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気づかされること_03

 あの日から美術室へは行っていない。メールも電話も着信拒否にした。  美代子さんに会えるの楽しみだったけれどな。結局、会う事は叶いそうにない。  プレゼントは彰正に頼んで総一さんに渡してもらおう。 「なぁ、頼みがあるんだ」  俺が何を頼みたいのかを察したか、 「ごめん、それは聞けない。兄貴に頼んでも駄目だぞ」  そう言われてしまう。たぶん冬弥さんだ。俺がプレゼントの事を頼むだろうと見透し、彰正に言っておいたのだろう。  これでプレゼントは総一さんに会って渡す以外に手立てはなくなった。  しょうがないよな。捨てるのは勿体ないからプレゼントは母親に渡そう。 「いや、もういい」 「田中」  心配そうに俺を見る彰正から離れ、俺はパンの入った袋を手にする。  昼休みはブニャに会う事もできないので、屋上で食べている。  食べた後は寝っころがって空を眺める。ひとつも楽しくない時間の過ごし方となっていた。  なんか、以前の葉月みてぇだな。  そんな事を思っていたら、目の前に葉月の顔が現れて、 「うぉっ」  と声をあげて身を起こした。  ビビったじゃねぇか。突然現れるものだから、心臓がバクバクしている。 「なんだよっ」 「あ? 具合でも悪ぃのかと思ってよ。そんだけ元気なら大丈夫だな」  しかも、弁当を広げ、食うかと俺に差し出してくる。どんだけマイペースなの、お前。 「いらねぇよ。ていうか、なんでここで食ってんだよ」 「俺の勝手だ」  そりゃそうだろうけど、ここでなくても他に場所はあるだろうが。  神野と仲良く食っている姿を見せつけたいのかと思ったが、そこには葉月しかない。 「神野は」 「女子につかまった。だから先にきて食べてる」  相変わらず、モテモテだな、アイツは。 「なぁ、俺の顔なんて見たくねぇんじゃないのか」 「ん、何でだ」 「謝ったといってもよ、俺はお前に」 「あぁ。別に。喧嘩を吹っかけられても、俺の方が強かったし」  確かに、拳では勝てなかった。 「そうだけどよ、いろいろ、嫌な事をした」 「あぁ。でも今はしないだろう。だからそれでいい」  なんて心が広い奴なんだ。喧嘩もだけど、人としても勝てねぇわ。 「あの頃の俺は、自分の事しか考えていなかった」  喧嘩をしても負けない自信があった。だからびびらせて黙らせるような事をしてきた。 「え、いいんじゃねぇの。俺だって自分の事しか考えてねぇぞ」  目をぱちぱちとさせ俺を見る。  なんか、気が抜けるわ。葉月と話をしていると。  葉月の隣に弁当箱が一つ置かれている。毎日、神野の為に作ってくるなんて、本当に仲がいいな。  総一さん、今頃どうしているかな。美術室に一人でいるのだろうか。それとも友達と一緒に教室でたべているのだろうか。 「田中、どうした」 「あ、別に。腹減ったなって」  総一さんの事は考えるな。いつまでもあの人の優しさに甘えていては駄目だ。 「神野の分、食っていいぞ」 「いや、食う訳にいかねぇよ」  神野の為に作ったんだろう? 俺が食ったら、ねちねちと嫌味を言われるだろうが。  それに俺にはパンがある。それを主張するように袋を掲げれば、 「それは俺が食うから。弁当を食え」  と差し出してきた。

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