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花と賭け事(有賀×桜介)
有賀さんは負けず嫌いな割に勝負に弱い。
ということには気が付いていたけれど、別に勝負するような場面もあんまりないし、俺自体が勝ち負けどうでもいい派だったから大して困る事も無かった。
……んだけど。
「麻雀しなきゃいけなくなった……」
秋も深まりつつある肌寒い夜に何を言い出すかと思えば、げっそりとした面持ちの有賀さんは、いつもの狭い部屋の中央、微妙にお洒落なローテーブルの上に広げた分厚い実用書の上に突っ伏した。
成程、散らばっているのはリサイクルショップで買ったらしい麻雀の本だ。
初心者向け! とか、初めてでもわかる! とかいう枕詞がどーんと載っているタイトルを眺めてから、一応なんで? と訊いてみる。
まあ大概こういうげっそりした顔してる時は、止むに止まれぬ仕事の事情なんだよなぁってことは知ってたけど。
「デザイン学校時代の先輩がねー……まあ、大層優秀な方なんだけど僕は個人的にはあんまり同じ道を進みたくないなぁっていう仕事スタイルだけどまあそれは置いといて、要するにその偉い人というか個人的に頭が上がらない人がねー、同窓会っていうか久しぶりに集まろうみたいなさーそういう企画を持ってきまして、ただ飲むのは面白くないしマージャン大会しようとか言い出してさぁー……」
「え、できないなら観戦じゃダメなの? 学校の行事じゃあるまいし、有賀さんの先輩世代ってことは三十前後なんしょ? 麻雀できない人だっているでしょ」
「そうなんだけど、なんか、僕自身に変な対抗心あるみたいでねぇ……『有賀は絶対参加だからな(笑)』みたいなどうにも遠慮したいテンションでお声がかかっちゃって、もう辛い」
「……有賀さんってほんっとファンも多いけど変な敵多いよなぁ」
ほんとだよと毒づいて、ぺらぺらと本をめくってはいるけど全然読む気が感じ取れない。
有賀さんは結構やる気にムラがあって、興味あることにはすっごい集中するけれど、どうでもいいと思っていることは何時間頑張っても頭に入ってこないらしい。
無駄な知識は多い割に実用的な生活能力があんまりないのは、多分その性格が災いしているんだろうと思う。
とにかく麻雀を覚えなきゃいけないのにまったく頭に入ってこない、というその状況は把握した。
それいつまでにやんのと訊けば、来月、と低いテンションの声が返ってくる。
「おとなしくなんとなくのルールだけ覚えてさくっと負けてきたらいいじゃん。その先輩って要するに有賀さんをみんなの前でぶちのめしたいってだけのガキなんでしょ? いいじゃん別に適当に勝たせて気分よくさせとけばさー」
「そうは言うけど、まあ、そうなんだけど、あのー……結構本気で全然ルール自体が理解できないんだよねぇ。そういえば僕、将棋も囲碁も怪しいんだよ。ゲームはさーもっとシンプルなのが絶対にイイよ。みんなテトリスかぷよぷよしようよって思う……」
「あー。有賀さんは世代だよなぁぷよぷよ。好きそう」
「個人的には鮫亀の方が好きだけどね。時間に追われずじっくりやれるのがいい。というわけでサクラちゃん教えてこれぜんっぜん理解できない」
有賀さんが本読んで理解できないものを、俺が口頭で教えて身になるもんなのか非常に怪しかったけど、確かに結構困ってるっぽかったし、しゃーねーなって向かいに腰を下ろした。
俺自身は里倉のおやっさんとかに付き合わされる事が多いから、賭け事的なものは一通り把握している。ただし大して強くない。
だから進んでやるっていうよりは、人数合わせにしゃーないから付き合いますよっていうスタンスでいつも参加していた。
「麻雀教えてよって言っても、モノが無いと説明しがたいんだけど」
