葉月にはきちんと謝るよ」  決意を込めた目で俺を見返してそう言った。  ほら、冬弥、言った通りだろう。俺は良くできましたと田中頭を優しく撫でた。 「総一」  冬弥が呆れたといわんばかりにため息をつく。それでも甘やかすことはやめない。  次はお前の番だぞ。言う事があるだろう? 「ほら、冬弥も」 「わかってる。悪かった田中」  お、言ったな。俺の顔がニヤニヤとしているのに気が付いたか、頬が赤く染まっている。  そして俺に何か言われる前に、逃げるように教室へと戻って行った。  謝ってくれてありがとう。やっぱり好きな二人がいがみ合うのは嫌だからな。  よし、次は田中の番だな。  俺は田中の首に腕を回し、そのまま椅子から引きずりおろすように倒した。 「うをっ、何!?」  目がまん丸くなっている。身動きが出来ぬようにしっかりと押さえ込んだ。 「橋沼さん、苦しい」  ギブと腕を叩かれ、俺は顔を横にずらして耳元に、 「田中、頑張れ」  と囁く。  少しでも勇気がもてるように、俺ができるのはこれくらいだから。

ともだちにシェアしよう!