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第11話

 港町とは言っても、そんな大それた物はなく、精々でも宿くらいだ。都から少しでも離れれば貧困に喘ぐ民が多くいる。そんな事は都に住む者たちには関係ないのだろうが。ざりざりと細かい石が歩くたびに音を出すのが珍しいのか、温羅は歩いては立ち止まり歩いては立ち止まりを繰り返しながら進んでいく。鴉はその温羅の後ろをちゃんと地面を歩いてついてきていた。  一見すればこんなにおかしな一団もいないだろう。僧の格好をしてはいるが、勝呂の赤い髪は目立つし、温羅もかなり目立つ。牡丹はそのいでたちや、雰囲気が人目を引くことは確かだった。 「あとどれくらいで着く?その場所には」 「そうさねぇ……もう少しだ。あそこに竹林が見えるだろう。あそこさ」  温羅が尋ねれば牡丹が答える。勝呂は何やら思案顔で腕を組みながら歩いていた。赤い髪が揺れる。太陽の光に反射してキラキラと光るさまは本当に魅入るほど綺麗なものだった。 「どちらにせよ、温羅と鴉は表から入れないだろう」 「勝呂は平気なのか?」 「私は平気だよ」 「何故だ」  温羅にそう問われると、勝呂は困ったように笑い、何故と言われても、と言葉を濁らせた。牡丹は愉快そうに笑い、睨みつけてくる温羅の笠を撫でた。 「おや、人の子よ。誰か来るよ」  ピクリと天狗が反応する。勝呂は牡丹に話しかけると空を見上げた。  ――――ピィ―――――――――。  微かに笛の音が耳に入り、温羅は眉をしかめた。嫌な音だと牡丹がつぶやいた、刹那、 「ばれました、か」  頭上の木から声が下りてきた。勝呂はため息をつきながら木を見上げ牡丹は首を傾げるばかりだ。何が起こったのか温羅にも鴉にも理解はできていないのだろう。この場では勝呂がただ一人、声の主を知っているようだった。  木の上に潜んでいたのは人のようだった。或いは人にしか見えない何か。よくはわからないが温羅には人にしか見えなかった。 「降りてきたらどうだい?」 「遠慮しますよ。僕はまだ死にたくないので」  ケラケラと笑う声が木霊する。 「柘榴」 「怖いですね」  勝呂が一際大きなため息をつくと、木の上から木の葉がはらはら落ちてくるのと同時に狐が温羅の足もとに降りてきた。それに首を傾げながらしゃがみ、狐の頭を撫でる。 「貴方が百年鬼ですか………なるほど。噂は確かなようですね」 「噂?」 「いえ、そんな大それた話じゃないんですよ?ただ、陰陽師の式が騒いでいただけの話です」  陰陽師かと呟く勝呂に温羅は首を傾げながら立ち上がる。鴉は空たかくを見上げていた。温羅も見上げてみるが特に変わったものは見受けられなかった。 「柘榴、と言ったか」  不意に牡丹が口を開く。勝呂は訝しげに牡丹に視線を向けるが止める気配はない。 「お前の主は陰陽師じゃないのかな?」 「―――――おやおや、怖い御仁だ」  柘榴はにやりと笑み、勝呂が顔をしかめる。牡丹は溜息交じりにしゃがみ込むと柘榴の首根っこを掴んだ。 「何も仕えたくて仕えているわけではないんですよ旦那」 「同じだろう?それより、温羅の事を知られた以上、このまま帰すわけには行かなくなったね」 勝呂がニタリと笑う。温羅はもう興味がなさげに鴉を見て居た。温羅にとって、陰陽師の脅威などどうでも良いのだろう。或いは知らないか。おそらくは後者だろうが…と、そこまで思考を巡らせながらも勝呂は温羅を見る事なく狐の首根っこを鷲掴みする。 「旦那旦那、もっと丁寧に扱ってくださいよ」 「黙るか、死ぬか、どちらがお好みかな…?」 「黙ります」 まぁどちらにせよ、温羅の存在は既に陰陽師にしれている筈だと勝呂は内心舌打ちをした。 ―――面倒臭い事この上ない。 そのまま歩き出せば、温羅はちゃんと後ろをついて歩いてくる。牡丹はその様子に時折笑い、しかしすぐ勝呂に睨まれていた。

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