俺もやりながらなんとなく学んだ口なので、そもそも基本ルールとか怪しい。
ちょこっと基本の本を開いてみたけど全然わかんなくて、面倒くさいから有賀さんのパソコンで麻雀のフラッシュゲームを開いてもらった。
「まーまずは俺がやりながらなんとなく説明してくってのでいいんでないの。最初から一人でやろうとすっからわっかんないと思うんだよな。とりあえず観ててよ。そんでなんとなく理解してから対戦してみて、って感じでいこ」
「はい……よろしくおねがいします……」
「有賀さんの目標はルールを理解する、だけど、やる気ない状態だとぜんっぜん頭に入んないよね有賀さんってさ。なんか賭けたらちょっとはやり込む気になるんじゃね?」
まあ元々賭け事なわけだし。
俺もおやっさんに引きずり込まれて麻雀参加させられる時は、金じゃないけど次の日の昼飯とか賭けられたりする。勝負自体は勝っても負けても楽しいってタイプだけど、何かがかかってるとなるとついつい白熱してしまったりする。
有賀さんが本気になりそうなものって何かなーと考えたけど、ぶっちゃけリアルに休息時間か俺自身くらいしか思い浮かばなくて、仕事でくたくたなこの人から休息時間を吸い上げる賭けなんかしたくないし、もうあとは自分を差し出すしかないんだけど、いやでも別に恋人だし賭けなくてもそもそもいつだって体差し出してるわけだし。
うーん。
と、悩んでたら有賀さんがぼそりと呟いた。
「脱衣麻雀ってあるよねぇ。あれってひと勝負事に脱ぐの?」
「……あー、いや、いろんなルールあると思うけど。一局ずつ脱ぐとか上がった人以外が脱ぐとか、多分……やったことないしわっかんないけど。俺オンナノコに脱いでもらっても寒そうだから着なよって思うだけだし。え、脱衣麻雀したいの?」
「しなくても別にサクラちゃん普通に脱いでくれるから必要ないんだけどさ、なんかさぁ、例の先輩様の麻雀大会そういうノリっぽくて戦々恐々としてるんですよねぇ……」
「あー……」
つまりは女の子の前で恥かかせよう的なものなのかな。アホだな面倒だなって思うけど、きっと有賀さんだって同じことを思っている筈だ。
案外人間っていうのは子供で、なんでそんなことするのかなぁって思うような人も少なくない。例の先輩とやらも、俺達にはわからない行動原理の人なんだろう。
「僕だって別に女の子のお洋服の中身に興味ないけどさ。流石に人様の前で脱がされるのも嫌だなーって思うくらいの羞恥心は持ち合わせてるわけで」
「よしわかったそういうことなら結構本気で教えるわ」
「え。……え、うん、ありがたいけど、別に恥ずかしいだけで大した被害もないしサクラちゃんがそこまで本気にならなくても、」
「いや困る。俺の有賀さんの裸をタダで拝めると思うなクソがって話ですよ」
「……やだサクラちゃんかっこいい。好き」
「知ってる。いいからサクサク教えるし本気で聴け。本気出すから本気で賭けよう」
なあなあでやるより、何かを賭けた方がきっといい。
そう思って提案すると、暫く唸っていた有賀さんは、『じゃあ負けた方は身体拘束で好きにされちゃうプレイ』なんていうとんでもない事を口走った。
「……え、したいの? 拘束プレイ」
「興味無いわけじゃないけどねぇ。でもアレってどっちもノリノリでやるもんでもないでしょ。ちょっと嫌がってるくらいがこう、燃えるっていうか……負けたっていう不本意感がイイ効果を出してきそうで良いかなぁって」
「それ、俺全力で勝ちに行くけど」
「え。ちゃんと教えてね? フェアにね? フェアにしてから全力出してね?」
「そりゃ勿論いかさまはしないけど、あーどうしようちょっとどきどきしてきた……有賀さんネクタイ持ってたっけ? 俺一回ワイシャツの有賀さんをネクタイで縛ってみたかったんだよねー」
「何怖いコト言ってるのサクラちゃん、え、もしかして僕すっごい危機なんじゃない? 本気で学習しないとすっごい怖い未来が待ってる予感しかしないんだけど、墓穴掘った?」
