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勝利のキス_03

「おぉい、誰が触ってイイといった?」 「ん、目の前にあったら触るだろ?」  と指が俺の乳首を摘まむ。 「総一さん、痛いんですけど」  女じゃあるまいし、そんなとこ触っても感じねぇし。 「男でも、触っているうちに感じるようになる」 「へぇ、それって自分ので試したのか、そういう相手でもいるのかよ」 「冬弥が言っていたから」  なんだ、冬弥さんかよ。あの人、節操なしそうだものな。  ホッと息をはくと、総一さんがにやにやとした表情で俺を見ていた。 「何」 「今、嫉妬したよな」  うっ、その通りだよ、悪いか。  総一さんだけじゃなく、俺だって好きな人を独占してぇし。  でも俺は素直にそうとは言えなくて、 「ともかく、これ以上さわるなら、膝十字固めな」  と話を元へと戻した。 「わかったよ」  それ以上、しつこく聞かれる事は無く、手が離れた。  俺は急いでシャツのボタンをとめ、 「総一さんは待てを覚えような」  まるでワンコにマテをさせるように、顔の前に掌を向ける。 「おいおい、俺はワンコじゃないぞ」 「前に、匂いを嗅がれたし」  十分、ワンコっぽかったぞと言うと、 「ワンワン」  そうやってふざけながら俺にじゃれつく。首の付け根に鼻を近づけ、それがくすぐったい。 「秀次のそういうところだよ、俺が我慢できなくなるのは」  そういうところって、どこよ。自分じゃ解らねぇよ。  総一さんの頭をかき混ぜるように撫でると、首を舐められた。 「うわ、ちょっと」  驚いて頭を押すと、唇を舐める姿が目に入る。  あれは、得物を前に食べる気満々の肉食獣、みたいな。 「膝十字固めっ」  してやるつもりだったのに、技じゃなくて言葉しか出ない。 「やってほしいのか」 「そんなわけあるか」  だめだ、俺自体が墓穴をほってるな。 「隙だらけで、押しに弱くて、少し天然な所、好きだぞ」  く、ムカつく。  悔しまみれにヘッドロックを掛けて降参を狙えば、そのまま床に押さえ込まれる。 「総一さん」  ワン・ツー・スリーとカウントを取り、 「俺の勝ちだな」  と口角をあげる。 「勝利のキス」  唇を指でとんと叩き、俺にキスを促す。  総一さんには敵わないわ。  口元が緩む。彼の持つ雰囲気が、俺の心をほっこりとさせる。 「はいはい、おめでとさーん」  俺は首に腕を回すと総一さんの唇へ、勝利のキスを贈った。 <秀次・了>

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