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第13話

「………いや、問題はお前ではなく、陰陽師だろう。何が目的なのか知る必要がある」 「俺が行けば分かるのか?」 「温羅」 「俺がその陰陽師とやらに会えば分かるのか?勝呂の知りたいことが」  首を傾げたままでそう問うてくる温羅に勝呂はため息を吐き、柘榴の首根っこを掴んでいる鴉の手をやんわりと握った。ぽとりと力なく床に落ちた柘榴はうなだれたまま身を起こし、まっすぐに勝呂を見上げる。 「――――旦那」 「何かな、柘榴」 「人間は敵です。僕たちは、人の子によって居場所を失くしたんですよ?それを、何故人の血を鬼の中に入れたりしたんですか。その所為で、僕は、こんな――――」 ―――命を、捨てるような事に。 柘榴の声が静かに、地を這うように腹に響いた。かたり、と牡丹と鴉が背にしていた扉がわずかに音を立てて、鴉が半歩ほど体を横にずらした。 「…………柘榴」  温羅がその名を呼び、その頭にそっと手を置いた。柘榴の耳がぴくりと動き、うなだれていたその頭をあげ、けれどすぐにまた床へと戻る。 「――――俺は、どこに行けばいい」  その言葉に、勝呂はわかりやすくため息を吐いた。 きっと、この子供はここで自分が止めようがその陰陽師に会いに行くんだろう。そういう頑固なところは親譲りかと、勝呂は長い髪をかき上げた。そして腕を組むと、重苦しい空気をやぶるように立ち上がる。 ギシリと床が軋んで、牡丹が笑った。 「行くのか?勝呂」 「―――そうだね、ああなってしまうと温羅は迷いがないだろうから」  柘榴を腕に抱いたまま、温羅は砂利道を進んで行った。両脇に茂っている木々の所為か若干薄暗く肌寒い。 先ほどいた建物からはそう遠くはなれてはいないけれど、雰囲気はがらりと変わってしまっていた。ここはすでに陰陽師の領域なのだろう。 目の前を歩く温羅に呆れながらも勝呂は後ろからついて行っていた。その隣には牡丹もいて、腕を組みながら歩いている。鴉はいつの間にかいなかったが、恐らく近くにはいるのだろう。気配を隠すのが得意なようだから、と無理やり納得した。 「柘榴。なぜそんなに震えてるんだ」 「――――それは、まぁ、怖いからでしょう。僕だってできるなら連れていきたくありませんよ」  温羅の腕の中で耳を垂れながら柘榴の発していた声音すらわずかに震えていた。 「僕は妖怪―――旦那たちの味方です。だけど、あのお方はそれを善しとしないお方だ」 「俺を連れて行けば、お前は助かるのか?」 「………わかりません」 温羅の質問に、柘榴はしっぽを一度振り、そう答えた。温羅は首を傾げながら「おかしな話だな」と呟き、柘榴の頭を優しくなでる。そうしてまた無言になり、しばらく歩いていると、古びた家屋の前で温羅が足を止めた。 崩れかけの木戸門の向こうには、平屋が建っていた。 「ここか?柘榴」 「―――えぇ、そうです。そう、なんですが…」  平屋に足を踏み入れたはいいが、人の気配がまるでないなと勝呂はふと息を吐いた。 「柘榴」 勝呂が柘榴の名を呼ぶと、柘榴は温羅の腕から飛び降り、すみませんと一言呟いた。  それが合図だったのか、ヒヤリと一気に空気が冷えはじめ、牡丹が小さく勝呂を呼んだ。 「――勝呂」 「わかってる。これは――」 ――――罠だ。 小さく勝呂が漏らした言葉に反応するかの様にぴしりと平屋の梁に亀裂が入っていく。 「―――っ温羅!」  勝呂が叫んだ直後に、温羅の姿は跡形もなく消えていた。一瞬だけ吹き抜けた強い風に、牡丹の髪紐がチリンと音をたてた。 「………鴉」 勝呂がつぶやいた声に、影から現れた鴉は、何も言わずにまっすぐに勝呂を見つめて「追う」と、目にもとまらぬ速さで飛び去ってしまった。  空中に浮かんでいた鴉の黒い羽根の残骸を手に取り、牡丹がため息を吐く。

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