「どうかな。有賀さんがすんごい麻雀強かったりしたら俺が縛られていろいろされちゃうわけでしょ?」
「……わぁ。頑張れる気がするし頑張んなきゃ怖いね。よし、やる気になったところでお勉強始めようか。良かった、なんかよくわかんないけどちょっと楽しくなってきたよ」
何事もやる気があるのとないのとじゃあ、吸収力が違うよねー。なんて、のんきな事を言う有賀さんの隣で、正直俺は本気で倒しに行こうと決意していた。
* * *
――結果。
「…………サクラちゃん腕痛い……」
敗者は俺のリクエスト通り律儀にワイシャツに着替えて、頭上で拘束された手の下で情けない声を出してくれていた。
わあ。
……なにこれすっごい燃える。
ちょっと久しぶりにむらむらしてきて、ネクタイで縛った手をつうっとなぞる。あおむけに寝かせた有賀さんの手をベッド上の端に縛り付けると、すごく不安そうな悔しそうな目で見あげられてぞくぞくしてしまった。
別にどSとかじゃないけど、こういうちょっと背徳的な行為ってやっぱり興奮してしまう。
あとセックス的なものの時って、どうしても有賀さんがリードするというか、正直普通にうまいので俺も任せちゃうから立場逆転っていうのも珍しい。
別に、今更有賀さんの後ろ開発しようとかは思ってないけどさ。いやしていいならちょっとだけ興味はあるけど、そもそも俺自身オーラルセックスの方が好きだし、入れる入れないにあんまり重きは置いていない。
でもたまには攻めてみたいなーと思うわけで。
だって俺の手で喘ぐ有賀さんとかなにそれすごいかわいいじゃん。普通に俺の身体べたべた触って興奮してくれるだけでもかわいいのに、その快楽を自分が引きだすと思うともうたまらない。
結構怖い顔しちゃってたのが自分でもわかったけど、微妙に怯える有賀さんがまたかわいくて自重なんかできなかった。
「あの、サクラちゃん、あのね……そのー、うん、わかる、わかるし提案したの僕だし全力で挑戦して見事負けたのは僕なんだけど、あの、お手柔らかに、お願いしたい所存でありまして……」
「有賀さんさー、俺が最中にさせてって言うと結構さらっとイイよって譲ってくれる癖に、最初っから立場逆転だと妙に抵抗するよな」
「それはほら、僕も勝負始める前に言ったけど……負けた悔しさってやつもあるよねぇ……あーくっそ……何度教えられてもカンがわっかんないんだよねぇ、ポン、チーまではなんとか理解できるんだけど、あー……くやしい……」
「なんかこれ監禁もののAVみたいだね。こんなイケメンの監禁モノなんか観たこと無いけど」
普通は女の子が縛られるんだろうけど、ベッドの上で恨めしそうに見上げてくるのは見目麗しいイケメンだ。元々色気がある美人系の人だから、本当にこういうの似あうなぁって変な関心をしてしまった。
ゲイが好きそうなタイプとは違うけど、コノヒト好きにしていいよって放り込まれたら全力で犯されそうだ。怖い。ゲイ男は基本ネコになりたがるやつが多いけど、有賀さんはなんか、こう、うん、やられちゃいそうだって思う。
ビビってる有賀さんの白い喉元を舌でなぞって、そのまま鎖骨に吸いつくと、息を殺した後に抑えきれない吐息が漏れるのが聞こえた。
その声が最高にエロくて、良い。有賀さんは本当に全部が俺のツボだ。
「かーわいい。有賀さん、肌結構弱いよね。耳もそうだけど、首とか、鎖骨とか。骨もダメでしょ? 肋骨も」
「……っ、さくらちゃんのえっち……」
「えっちですよ。ゲイだけど健全な三十一歳ですからね俺もね。そりゃあ抜かないとしんどいとかそういう時代はとうに過ぎてますけど、そこにおいしいものがあればいただきますよ。……有賀さんなんてさ、今の俺にとって最上級のディナーじゃん。これ以上欲しいものなんかない」
