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勝利のキス_02

 赤ペンの指輪は、風呂にはいったら消えてしまった。  赤い糸が切れたぞと、小指の画像を送ったら、次の日、赤い刺繍糸で編んだものを小指にはめられた。 「これで消えないだろう?」  と口角をあげる。 「消えねぇけど、恥ずかしいだろ」 「お揃いのリングを買うまで、それで我慢して」  なんて、さらりと言いやがる。 「はめねぇからな」 「えぇ、秀次好みの、見つけたんだけど」  とスマホの画面をこちらへと向けた。  う、確かに俺好みな……。 「利刀さんから、お勧めの店を教えて貰った」 「え、利刀? なんで」  利刀って、あの利刀だよな? なんか、随分と親しげな感じだけど、まさか知り合いかよ。 「実はさ、従兄が利刀のメディカルトレーナーをしていてな。昔は練習を見学しにつれていってもらっていた」  なに、それ、すげぇ羨ましいんだけど。  それにしても、知り合いだってなんで教えてくれないんだよ。 「教えてくれてもよかっただろ」 「悪い」  会わせろと言いそうだなって思っていたんだろ。だから秘密にしていたんだな。  そりゃ言うに決まってるだろう! 近くで見てぇよ、技を掛けているところ。 「今度、従兄に頼んでみるから」 「期待してっからな」  美代子さんに会う以外に楽しみがもう一つ増えた。 「嬉しそうだな」  と、俺とは逆に総一さんはつまらなそうだ。 「言っておくけど、会えるのは嬉しいけど、総一さんが一緒だから、だぞ」 「まったく。お前は可愛い事を言ってくれるなぁ」  総一さんが俺を後ろから抱きしめ、首のあたりに顔を摺り寄せる。  弁当は食い終えている。だから時間までこのままでいいかと俺は身をあずけた。 「イチャイチャタイムだな」 「なんだ、その恥ずかしネーミング」 「いいだろう、二人きりなんだし」  そうだけど、こっちが照れる。 「で、なんで俺のシャツのボタンを外すんだ?」  まったく、油断ならねぇな。総一さんの手を掴み、やめさせようとするが、 「上半身を描こうかと」  と傍に置いてあるスケッチブックを広げて見せる。後頭部の後に弁当のおかず、食いかけのパン、俺の手、唇、シャツの隙間から見える鎖骨……、おい、何描いてんだよ。 「なんだよこれ」 「え、秀次の手に、唇に、鎖骨、今日はここを」  と手がいやらしい動きで胸を撫でた。

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