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第2話

 扉の向こうから洗濯機の回る軽快な音が聞こえてくる。ズボンを洗ってくれている家主は、自分が着替えるより先に「洗ってあるんで。」と乾いた洗濯物の山からジャージのズボンを引っぱりだしてくれた。  公園から徒歩十分、多少散らかってはいるけれどきれいに掃除された部屋が意外だった。 「なんか、こう、イメージと違うな。」 「どこが?」  そもそも十九歳の男の子の生活なんて知らないことに気が付き、佐治は苦笑した。敢えて言えば女っ気がない。学生の頃は友人の部屋に行けばどこかにエロ本が転がっていたけれど、ここには女の痕跡はない。 「床が見えてる。」 「当たり前っしょ?」  あきれ顔に微笑み返しながらベッドに腰かけていると、滝がおもむろにジッパーを開いてズボンを下した。形のいい膝の骨が浮き出ている獣のような脚、筋肉の張った太腿から腰にかけての野生的な線。日に焼けていない太腿の肌は白く、恵まれた肢体が艶めかしく浮かび上がる。むせぶような色気に佐治は喉を上下させた。滝が部屋着のズボンに腕を伸ばすと、Tシャツの裾から臍の近くに黒い線が見えた。 「それ、もしかしてタトゥ?」 「あー、うん。若気の至りっつーか。」  十九歳の言う若気がどんなものなのか、と言うことより臍周りに彫られた唐草のような模様が気になった。  見る?とでも言いたげな顔でTシャツの裾を胸元まで無造作にたくし上げる。鍛えられた腹筋の上に、密教風の輪が臍を囲むように描かれていた。 「これ、日輪なんす。」 「近くで見てもいい?」  何でもないはずの問いに滝は一瞬戸惑った。いつも温和な表情の佐治が笑っていない。射貫くような眼差しに胸の奥が反応して、高揚する気持ちが小さな塊を作り出してゆく。  視線が絡まり、強く張られた緊張感の糸が躊躇う身体を手繰り寄せる。微かに頷いた滝の足元に佐治は膝立ちで近づいた。一番繊細で敏感な部分にすぐに触れられる距離。本能的に体に力が入る。  腕力なら滝の方が上だ。でもそんなことが問題ではなかった。目の前で膝を突いている男の眼差しには抗い難いものがあった。「逃げるな」と教え諭すような瞳が滝の心の中の柔らかい膜を破り、身体の内に甘露を滲ませる。  グラスの中で支え合っていた氷の均衡が崩れてテーブルの上で小さな音を立てた。耳が研ぎ澄まされたかのようにその音を拾いながら、外界の音が遮断されてゆく。早まる鼓動を見抜かれそうだ。  男相手になんで?と思っても欲望は隠しきれない。異性との経験はあるけれど、これまでの相手では満たされきれなかった若い体がそこにあった。体の芯が燃えるような、甘い疼きが止まらない。  ひた、と指の腹が輪の頂点に吸い付く。下から舐め上げるように滝の表情を見ていた佐治が、目を伏せて鼻先をゆっくりと腹に近づけた。 息が当たるのを感じて逃げようとすると、反対の手で腰を固定された。皮膚より少し体温の高いものが腹を撫でてゆく。  湿った柔らかい粘膜が臍の周りをじわじわと辿る感触を認識すると、滝の体の奥に生まれた塊が熱をもって昂りはじめる。腰を掴んでいた手は、いつの間にか薄紙一枚めくるような動きで尻と太腿の間を愛撫していた。

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