「もう、それ、すっごい口説き文句なんだけど、サクラちゃんの目が、雄すぎて怖くて、僕どうなっちゃうの……っぁ、ちょ、……ふ」
「どうもこうも悪戯されちゃうだけでしょ。食べたりしないから安心してビビっててよ、そのさぁー不安そうな目、めっちゃかっわいー……腹筋びくびくすんのもちょうかわいい」
「待っ……、は………っ、ちょっと、その、歯ぁ立てるの、よろしくな……ひっ」
ワイシャツのボタンを一個ずつ外して、生っ白い肌に指を這わせると、息を詰まらせてびくんと身体が揺れる。腹筋がひくひくしてて、脇腹をつうっと霞めたら涙目で睨まれた。
「さ、くらちゃんの、えっち……ぁ、いや、その、そこは、ちょっと、ご容赦……」
「何言ってんの自分は散々俺の乳首開発しといてさ。気持ちいいって泣いてすがるまで弄っちゃる。ね、ほら立ってきたじゃん。えへへ、こりこりしててかわいー」
「嬉しくないね、ちょ、……っ、なにこれ、なんか、じわってする……あー……あー、うん、そうかこれキモチイイ、のかな……って待て待て待って待って歯はダメ歯はダメ噛むのはよろしくな……! っん、ふ!?」
「……びくんってした」
コリって乳首噛んで舌の先で舐めまわすと、有賀さんの首が反る。
どうやらやっぱりちょっとM的な要素があるらしく、刺激強いくらいの方が良いらしい。まあ別に強姦じゃないし、遠慮なくちょっと強めに吸いついたり齧ったり捏ねまわしたりしてたら、段々声と息が甘くなってきた。
感じてるんだって思ったらより一層たまらなくなって、調子に乗ってへその下あたりを撫でたら腰を引かれた。そういうの一々かわいい。
「え、ちょ、これ、どこまで僕やられちゃうの……? っは、ぁ、サクラちゃ、その、コリコリって舌先でやるやつよくない……っん、……ぁ」
「なんか楽しくなってきて良くないから乳首責めだけで勘弁してあげる。このままだとガチで食っちゃって有賀さんのトラウマになっちゃいそうだし」
「いや、うん、別に、僕はどっちがどっちとか気にしない、けど……むしろサクラちゃんばっかりそのー、受け入れる方ってしんどくないかなぁって、常々……」
「ん? んー、あー……まあ、確かに俺あんまり入れられるの好きな方じゃなかったけど、でも有賀さんに甘ったるい言葉まみれにされながら虐められんのも、入れられんのも結構好きだよ」
「え。なにそれ、うれしい。うれしいから抱きしめたいのに腕が動かない……」
「……もうしゃーねぇな、取ったるからちょっとおとなしくしてて」
ちょっときつめに縛ったネクタイをどうにかこうにか解くと、間髪いれずにぎゅうって抱きしめられてあっつい頬が擦りよってくる。もーかわいいんだから。本当に有賀さんは隅から隅まで甘くてかわいい人だ。
こんなかわいくて色気のある人の裸を無駄に披露させる気なんか毛頭ない。
「……明日から飯の後に麻雀特訓な。せめて俺に勝てるまでは頑張ってもらわないと困るから」
「サクラちゃん目がマジですけれど」
「マジにもなるだろーっての。俺以外の前で脱ぐとか無いから。町内会のプールだっていやだなって思って誘わなかったんだから。ほんとにいまどき脱衣麻雀ガチでやるアホがいるかなんか知らないけど、もし脱がされたりしたらどうすんのって思うから全力で本気で有賀さんを鍛えます」
「お、おん……なんか、嬉しいんだけど、怖いね。いやでも嬉しいかな。愛されてる?」
「愛してますよばかやろー」
言わなくてもわかってる癖に言葉遊びみたいに首を傾げて笑うのがかわいくて、ホント俺ってば有賀さんに甘いし愛が重いしでも重さ事愛してくれてるから超好きだって思った。
とりあえず、この人の甘い肌は俺だけのモノにしときたいから頑張るよ。
End
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