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君は俺のモノ_05
「はじめて秀次にあったのはこの場所だった」
そうだなと、秀次が下を覗き込む。
「一緒に弁当を食べるようになって、俺にとって昼休みは特別な時間になった」
「俺だって、そうだ。教室に居づらくて、ここでブニャに会って、総一さんと昼を過ごせるようになった。楽しくて……」
そう俺の方へと顔を向ける秀次の表情は柔らかく、それを見ていたら胸が切なくなってきた。
秀次を抱きしめたい。
俺は秀次の手をつかみ中へと入ると、腕の中へとひきよせた。
「ずっと寂しかったぞ」
声を聴きたかった。温もりを感じたかった。
「ごめん」
「恋人として無理だとしても、友達でいて欲しい、俺はそう言った」
それすら答えてくれなかったよな。
「……ごめん」
「けして恋人になれなくても、お前が傍にいない方が辛いよ、俺は」
だから、友達としてやり直させてほしい、そう秀次に告げた。
「ごめん、無理だ」
何度も謝らないでくれ。それって、俺と一緒にいるのは無理だと、そういうことなのか?
「それも駄目か」
嫌だ、俺はもう、お前無しでは生きられない。
さっと血の気を失う。足元から崩れ落ちてしまいそうだ。
頬に暖かいものが触れる。それが秀次の手だと気づき、ビクッとして肩が揺れる。
「あぁ、駄目だよ。友達よりも欲しいものがあるから」
友達よりも?
「それって」
何?
「恋人にしてほしい」
恋人、いま、そう言ったよな。
緊張が解けて顔が緩む。
「はぁぁ、心臓に悪いぞ、秀次」
完全に振られたかと思ったと、肩に頭をのせる。
「もう、何があっても離れねぇよ」
「そうだぞ。約束しろ。俺に寂しい思いをさせないって」
互いの額をくっつけあい、
「誓うよ」
と手を掴み、指を絡ませて、ゆっくりと唇が触れた。
「指輪があれば結婚式みたいだな」
ほう、と息を吐き、そんな事を呟く。
「指輪はないけれど」
今はこれで。俺と秀次の小指に赤いペンで円を描く。
「運命の赤い糸、なんてな」
「ばっかじゃねぇの」
と照れる秀次。小指につけたハートマークのおまけに気がつき、
「ちょっと」
何だよこれというように俺の方へと向けた。
「愛してるって証」
「じゃぁ、総一さんの方にも描けよな」
俺につけても可愛くないから。ペンを奪おうとするが、とらせないとペンを高くあげると、つま先立ちしても届かない。
「だめ、これは秀次だけ」
「ずりぃ。俺も愛してるって証をつけさせろ」
「わかった。ここにマーキングしていいぞ」
と鎖骨を指さした。キスマークをつけろって意味なんだけど、気が付いたか?
「なっ、ふざけんな」
どうやら解ってくれたようだな。顔が赤くなっている。
「ま、次のお楽しみってことで」
頼んだぞと頭の上に手を置いた。
「は、噛み痕をつけてやらぁ」
よいな、それも。くっきりと痕が残るくらい噛んでもらおうか。
「約束な」
と、秀次の手を取り、小指のハートマークに口づけた。
スマホに送られてきたメールに、俺は口を押さえながら必死で耐える。
可愛い過ぎるだろ、これ。
赤い糸が切れたぞと、小指の画像だぞ? やばい、これ、フォルダーに保存しておこう。
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